第一章 四、芽吹き(四)
覚悟を決めなければと思いつつも、うだうだとしたまま一週間近くが過ぎた。
自信を無くして、目標も見当たらず、ため息ばかりついていたように思う。
リハビリは続けているし、白煌硬金を自在に操れるように練習もしていた。
だが、この少女の体と向き合うとどうしても、どう生きればいいのか分からないのだ。
この星の人間として、知らない事が多すぎるのも問題だった。今日はリリアナと話し合う日だから、その辺りの相談もしてみよう。
いつものように朝食を三人で摂り、それから一緒に、彼女の書斎へと向かった。
「エラ、それじゃあ早速、この一週間の成果を聞かせてもらうわよ。このところ、元気がない理由もね」
「エラ様、がんばってくださいね」
「はい……」
この緊張は、プレゼン直前のものに似ている。人前で何かを発表するというのは苦手なのだ。
オレは、古代種と白煌硬金の特性についての推論――古代種は特有の微弱な念動力を持ち、金属棒はそれを増幅するのではないか――という話と、結局はどういう事が出来るようになったのかを、二人に見せた。
触れていればかなりの動きが出来るようなったので、それなりに見栄えはする。
先ずはしっかりと握ったまま、ガラディオの剣技さながらにブンブンと振り回した。
棒の残像だけが、それを振るっている事をかろうじて認識させる。重さが無いので、そのくらい早く振り回せるのだ。
「え……すごいんだけど」
リリアナは目を見開いて、口も少し開いたままになっていた。
「まだありますよ」
次は、腕や体全体で絡ませるように、バトン競技のようにグルグルと回してみせた。
右腕から背中、左腕へと躍らせ、スカートをまくって足先でも回して見せた。最後にストンと床に立たせて、その先端に右手をゆっくりと添える。
そこそこ見ごたえのある動きだとは思う。
なんにせよ、触れていて動きのイメージさえ出来れば、ほとんど思い通りに動いてくれるのだから。
物理法則に則った方が容易なのは言うまでもないが、物理的なコントロールよりも、イメージが重要になる。
「私が触れている事が条件ですが、物理法則を割と無視したような動きが可能です。ただ……それだけなんですけどね。芸として見せる以外に使い道がありません」
実戦でクルクル回しているだけでは、隙が大きくて意味がないからだ。
「いえいえいえ! エラ様、それは凄いと思いますよ?」
シロエがこんなに驚いてくれると、素直に嬉しい。
「エラ……それは、ただそれだけ、とは言わないのよ」
リリアナも驚いてくれたようだ。だが、実用には本当に足りない。
もし、ガラディオにも見せたなら……凄いとは言ってくれるだろうが、強いとは思わないだろう。所詮は見世物に過ぎない。
「ええっと……あなたが凄いのは分かったわ。それと、あなたが自分の可能性を見出せていない事もね。
ただ、これは機密事項だから言えないのだけど、私は、あなたを本当に必要な人だと、改めて強く思ったわ。本当に側に居て欲しい。可愛いからというだけではなくて、利害関係としても、ね」
「お嬢様! そういう言い方は!」
「シロエ。エラは、自分が役に立つという事を実感出来ないから落ち込んでいるのよ。強さに執着したのもそのせい。焦っていたのも、全部そういう事よ。ね……そうでしょう? エラ」
二人はいつも、オレの事を慮ってくれる。
地球では、ここまで想ってくれる人には巡り合わなかった。
この二人が特別なのか、それともこの星の人は、大なり小なりこんな人ばかりなのだろうか。
「あ……ほら、エラ様が泣いてしまったじゃないですか」
シロエは慌てて涙を拭いてくれた。
「いいえ、シロエ……ありがとうございます。でも、違うんです。リリアナが私を必要だと、利があると言ってくれたのが、嬉しかったんです……」
しかし泣いてしまう程、自分が思い詰めていたとは知らなかった。
この星に来てからは、オレは本当によく泣いてしまう。
(少女の姿で良かったと、心から思う。男の姿では……涙を流したくないから)
「そうでしたか……それなのに私は、エラ様を慰める事ばかり考えていました。すみません」
「ど、どうして謝るんですか。シロエにはいつも、本当に助けられています。感謝しかありませんから……」
全くどうして、ここまで想ってもらえるのだろう。もし仮に、何か裏があったとしても、ここまでしてもらったら何でも受け入れたいくらいだ。
「ところで……」
