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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第四章 幕間

 地球の衛星。その月で、科学者は眠りと呼べる状態にあった。

 体の全てを機械化し、睡眠という機能の代わりに持てる時間を探し物に向けていたというのに。

 だが、二年程前にそれがようやく見つかったのだ。

 何千年待っただろう。そう感慨に耽るほどの安寧。そして疲労が、彼の機械の身に訪れていた。

 それは、物質であるがゆえの限界であろう。

 彼でなければ、ここまで来られなかった事は確かだ。

 彼の思考を一滴たりとも零さずに、正確に機能させるだけの精密部品など、易々とは作れない。

 それらが、限界を迎えたのだ。



 母船を降りた仲間達が、地球で数を増やしていくのを見届けてきた。

 仲間の子らの中から、『奇跡の種』が生まれ落ちる事を待ち続けた。

 そのゴーストを、母星オロレアに届ける事だけを待っていた。

 そうして、役目を終えたのだ。



 全ての機器が朽ちるように作動しなくなっていった。

 科学者に残された時間は、もう少しで終わりを迎える。

 それは、彼自身すでに把握していた。

 あまりに永い時間を孤独に待ち続けた彼にとって、それは安らぎだった。

 ――時折目覚めると、終わらない映画の鑑賞途中だったのだと、彼はまた観察を続ける。

 自分の残り時間が少ない事を、今は少し残念に思いながら。





 ――あの方の……脳波が検知できなくなりましたしね。死んでしまったのでしょうか。

 同化が進んでも、あの体の影響を受ける程度だと思っていたのですが……信じたくありませんね。

 おっと! 検知出来ましたね。脅かさないでください。貴重などという言葉では例えられないほど、奇跡のごとき存在なのですから。

 もう、諦めてしまう所でしたよ。



 おや……私に検知出来ない現象がありますね。まるで……魔法のような催眠術。でしょうか。

 タネも仕掛けもなく、言葉による誘導もなく? 

 一瞥であんな芸当が……大勢をあれほど一瞬で操るなど……。

 ふむ、脳波に何かしらの干渉をすれば、あるいは……いや、それでは大掛かりな装置が必要になる。小型化に成功したとしても、目視できないレベルの小道具には出来ないはず。出力が足りませんからねぇ。

 私が思いつく方法では、そもそもとして脳が破壊されかねない。脆弱な脳を壊さずに、あんなことが出来るのでしょうか。

 ああ、現地に行って観測したい!



 あの白いネコのような獣も、やたらとあの方に懐いていますが……野生ではなく、元々飼われていたのでしょうか。

 しかし……あのような個体、見たことも聞いたこともありませんね。動物には詳しくはありませんが。



 これは驚いた。

 羽玩具のあの攻撃機能はロックしてあるはず。しかも、解除コードは最も複雑な『学習』でした。鳥型プロトタイプで一度だけ実戦投入した時の映像を解除コードにしたのに、なぜ……。正確な映像が無ければ反応しないはずなのに。



 しかし……少々雑なのはあの方の性格でしょうか。攻撃範囲が広すぎて、使用感が悪そうじゃないですか。

 もっとスマートに使って欲しいですね。あれでは半端な大量破壊兵器だ。

 どうせ使うのなら、レクチャーしてあげたかったですねぇ。



 一体、オロレアで何が起きているのでしょう。

 いや、起きていたのか。でしょうか。

 我々がオロレアを離れて数千年。

 一万年は経っていないはず。

 年号計器が故障したのを、放置すべきではありませんでしたね。とはいえ、物の無い宇宙放浪では、仕方のない事でしたが。



 全てが、もどかしい。

 あちらにある私の衛星は、きっと機能しているはずですが、ここから干渉する方法が無い。

 回遊海上都市は……生きているでしょうか。彼らがいれば、あるいは……。

 いやしかし、当時ですら鎖国を徹底していた都市ですからね。現存していたとしても、見つけることすら不可能でしょう。

 それに……あれの原因究明も治療薬の開発も、何もしていないんでしょうねぇ。

 彼らも滅んでいるかもしれませんし、まぁ、何億回と思考しては諦めてきた事でした。本当にもういいでしょう。



 どこかのプラントが生きていれば、生産の手助けくらいは出来るでしょうが……あの方が見つけても、再稼働させられますかねぇ。

 私のお願いを聞いてもらおうにも、観察した感じではもう、脳に負荷をかけない方が良いでしょうし。

 無理をすれば、以前のように伝達しただけで……次は死んでしまいますからね。



 連絡手段はやはり、打つ手無し……ですか。

 また振り出し……。

 いや……違いますね。なんとか、奇跡の結晶のような彼を送り込めたのですから。

 想像もつかない結果を生み出す可能性は、まだあるかもしれません。



 あの方が生きている間だけは、少しは刺激的な観察が出来ますしね。

 ただ私も、さすがにもう長くは持たないでしょうから。

 ……これを最後にしましょうか。プラントの解除キーを、適当に送っておきましょう。

 もしも、どこかで受信出来るものが残っていれば……。

 これまではエネルギーの無駄打ちを避けていましたが、それももう良いでしょう。全弾発射といきましょうか。



 我々は……争いさえ無ければ、こんな事にはならなかったというのに。

 地球でも同じ事を繰り返しているのですから、救いようがありませんねぇ。

 彼に……あの方に託すのは酷だとは思っているのですが。

 ――願わくば、オロレアの再生を。

 そして私の……妻子に墓標と、祈りを捧げてください。出来なかった、私の代わりに――。



 それが叶わないならば……。

 そうですねぇ。こちらでの命を奪った償いに、あの方が幸せに生きられますように。

 とでも、私が祈っておきましょうか。





 科学者は、再び眠りについた。

 それは、祈りにも似た眠りだった。

 思考回路にほころびが出来た事で、眠りとも祈りとも呼べるバグが起きている。

 そう長くない時間の後に、永遠で完全なる眠りが訪れる。

 その前段階と言うのであれば、疲れ果てた彼への手向けであろう。


 閉じかけた記憶の中、妻子との夢を初めて見ているのだから。


お読みいただき、ありがとうございました。

「第四章 幕間」をもちまして、第一部完結となります。

ここまでお付き合いくださった皆様。本当に本当に、ありがとうございます。


第二部が始まるまで、しばらくお時間を頂戴いたします。

早ければ一週間。長くて一ヶ月くらい……と考えています。


★★★★★

ブクマ、評価を頂いて励みになっております。

くださった皆様。ありがとうございます。


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