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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第四章 四、兵器と呼ばれたもの(六)

   兵器と呼ばれたもの(六)



 ファルミノには、エイシアを連れて入る事になった。

 エイシアをそのまま歩かせて、わたしがフードを被って光る髪を隠しながらその背に乗る。


 そうすれば、目立ち過ぎずに、つフードから覗く紅い瞳で、わたしがエイシアを手懐けたと知らしめる事が出来るから。と、リリアナが考えてくれた。

 それに対しては、エイシアは特に嫌がりもせず素直に従ってくれた。



 街の人達は当然驚いてはいたけれど、「アドレー公爵の公女様が、またとんでもない大物だ」という、肯定的な受け止め方をしてくれた。

 尻尾を含めずに三メートルを超える白い美猫。尾を含めればもっと大きく見える。青銀のトラ柄は、街に脅威と威厳を振りまいていた。それに跨り、堂々と微笑んでいれば案外受け入れてもらえるのかもしれない。

 ただ、後になってエイシアが私に言った言葉で、なんとも言えない気持ちになった。



 ――(我が魅了しておいたのだ。面倒が後に来るよりは、その場の面倒を取ったまで)

 要は、騒がれて扱いが悪くなるよりは、面倒臭いけれど魅了してやったぞ、という事だ。

 ――(そんなに簡単に、街の人に魅了をかけないで)



 ――(我はお前を護らねばならんのだから、先手を打ったのだ。無策なお前がどうかしている)

 わたしの魅了が掛かっていてこの言い様だから、その前はどれほど馬鹿にしていたのかがうかがい知れる。それも相まって、本当に落ち込みそうになった。



   **



 屋敷に戻ったわたしとリリアナは、とりあえず一休みした。

 王都での獣達との戦いと、森の探索でエイシアを抱え込んだ事。それから、ファルミノへの帰路での戦闘……これはガラディオのお説教が尾を引いているけれど、それらの疲労を癒すためだ。



 いつも一緒に寝ていた三人の寝室で、三人用のベッドにリリアナは横になっていて、シロエはベッドに腰かけている。わたしはというと、リリアナと寝そべっていたのをシロエに起こされた所だ。

「さあさあ、エラ様。久しぶりに看病させて頂きますからね。フフフ」

 シロエは、わたしをベッドに座らせたままにして食事を口に運んでくれた。



「リリアナを放っておいて私の看病を優先するなんて……というか、自分で食べれます」

 わたしの苦言をものともせず、リリアナの呆れ返った眼差しさえも見て見ぬ振り。シロエは上機嫌で、タイミング良く、そして程良い大きさに切り分けたお肉や野菜をわたしの口に運び入れる。割と快適なのが悔しい。



「気にしなくていいわよエラ。私は自分で食べたいもの。それより、シロエはお風呂を一緒に入るつもりよ? 気を付けなさい」

 リリアナにそう言われて、また体をまさぐるつもりかと思った。女同士なのに、何か楽しいのかなと不思議に思いつつも釘を刺しておいた。

「……シロエ、変なコトしないでくださいね」

「変なことって、何でしょう?」

 ブラウンの瞳を細めながらニッコリと微笑んで、白を切るシロエの逞しさが少し羨ましい。



「エラ、それよりも城壁の外に待機させてるドーマン達なんだけど」

 言われて思い出した。わたしが魅了した後、ガラディオが指揮を執って待機命令を出したままだったのだ。

 まだ数時間だけど、寒空の下で放置は可哀想だ。別にいじわるをしていたわけではなく、ホッとしすぎて、完全に抜け落ちていた。



「良かったらなんだけど、私の提案を聞いてくれる?」

「あ、はい。もちろんです」

 魅了の力をどう試そうかと考えるのさえ忘れていた。だから、とりあえずはリリアナの言う通りに動かせばいいかなと思った。



「九番目のお兄様の差し金だから、きちんと手を打たないとなのよ。陰険でしつこいの。どうなったかの報告が無い時点で偵察と、同時に新手を送ってくる可能性が高いわ」

 面倒な事この上ない。



「いやな相手ですね……私は、そういう対処が分からないですから」

「そこで、もっとかく乱するために、ドーマン達には森で獣の討伐をしてもらいたいなと思って。街に入れるのも不用心だし、いくらか食料を渡して……。そうすれば部隊の行方を眩ませられる。その命令って、エラの力で出来るかしら」



 そう言うリリアナの視線が、私の髪に移っていた。

 今なお、青銀に淡く光っている。最初よりは弱くなっているけれど、誰が見ても分かる程度には発光している。

 わたしはそれを、少し無造作に手櫛で梳いた。



 綺麗ではあるけど、ただでさえ異質な銀髪がこんな事では、もう街に出る事は出来ない。そう思うと、憎らしく感じた。

 その怒りは、待ち伏せしていたドーマン達にも、それを命令した九番目の王子にも向いている。



「魅了が弱まっていたら、もう一度、もっと強くかけてみます。私を追い回す人達の事なんて、知りません」

 どうなっても、わたしの知ったことではない。

 だんだん腹が立ってきて――というよりも、ずっと抱えていた憤りが爆発しそうな、激しい感情を持っていることに気が付いた。



「そうよ……私はなにも……何も悪くないのに」

 なかば独り言だったけれど、それには二人も強く頷いてくれた。

「そうですよエラ様。徹底的にやってやりましょう。私は応援いたします」

「そうよね。本当に腹が立つ。エラに手を出すとどういう事になるか、目にものを見せてやるといいわ」



 この二人にも、魅了が掛かってしまって賛同してくれたのではないだろうか――。

 一瞬だけそう考えたけれど、悪い事をしようとしているわけではないから、気にしない事にした。だから迷ったのはほんの一秒。もしくは、それよりも短い逡巡(しゅんじゅん)だった。