リリアナが、急に改まった声を出した。
「えっと、実はもう一つ本題があるの。聞いてもらえるかしら」
ここで切り出されるという事は、恐らくあの話だろう。オレは静かに頷いた。
以前は、結婚しなければいけない事に対して取り乱してしまったが、もうそれ程でもない。
「前に話した時は、ごめんなさいね。貴族に養子入りする話なんだけど……。
おほん。結婚しなくても大丈夫な伯爵家と、しなければいけない公爵家の二つがあるの。伯爵家は、少し辺境の家だから権力はあまりないわ。
公爵家の方は何から何までお墨付きだと言える家柄よ。そして、どちらでも私、リリアナ付きの騎士になってもらえる。
私の思惑関係無しで、エラのために用意したわ。だから、エラの望む方を自由に選んで頂戴」
無理をしないで欲しいと言ったのに、オレがあんなに嫌がってしまったせいだ。
「リリアナ。本当に、迷惑を掛けてすみません」
「何を言ってるのよ。これは本来、配慮して当然だった事だもの。私の落ち度だったのだから、何も気にしないで。遠慮されちゃうと私の面子が潰れると思って、好きな方を本心で選んで欲しいわ」
ここは、本音でぶつからなければ、本当に失礼になってしまう。
「……今までリリアナとシロエには、そしてここの皆さんには、本当に感謝しかありません。それをお返ししたくて、本気で向き合いたいのです。
今、私の本心は、どちらがより利益としてお返し出来るか。それのみです。政略結婚でも小間使いでも、何でも構いません。騎士じゃなくてもいいんです。
ただ、伯爵と公爵、どちらが利益になれるのか私には分かりません。なので、リリアナ。私はあなたに選択して欲しい」
いや……オレに有利な方を選ばせるつもりで言っていただろうから、結婚しなくて良い方が利益は小さいのではないだろうか。ならば――。
「公爵ですか?」
「――公爵ね……」
ほとんど同時だった。
「了解です。気付くのが遅くてすみません……言わせてしまって。私を公爵家の養子にしてください。お願いします」
「……お願いしているのは、こちらの方なのに。ごめんね、エラ」
リリアナは目を伏せて、こちらを向いてくれない。
「いいえ。これでようやく、お返し出来るチャンスが来るんですよね。ありがとうございます」
身の振り方というのは、自分でどうにか出来る事など多くはない。
ならばせめて、ここではこの人たちのためになる事を、選択し続ければいい。
そんな事も分からなくなるほど、オレはやっぱり、この姿でこの星に居る事を……嘆いていたのだろう。
「本当に……いいのね?」
恐らく、これからは前だと思える方向に進めるだろう。少なくとも心に燻っていたものは、無くなったように思う。
――失ったものを取り戻そうとしても、不可能な事だと理解はしていた。
だが、この今を、受け入れるしかない事が腹立たしかった。必死になっても命を繋ぐ事で精一杯の状態に、歯がゆさで狂いそうだった。
でも、それさえも……この二人の献身に、応えたいという気持ちが勝つようになっていたのだ。迷っていたのは、結局は自分の保身のためだ。
(オレはもう、揺るがない。この星で、この体で、二人のために生きていくと今、決意出来た)
「はい。そうしたいんです。でも、悩み事が出来たら相談に乗ってくださいね」
リリアナはオレの側まで来ると、そのまま膝を着いた。
「当然よ……」
オレを抱きしめて、少し泣いているのだろうか。合わさった頬が濡れた。
「いつでも嫌になったら、言ってね? この世界でせっかく巡り合えた、初めての友達なんだから」
「はい……ありがとうございます。リリアナ」
オレは、初めて彼女を抱きしめ返した。リリアナの背中は思っていたよりも小さく、細くて少し、震えていた。
リリアナは為政者だから、色々と考えなくてはならない事があるのだろう。厳しい選択だったのかもしれない。でも、それをオレに強いたと、後悔はしてほしくない。
「大丈夫ですよ、リリアナ。私は強いので。安心してください」
こくこくと、頷いたのが頬で分かる。
(ただ、そろそろ離れてくれないと、だんだん照れ臭くなってしまった)
「お嬢様、いい感じの所に申し訳ないのですが、そろそろエラ様のお風呂の時間ですので」
側で見ていたシロエが、記憶にない予定を口にした。それを不思議に思ったリリアナが問う。
「……そんな予定、あったかしら?」
「私も思う存分にエラ様を抱きしめたくなったので、一緒に入ろうかと思いまして」
