表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/295

第五章 四、先見と先読み

  第五章 四、先見と先読み



 次の日の午後。

 お昼過ぎならば、多少は寒さもましだからと、訓練はこの時間に決まった。


「ということで、エラ。エイシアと話せるかしら」

 リリアナも私も、自分はほとんど動かないからという理由で、厚手のワンピースドレスのままだった。外には外套を羽織れば、長時間でなければ十分だ。


 私は訓練服に着替えるかと聞かれたけれど、ドレスのままでも動けた方がいいという、よく分からない訓練思考から、それを断った。


「エイシア……」

「あら。何か気になるの?」



 この間までは、エイシアとも仲良くできるかもしれないと思っていた。けれど……。

 私は昨日のことで、エイシアとどのように接したらいいのか、分からなくなっていた。


「あれが裏切ったら……どうします?」

 私は常に、いつかあいつが敵対するのではないかと、頭のどこかで考えている。


「もしも敵なら……最初に出会った時に、すでにエラは殺されていたのよ? あの子にその気はないと思う。前にもそう言ったでしょ?」

 リリアナの意見は、一貫している。


 これが、エイシアの魅了によるものなのか、リリアナ本人の揺るぎない思考なのかが、判別できない。

 私が殺されなかったのも事実だけど、全てが何らかの計画のうちなら……と、考えだしたら止まらない。




「エラ。エイシアが気まぐれなのはその通りよ。でも、狡猾な人間の目を、私は知ってる。油断してはいけない人間の目を嫌と言う程見て来た私が、あの子は裏切らない。そう感じるの」


 たしかにリリアナは、王宮でその兄弟達と、その家臣達と……想像もつかないような政権争いを繰り広げていただろうから……相手を見抜く力は鋭いのかもしれない。


(……私が、リリアナを護る自信がないから、怖いんだ)

 カミサマ頼りだけど、もっと戦えるようになれたら……リリアナのしたいことを純粋に応援できるのかもしれない。


「分かりました。私も……もっと、リリアナを支えられるように頑張ります」

「うん? そんなに大げさに考えないで。十分に支えてくれているわよ」


 リリアナの言葉は、いつも優しい。

 けど、それに甘えてばかりではなくて、そして、自分を過信しないように――もっと真摯に、力と向き合うんだ。




「――はい。それじゃあ、エイシアを呼んでみますね」

「うんうん。あ、正面のお庭に来てもらって。エラを乗せて歩く練習をしましょう」

 私を……。

(やっぱり、また乗せるんだ)


「あ、はい。わかりました」

 リリアナの考えは、私には分からない。

 鎖でも付けて、それを私が引いた方が……従えてる感が出るかなと思ったけれど。






 お庭では、すでに見物の侍女や従者達、ガラディオとシロエも待っていた。


 何だかんだでエイシアは、侍女達にはかなりの人気を誇る。

(特に従者や侍女の皆は、仕事を中断してまで見物に来てるんだものね)


 エイシアと横並びに歩いていると、侍女達は私とエイシアを交互に見比べている。

 私の背の低さとエイシアの大きさは、間近で見るとより一層際立つからだろう。


「エラ! がんばれよ」

「エラ様~! ご無理なさらないでくださいね~」

 少し遠巻きから、ガラディオとシロエが応援してくれている。




 ――(なぜ我が、などとは言うまい)


 エイシアに話すと、意外なことに反抗しなかった。


 最初はお屋敷の庭を練り歩く。慣れれば、街に出て練り歩く。

 そうして人気を集めて、その存在を街に馴染ませる。

 エイシアという獣が、ファルミノの街の象徴になるように。


 そして、エイシアを乗りこなす私――つまりは古代種――も、セットで街の偶像にするのがリリアナの計画だ。




 ――(こういうの、嫌いだと思ってたから意外だった。助かるけど)

 ――(民衆の前で貴様を振り落としてやれば、余興くらいにはなろうか)

 ――(またそんなことを……私を悩ませて楽しい?)

 ――(楽しくなければ、やらんだろう)

 それ以上何か言っても、頭が痛くなるだけなのでやめた。

 




 エイシアに伏せてもらって、その上によじ登る。


 背中に跨ろうと思っていたけれど、厚手の黒いワンピースドレスにフード付きの外套姿では、横向きに座る他ないことが分かった。


 鞍も何も無いのでもたもたとしていると、侍女達からの声援が飛んできた。

「エラ様、かわいい~」

 この緩慢な動きでさえ、このありさまだ。


(忖度されているのか、本当にかわいいと思ってもらえているのか……)


 ――(もっと颯爽と飛び乗れんのか? こちらまで無様に見えるだろうが)

 ――(別に、こうしてかわいいと人気だけど?)

