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皆、ここに、終わりにきている

作者: しめさば

軋む、軋む、浄罪の塔。

揺らぐ、揺らぐ、西日の陰。

君が、君が、弔うなら。

きっと、僕はこの世を喜んで捨てる。


*******


白い息が眼前に燻る。突き刺すような冷気が張り詰めている。鼻先までマフラーに埋めると、毛糸に呼気が結露した。

君のマフラーの中も、同じように濡れているだろうか。

淡く晴れた空は、明るいが灰色で、澄んでいるようで濁っている、中途半端な陽気だった。

いつもそうだ、いつもと変わらない空。雨が降ろうが、雪が降ろうが、いつも寒空は同じ表情を見せた。

いつも憂いを帯びて俯く、それでいて美しい君と、どこか似ていた。

「卵焼きは、甘い派? しょっぱい派?」

「なんで?」

「私はね、甘い派」

長い黒髪が溶けたザラメのように流れている。

木製の分厚い作業机に上半身を覆い被せて、君は言った。

「僕も」

「合わせたでしょ」

まんざらでもなさそうに君が言った。

「本当は?」

「僕は、・・・目玉焼き派」

「それは、ズルいね」

小さな顔をふいに上げて、低い位置から僕を見た。

少しの間、睨むように目を細めてから、ぷっと頬を膨らませて笑った。

「んとねー、それじゃあ、目玉焼きには、何をかける派?」

「なんで?」

「私はとんかつソース派」

君が自分の好みを打ち明けるたび、僕の脳はその情報を完璧に記憶した。

「僕も」

「これはさすがに偶然の一致はあり得ないでしょ」

「僕は、ベーコンをかけるね」

「それは、かけるって言わないね」

美しい瞳は、僕の関心をありったけさらっておきながら、再び長い睫毛の牢に籠り、鎖された。

「眠い?」

聞いても答えない。

目を瞑ったまま君が言う。

「ねえ、神様っていると思う?」

「なんで?」

「私は信じない。だって、会ったことないから」

「僕は・・・」

歌うように、君は続けた。

「でも、ひとつだけ信じていることがあって」

囁くような、それでいて凛とした声。

僕の耳は酔いしれた。

「人の出会いと別れはね、すべてにおいて正しいの」


*******


なぜ、絵を描くのか。

この場から居なくなりたいから。

消えたいから。

僕じゃなくなりたいから。


なぜ、本を読むのか。

人の声を求めているから。

他者の気配を感じたいから。

ひとりが辛くてたまらないから。


なぜ人が苦手なのか。

混乱するから。

自分が下等だと思い知らされるから。

値踏みされても対抗できない、不甲斐なさを感じるから。


なぜ眠れないのか。

眠れば明日が来るから。

明日は楽しいものじゃないから。

今日を充実させられた自信がないから。


なぜ生きているのか。

わからない。







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