「何よそれ。今から入ったらお昼がズレちゃうじゃない。そんな事で入らないで」
ずっとオレの頬越しに話しているのは、ひっついていたくてそうしているのだろう。
(欲望に妙に真っすぐな所があるのも、ここの人達の特徴なんだろうか)
「それなら交代してください」
「イ、ヤ、よ。私はあんまり抱きしめてないんだから、こういう時くらい構わないでしょ?」
「あ、あの……恥ずかしくなってきたので、そろそろ……」
「ダメよ~。私はずっと我慢してきたんだから。もう少しこのままでいるのよ」
「じゃあ私はお風呂の時に、のぼせるまでずっと抱きしめていますね。今、我慢しているので」
「エラに嫌われるわよ? のぼせるまでなんて、辛いだけじゃないのよ」
(これは、誰か来てくれるまで続くんだろうか。この星について色々知りたいという相談は、今日は無理そうだな……)
結局、昼食の時間になるまで、交代で遊ばれ続けたのだった。
もしも自分の顔を見る事が出来たなら、『抵抗するのを諦めた遠い目』をしていたに違いない。
男の感覚としては嬉しいが、この体は情欲が湧かない。二人の愚直な欲求のせいで照れ臭さも消え、もはやただ漫然と二人に抱きしめられていた。
**
――昼食を終えた後、銀髪でぱっちりとした赤い瞳の少女は、リハビリをするために敷地内の庭へと向かった。シロエの言いつけ通り、侍女を一人連れて。
その姿を見送ったリリアナは、シロエと書斎に戻った。少女の事について、二人だけの会話をするためだ。
「最近……エラの事になると、冷静じゃいられなくなる時があるの。シロエはどう思う?」
「……私は至って冷静ですよ。お嬢様がムキになって独占しようとなさっているだけです」
ややトゲのあるシロエの口ぶりに、リリアナは違和感を覚えた。
シロエは、自分よりもエラと長い時間を過ごしている。
シロエ自身が言ったように、エラを独占したいという気持ちが当たり前になっているのではと、リリアナは考えていた。
「シロエ。あなたもさっき、エラの事を独占したがっていたわよ。抱き付いて離そうとしなかったじゃないのよ」
「そ、それは……エラ様が健気で、可愛らしいからです。超がいくつも付くほどの絶世の美少女ですから、愛くるしいと思うのは自然な事ではないですか」
そう言うシロエの表情からは、彼女自身も理解しきれない感情がある事を、リリアナは見逃さなかった。
「あなたが、それだけの事であんなに独占したがる人間ではないはずよね。何かおかしいと、自分でも思っているんでしょう?」
苦悶するように、眉間にしわを寄せるシロエを見る事はほとんどない。
リリアナは、自分もシロエもどうかしているのではという疑惑を、確信に変えた。
「エラが意図的に何かしているとは思えないし、そんな素振りもない。もしかするとだけど、古代種というのは、人を惹きつけ過ぎる何かがあるのかもしれないわ」
ここで初めて、シロエが素直な気持ちを吐き出した。
「ええ、そうですね……エラ様を見ていると、自分が思っている以上に、優しく大切にしたくなっている。そんな気はうっすらとしていました。でもそれは、不幸な境遇に対する、情のようなものだと思っていました」
でも。と、シロエは続けた。
「あの可愛らしい姿を見ていると、子猫をずっと抱きしめていたくなるような、自分でも抑えられない、衝動に近い庇護欲が湧きあがってしまいます。今でもエラ様の事を思うと、早くお顔を見たいと考えてしまっています」
ただ、それはおかしな事なのだろうか。それは人の持つ自然な感情なのではないか。二人には、その答えを出せなかった。
「私も……大なり小なり同じよ。私がこんなにも心を奪われるなんて、大人になってからは無いと言っていいくらいなのに。あなたの言うように、可愛い子猫をずっと見ていたいのと同じような気持で、胸がいっぱいになるわ」
それ程に、エラと名付けた少女が愛らしい姿をしている。ただそれだけの事なのかもしれない。
そう思って、この感情は当然のものであると言い切ってしまいたい。
リリアナは、自分の抱いた『危険なのでは』という勘を、この瞬間にも封じ込めてしまいたい一心になっていた。
「でも私達は、古代種に接するのは初めてなのよ? 注意はしておいた方がいいわ」
理性を総動員して、リリアナは自分にも言い聞かせるように言った。
「そう言われると、そうかもしれないとは思いますが……エラ様は死にかけていて、指先ひとつまともに動かせなかった人ですよ?