 ――(憐れまれている。の間違いだろう?)

 ――(うるさい。ほら、座れたからゆっくり歩いて)


 ――(チッ。これを街でもするというのだろう? どうかしておるぞ、あの娘)

 ――(リリアナのすることには意味があるのよ。文句言わずに手伝いなさい)




 エイシアは、恨めし気に背中の私を一瞥すると、私を揺らさないようにスッと立ち上がった。

(文句は言っても、気遣いはしてくれる……。やっぱり、リリアナの言う通りなのかな……)


 納得は、すぐには出来ない。こいつの恐ろしさを知っているからこそ、疑ってしまう。


 ――(どこまで歩くのだ)

 ――(皆から見える所を、大きくぐるっと)


 そういえば、馬に乗るよりも高いのに、怖くないのはなぜなんだろう。

 街に入る時にも乗ったけれど、何も気にならなかった。


(……ふわふわの毛皮が、掴みやすいからかな)

 それだけではなくて、思えば全く揺れていないことに気が付いた。

 スーッと滑るように、振動さえ微塵も感じない。


 それは、エイシアの足運びや体遣いが、すさまじく優れているということだ。

(やっぱり、身体能力ひとつとっても、尋常じゃないものを持ってる)




 ――(そういえば、馬のように色んな走り方があるの?)

 以前、お庭に迷い込んだネコがダッシュしたり、トコトコトコ……と、可愛く小走りしていたのを思い出した。エイシアも、いろんな走り方をするに違いない。


 ――(馬ごときと比較する気か? いいだろう。しっかり掴まっておれよ)

 思い出したのはネコだったけれど、そう言うと怒るだろうから馬に例えたのに意味は無かった。


 エイシアは最初、トコトコと小走りをした。

 それでも振動は僅かで、速度が上がったという合図みたいな感覚だった。


 ――(貴様、そこだと落ちるぞ。もっと頭に近い場所まで来い)

 ――(動く前に言ってよ)

 ――(走らせたのは貴様だろう)

 それもそうかと思い、素直に従った。




 揺れがほとんどないので、ふわふわの毛を掴みながら移動する分には、何の恐怖感もなかった。


 ――(良いな? 行くぞ)

 言うや否や、エイシアはさらに早く、けれど小走りに駆けた。


 振動の感じから、トコトコ走りは変わっていないけれど、速度と振動が増している。

「は、速いのね。十分速い。……少し怖いわ」


 集中の必要な念話よりも咄嗟に、声が出た。




 ――(落ちるなよ?)

「えっ?」


 びゅ。という風切りの音が聞こえたかと思うと、景色が目まぐるしく流れていく。


 それでも、エイシアの頭はほとんど揺れていない。首に掴まっているお陰か、私もほとんど揺れずに済んでいる。


 けれど、エイシアの体は激しく波打つような動きで、後ろ足が地を蹴り体が伸びると、前足は着地と同時に体を丸めて後ろ足を迎えつつ、さらに体を前へと送る。


 その激しい背中のうねりは、先程の場所に居たままなら、私を弾き飛ばしていただろう。


 それにしても、これだけ激しい走り方なのに、馬のような地を蹴る音が出ない。無音ではないけれど、かなり静かだ。

 それより何よりも、速過ぎて怖い。




「も、もういい。速いのは分かったわ!」

 ――(速いのは当然だ。そうではなく、走法の数を比べるのではなかったのか)


「こんなの、落ちたら怪我じゃ済まないじゃない! もういいってば!」

 ――(まだあるのだぞ)


「いい! 凄いのも分かったから! もう止まって!」

 ――(……よかろう。無理に引っ張られては、自慢の毛が毟られてしまうからな)


 ふわりと、一瞬浮いたような感覚のあと、エイシアは止まってくれた。

「こ、怖がらせるためにしたんじゃないでしょうね」

 ――(腰抜けがどう感じるかなど、知ったことか)


「もう~!」

 腹立たしい。


 けれど、一応は落ちないように気遣ってくれたし、止まってと言えば止まってくれた。




「まぁ、その。見物の人達は喜んでるみたいだから。良かったと思うわ。ありがとう、エイシア」


 皆の居る場所からは離れているけれど、侍女達やリリアナは、楽しそうに手を振ってくれている。


「ほら、なかなか反応よさそう。街でも上手くやってよ?」


 そう言うとエイシアは、次に何と言われるかを察したように、無言で皆のところへと歩き始めた。



「あと……賢いからって会話を省略しないの。わかった?」

 ――(ふん)


「ふん。で伝わる相手でよかったわね」

 ……気位の高い子。



いつもお読み頂き、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