皆、ここに、終わりにきている
軋む、軋む、浄罪の塔。
揺らぐ、揺らぐ、西日の陰。
君が、君が、弔うなら。
きっと、僕はこの世を喜んで捨てる。
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白い息が眼前に燻る。突き刺すような冷気が張り詰めている。鼻先までマフラーに埋めると、毛糸に呼気が結露した。
君のマフラーの中も、同じように濡れているだろうか。
淡く晴れた空は、明るいが灰色で、澄んでいるようで濁っている、中途半端な陽気だった。
いつもそうだ、いつもと変わらない空。雨が降ろうが、雪が降ろうが、いつも寒空は同じ表情を見せた。
いつも憂いを帯びて俯く、それでいて美しい君と、どこか似ていた。
「卵焼きは、甘い派? しょっぱい派?」
「なんで?」
「私はね、甘い派」
長い黒髪が溶けたザラメのように流れている。
木製の分厚い作業机に上半身を覆い被せて、君は言った。
「僕も」
「合わせたでしょ」
まんざらでもなさそうに君が言った。
「本当は?」
「僕は、・・・目玉焼き派」
「それは、ズルいね」
小さな顔をふいに上げて、低い位置から僕を見た。
少しの間、睨むように目を細めてから、ぷっと頬を膨らませて笑った。
「んとねー、それじゃあ、目玉焼きには、何をかける派?」
「なんで?」
「私はとんかつソース派」
君が自分の好みを打ち明けるたび、僕の脳はその情報を完璧に記憶した。
「僕も」
「これはさすがに偶然の一致はあり得ないでしょ」
「僕は、ベーコンをかけるね」
「それは、かけるって言わないね」
美しい瞳は、僕の関心をありったけさらっておきながら、再び長い睫毛の牢に籠り、鎖された。
「眠い?」
聞いても答えない。
目を瞑ったまま君が言う。
「ねえ、神様っていると思う?」
「なんで?」
「私は信じない。だって、会ったことないから」
「僕は・・・」
歌うように、君は続けた。
「でも、ひとつだけ信じていることがあって」
囁くような、それでいて凛とした声。
僕の耳は酔いしれた。
「人の出会いと別れはね、すべてにおいて正しいの」
*******
なぜ、絵を描くのか。
この場から居なくなりたいから。
消えたいから。
僕じゃなくなりたいから。
なぜ、本を読むのか。
人の声を求めているから。
他者の気配を感じたいから。
ひとりが辛くてたまらないから。
なぜ人が苦手なのか。
混乱するから。
自分が下等だと思い知らされるから。
値踏みされても対抗できない、不甲斐なさを感じるから。
なぜ眠れないのか。
眠れば明日が来るから。
明日は楽しいものじゃないから。
今日を充実させられた自信がないから。
なぜ生きているのか。
わからない。