第四章 三、覚醒(六)
覚醒(六)
――虎魔の我が、あんな小娘に屈するとは。
一瞥で魅了してしまう程ではなかったが、我を凌ぐ力。
人魔の力は、あの瞬間までは封印されていたはず。
なぜ、ああも容易く封が解けたのか。
あれの中にある、異物のせいか。
ゴーストが滲んで見えるのは、もう一つ混ざっていたという事か。
そんな事が、あり得るだろうか。
さりとて。あれはとても幼い。
力に呑まれて苦しみ壊れるか、人の敵となって討たれるか。
そのどちらかしか、記憶の網には無い。
不遇な力よ。
……我が敗因は。
見ているだけのつもりが、側に寄り過ぎた。
初見で抱いた興味は、ともすればそれも魅了の力か。
冗談ではなく、事実としてすでに、魅了されていたという事か。
ならば、あれは化け物やもしれぬ。
同じ「魔」である以上、魅了を受ければそれと分かる。
だが、初見の時は気付かなかった。
意図せず魅了をばら撒けるとなると、防ぎようが無い。
他の「魔」も、あれを見れば屈するだろう。
見られるのではなく、見ただけで魅了されるとあっては……。
人魔の視界に入るだけで。というだけならば、「魔」にあっては防げぬものではない。
だが、こちらが目にしても。という事であれば話は別だ。
我らは見る事に優れている。
目を閉じようとも、その存在を知覚出来る。
ゆえに隙などなく、「魔」以外に敵などいない。
それが仇となっては、もはや抵抗のしようがない。
あれの存在を知った時点で、我に勝ち目はなかったという事か。
……これは、何かがおかしい。
理に反する。
あの滲んだゴースト。
癒合する直前か、それとも別離する始まりか。
記憶の網にも無い、異物。
さて……。
屈した我の仕事は、何であろうか。
我が殺める事は、おそらく出来ぬだろう。
すでに我が思考は、あれを護る事に占められている。
この流れそのものが理のものであるならば。
あれを護る事が使命となる。
理から外れた異物を、護る事が理……か。
世界は……星は、新たな転換を試みるらしい。
と、受け止めて良いのだろうか。
未だ決断はくだせぬ。
記憶の網に無い事は、試練となろう。
我にとってのそれか、世界にとってのそれかは知らぬが。
……フ。
傍観者であり続けるはずが、よもや当事者となるとは。
我もすでに、異物の仲間か。
ならば我が念動の力、あれのために使ってやろうか。
必要があれば。
しかしあれは、なんと初心な娘だろうか。
ふ、ふ。
食いさしを食われて、恥じらうとは。
本来の力を覚醒させるには、まだ幼い。
同じ「魔」が側にいれば、幾分制御できようが。
想い人に使って、壊れられても困る。
人魔の魅了は、こんなものではないのだから。
それゆえ、崇められては殺され、敵となっては殺されてきた。
ここしばらくは人の敵とされ、生まれてはすぐ、殺されている。
生きても十数年が限界であった。
それも理のひとつかと思っていたが。
我が側に居るとなると、人に殺されることはあり得ぬ。
ならばあれは、何を成すのであろう。
人を束ねるか。
人を滅ぼすか。
我ら「魔」をも含めて、そのどちらかにするのか。
この世界が、星が、何を求めているのか。
記憶の網には見えぬ。
人など、滅びてしまえば良いと思っていた。
だが数が減ると、物寂しい気持ちにもなる。
世界は、星は、どんな気分で眺めているのだろうか。
記憶の網から外れた、全ての根源。
網の中心。
よもや、人魔の力は、世界に、星にも届き得るか?
ふ、ふ。
あり得ぬ。あり得ぬ。
小さき我らなど、世界に、星に比べれば塵に等しい。
塵の記憶が、それに届くはずもない。
されど、小娘の存在は非常に異物。
新しく、紡がれる記憶となろう。
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『 オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』