「――はい。どのくらい森に入らせますか? 一か月くらい?」



   **



 ドーマン達には一か月分の水と食料を渡し、川の位置も分かるように地図を持たせた。

 彼らはすぐに出発し、森の中に消えた。王都側には行かないよう、ファルミノを遠巻きに半周するような森林警らルートを示しておいたので、獣も討伐してくれて一石二鳥だ。



 魅了は、念のために掛け直しておいた。途中で効果が切れて戻ってこられたり、万が一攻め込まれたりしても大変だと思ったから。

 何とか全てが終わり、今ようやく、三人でベッドの中に居る。シロエはなぜか、わたしに抱き付いて寝ようとしているけれど。



「これで、お兄様も一筋縄ではいかないことが分かるでしょうね」

 リリアナは事態を隠すためではなく、こちらに手を出すなという警告のつもりなのだ。

 自慢の部下と、その三百騎を行方不明にされたら、さすがに普通ではないと理解するだろうと。



 普通なら、全滅したとて何かしら状況の分かるものが残っているし、戦力が足りなかったなどの情報が得られる。でも、今回は何も残らない。三百もの人間の、姿も行方も分からないなどあり得ないはずなのに、何も見つからないのだから混乱するだろう。

 街に幽閉されたとしても、それだけの人数が街に収容されると、どこからか情報が出てくる。でも、それさえも無いのだ。



「苛立つお兄様の顔が想像できるわね。エラに手を出そうとした罰よ。本当に……ただじゃおかないんだから」

 リリアナは、王都から来た人間は誰も入れるなというお達しも出している。王都であれだけの騒ぎがあってすぐだから、今時分に来る人間は、王子からの刺客に違いないからだ。



 城壁の見張りも、お屋敷の見張りと警備も、数を倍以上に増やしているらしい。暗殺にも対策してくれているのだ。

 ただ、寝室を一緒にしているままなのは、もしもの場合にリリアナ達も巻き込まれるから別にして欲しいと言ったのだけど、それは頑として、一緒に寝るのだと言って聞いてくれない。



「あなたがそんな心配してくれなくていいのよ。とにかく、これでしばらく時間を稼げるわ。それでもしも、もっと強硬手段を取ってきたら……その時は、私も本気で戦う。エラ、絶対に私が護ってあげるからね」

「……十分すぎるくらい、して頂いてますよ」

 本当の事を言うと、一緒に居てくれるだけでも嬉しい。お義父様のお屋敷で襲われた時は、本当に怖かったから。あれ以来、一人で寝るのは……実はずっと不安だった。



 さらに今回は、ガラディオも屋敷内のどこか近くに居てくれるというから、とんでもなく心強い。寝室が三人一緒なのは、護りやすいからというガラディオの意見もあっての事だった。

 それから、エイシアにも私達を護るように言ってある。鼻も利くようだから、侵入者が居ればすぐに分かるだろう。



「私も、王族として覚悟をきめなきゃね。エラ……どんな事があっても、ずっと一緒に居てくれる?」

 リリアナは、いつになく真剣な様子だった。碧い瞳で真っすぐに、わたしを見ている。

 それは、ベッドで横になっていようとも、本気なのだと分かった。

「当然です。リリアナの側に、ずっと居させてください。私にもようやく、何か役に立てるかもしれない力が手に入ったんですから」



 拾われた時から、ずっと願ってやまなかった――。

 リリアナの力になりたい。

 その願いが、いつの間にか手に入っているのだから。

 まだ、力に振り回されているけれど。

 きっと使いこなして、わたしもリリアナを護ってみせる。



「ふふ。ありがとう。きっとよ?」

「はい。絶対です。わたしの気持ちは、ずっと変わっていませんから」

 こうして見つめ合っていると、照れ臭くなってしまうけれど。



「ちょっとエラ様。お嬢様とばかりじゃないですか。私ともずっと居てくださいね」

「シロエもリリアナに言うべきでしょ……? どうして私に言うんですか」

「だって、それはもう当然の事ですから。私シロエともお約束してくださったら、二人分の絆になるじゃないですか。そういう事なんです」

 意外な、意表をついたシロエの真摯な言葉に、リリアナはわたし越しに身を乗り出して、わたしは後ろのシロエに振り向いた。



「え? な、なんですか二人とも。そんなに驚いた顔しなくてもいいじゃないですか。私だって真剣にお二人を愛しているんですから」

 そう言いながら、少しだけ拗ねた顔をしたシロエを、わたしとリリアナは笑った。すると、つられてシロエも笑い出した。


 ここにフィナとアメリアも一緒に、五人でずっと居られたらと……わたしは心から願った。



お読み頂きありがとうございます。

ブックマーク、評価にいいねもありがとうございます。本当に励みになります。


  **

読んで「面白い」と思って頂けたらば、ぜひとも他の人に紹介して頂いて、広めてくださると嬉しいです。

「つまらん!」という方も、こんなつまらん小説があると広めてもらえると幸いです。

ぜひぜひ、よろしくお願いします。


*作品タイトル&リンク

https://ncode.syosetu.com/n5541hs/

『 オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』


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稲山裕

@yu_inayama

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