たまたま愛らしいお姿だっただけじゃないですか。私たちは、そんなエラ様をただお救いしたいと思っただけです。大切にしたいと、愛したいと思うのが、悪い事のように考えたくありません」
それでも、ここまで入れ込んでしまうのは、リリアナには今まで無かった事だった。おそらくシロエも同じなのではないだろうかと、そう思っていた。
「シロエ。エラと同じくらい大切にしたいと思った人は居る?」
自分には無い。と、リリアナは思った。シロエの事は確かに同じくらい大切だが、それは積み重ねてきた時間が違うからなのだと。
「居ますよ。目の前に。お嬢様は、私の愛情がどれほど深いのかご存知ないようですけど」
「ち、ちがう。そうじゃないのよ。ほら、だって、積み重ねた時間が違うじゃない? それを飛び越えて可愛いと思い過ぎじゃないかなって、そういう事なのよ?」
予想に反した返答に、リリアナは取り乱してしまった。
そして、人の感情などというのは、こういうものなのかもしれないと、心が揺らいでしまった。
自分がシロエよりも、少し薄情なだけなのかもしれない、と。
「構いませんよ。私の愛情がお嬢様に理解されなくても、この心は変わりませんのでご安心ください。そういう所も含めて、愛しておりますので」
シロエは呆れたような、拗ねたような、読み取れない表情で淡々と述べた。
「ど、ど……どういう所なのよ」
もはやリリアナは、冷静に物事を考えられる状態ではなくなってしまった。
結局の所、実害の無い事をおかしいと思った所で、それは杞憂となる。
そもそも実際の被害は誰にも、未だ起きていないし、起こりうる何かを予測さえ出来ない。
愛くるしいと思うだけの事が、誰にどんな被害をもたらすというのだろうか。
古代種の少女を、ただただ可愛いと愛でるだけ、なのだから。
**
――公爵家に、養子についての連絡を入れてから一週間ほどが経った。
ここでは、もっぱら手紙が通信の手段で、電子メールも電話もない。最速の物は光を使った通信だが、非常にアナログだ。
(晴れの日中にしか使えず、それを使う時は非常事態のみ。か……。そうなるよなぁ)
返事を出したとリリアナから聞いて、最初の数日はソワソワとした。だが、今ではダラけてしまっている。
オレが養子に入る公爵家とは、つまるところリリアナのお爺様で、歴代の貴族の中でも最も権力を持っている大公爵だという。
そんなお爺様について聞くと、歴戦の常勝将軍で、この五十年ほど戦争が無いのもお爺様の恐ろしさのお陰なのだそうだ。
そんな話を聞くと、怖さで緊張しきってしまったのだが……時間が経つと緊張感が持続しない。ついには朝起きるのが、億劫になってしまった。
「エラ様、さすがに最近、ダラダラとし過ぎではないですか? 午後のリハビリはなさっているようですが……何か気に掛かる事でもあるのですか?」
シロエは心配そうな顔で、ベッドに寝そべっているオレの顔を覗き込んだ。
「あぁ……お顔は触れるとふわふわで、血色も良くてお元気そうですねぇ」
「お陰様で」
フカフカの枕から頭さえ起こさずに、眠たげに返事をした。
このくらい甘えた態度を取れるようになったのも、この数日だ。自分を、この体を受け入れようと覚悟を決めてからは、気を張り過ぎる事が減っていったのだ。
つまり今は、大事にされているこの状態を、少し楽しんでいる。
「もう……朝ごはんが出来てしまいますよ。早く起きて下さらないと。お嬢様を待たせてしまってもいいのですか?」
「うーん……もう少しこうしていたいんです。朝ごはんを後で食べたり出来ますか?」
「だ~め~で~すっ。まだ起きないというなら、一緒に入ってあらぬことをしますよ? いいんですか?」
フフン、という笑みを浮かべて、今にも布団の中に入ってきそうだ。
「わかりました! 起きます。起きて準備します」
あと何日かすると、こうしてゆったり過ごす事も出来なくなるだろう。
公爵様が到着したら、オレは貴族令嬢としての教育を受ける事になる。そう、こちらに出向いてくれるらしい。
こちらから出張するには、町の騎士の数では色々と不足するから、というのが理由だ。
教育は、本当なら物心が付く頃から始めるらしいが、オレの体は既に成人に近い。
かなり詰め込む事になるから、朝から夜までずっと何かしらの授業があるらしい。
この国の成人は十四歳だから、あと二年を切っているからこその詰め込み教育のようだ。
「もうすぐ、こんな風に過ごせなくなるんですね……」
シロエはオレの髪を梳きながら、寂しそうに言った。
「お食事は一緒かもしれないじゃないですか」
「それだけでは、やっぱり寂しいです。私はずっとお世話していたいのに……エラ様は寂しくないんですか?」
少し非難めいた態度で、髪を結うのにわざと少し強めに、ぐいぐいと引っぱられた。
「も、もう! そんなにしたら首がぐいって……私も寂しいですけど、将来お二人の役に立つためですから、我慢して頑張るんです」
はぁ。と、後ろでため息が聞こえる。
「日中がダメなら、夜だけでもご一緒出来ればいいのに……」
夜、寝ないで『お話する』つもりなのだろうか。
(この体になってから、夜は眠くて起きていられないから、無理だぞ……?)
「良い事を思い付いたので、お嬢様に相談してみますね?」
「……何をです?」
あまりいい予感はしなかったが、リリアナも良しとすれば、基本的に実行されるのだろう。
「ナイショ。です」
まるで女子高生のようだ。見ている分には微笑ましい。見ている分には。
かくして、寝室を三人共同にするというシロエの案は、警備の観点からガラディオも許可を出してしまった。
その実は寝室というか、ベッドを共用するというものだ。それを、さすが王侯貴族というのは伊達ではなく、翌日には三人で寝られるベッドを用意していた。
(呆れた……)
『抵抗を諦めた遠い目』を、これからは沢山する事になるだろう。
そう思って考えると、オレは人としてよりも、愛玩動物的な感じで受け入れられているのかもしれない。とはいえ何であれ、大切にされている事に変わりはないのだが。
「大変です! エラ様、公爵様が来週には到着されるそうです!」
「おぉ……ついに」
貴族令嬢として勉強漬けの毎日が来る。
不安も大きいが、この星の文化について知る事が出来るはずだから、願ったり叶ったりという気持ちがある。
地球との違いを聞こうにも、何が同じで何が違うのか、見当がつかない以上はゼロから教わるしかない状況だった。
それをお願いするよりも、貴族に養子入りするなら、きっと何かしらの教育を受けるだろうと思っていた。これはオレにとって、ここで生きていくために必要不可欠な事なのだ。
「なんだか嬉しそうですね。エラ様」
「半々、というところですけどね」
「今夜からご一緒に寝られるのが、嬉しさ半分という事ですか?」
「何て答えれば正解なの……」
少し困った顔で返事をすると、その表情を見てシロエは嬉しそうにしている。結局、何か表情に変化があればそれでいいのかもしれない。
「さあ、お迎えするためのドレスや準備を致しましょうね。エラ様は……勝手にウロウロしないでくださいね? お探しする時間が惜しいですので」
邪魔をするなという事らしい。
「はーい」と返事をして、最後の引きこもり生活を楽しむ事にした。
――「面白い」 「続き!」 「まぁ、もう少し読んでもいいか」
と思って頂けたらぜひ、この作品を推してくださると嬉しいです。
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下にある『☆☆☆☆☆』が入ると、幸せになります。
(面白い!→星5つ。つまんないかも!→星1つ。正直な気持ちで気楽に星を入れてくださいね)
(もちろん、星4~2つでも)
どうぞよろしくお願い致します。 稲山 裕
週に2~3回更新です。
『聖女と勇者の二人旅』も書いていますので、よろしくお願いします。
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