20.断罪
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『わたしはあなたの隣で幸せに咲く』
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20.断罪
(続きです)
わたくしが何も言い返さないことに業を煮やしたシルビアが、近くにあったグラスをとりあげて、わたくしに果実酒をぶちまけようとした、その時でした!
「レディ。我が国の国賓に何をされるつもりですかな?」
「え?」
そのぽかんとした。
魂が抜けたような表情をわたくしは一生忘れることはできないでしょう。
なぜなら、彼女の腕をおさえたのは、この国の大公。
ブリューナク殿下、その人だったからです。
「た、大公殿下!? い、いえこれは!?」
シルビアが血相をかえて、あとずさります。
しかし、背中にドンと誰かがあたりました。
「だ、誰よ! 邪魔よっ……うっ……!」
でも、その言葉は途中でうめき声に変わりました。
なぜならそこにいたのは、レン殿下。
レン殿下はこの国のシャルロー侯爵家の長男であり、近々公爵になることは確実と言われる実質的なこの国の重鎮中の重鎮なのです。
その方に、罵詈雑言を浴びせようなどと言うのは、極刑を求める方以外いらっしゃいません。
ですが、今の罵詈雑言をなしにしたとしても、彼らは色々な禁忌をこのパーティーの中でおかしていたのです。
それに気づいていたかどうか。
いえ、気づいていれば、あのような私への罵詈雑言は出なかったでしょう。
「これはこれはペルニシカ皇子。ようこそ、と言いたいところですが、我が国の国賓であるカナデ嬢への先ほどの発言はなんですかな?」
「な、何か問題があ、ありましたか?」
さすがに、大公国の首領を前にして、いつも傍若無人なペルニシカ皇子も、悔しさを瞳に浮かべながらも殊勝な態度を取ります。しかし、
「無論。大問題です。我が国への最大の侮辱ととらえてもよい。貴国との愛想が尽きるほどにね」
殿下が微笑を浮かべます。ですが、それは見たことがないほどの冷徹なものでした。
「な、なんでだ! おれはこの下らぬ女を罵倒しただけだぞ!」
「はぁ……」
しかし、その言葉に、ブリューナク殿下、それにレン殿下の周りの温度がますます下がるだけでした。
「我が国の国賓であり、そして大聖女の二つ名を与えました。彼女はもはや我が国の重要人物です。これがどういうことか分かりますか?」
「ど、どういうことだ!?」
あちゃー。
私は頭を抱えます。どうやら本当に分かっていなかったようですね。
なら、あの罵詈雑言も頷けます。
「彼女への侮辱はこのブリュンヒルト大公国への侮辱であり、その王たるこのブリューナクへの最大の侮辱であるということです。しかも、こうした公の場でそれを口にするとは……。もはや、許しがたい罪と言ってよい」
「なっ!?」
「そ、そんな!?」
ペルニシカ皇子とシルビア様が驚いていますが、驚くほどのことではありません。
これは社交界では当然のことです。
しかも他国のパーティーによばれて、そこで迂闊な発言をするなど、貴族失格です。
文字通り、許しがたい罪なのです。
母国の重鎮がこれというのは、なかなか絶望感がありますね。
「だが、まぁ我への罪はこのさい些事である」
「えっ!?」
またしても驚かれます。王への侮辱が些事。
ならば、本命。
もっと大きな問題が残っているということです。それは一体?
「我が友を救い、そして将来この国に最大の恩恵をもたらすであろう、この聖女カナデへ、この場で正式に謝罪せよ。皇子貴様だけではない。それにつらなるお前たちども全員が、この場で手をついて謝るのだ。それにて今回の一件は全て不問にする」
「ええ!?」
「えええええええええええええええ!?」
ペルニシカ皇子たちが驚愕の声。無論、不満の声ですが、わたくしも同時に驚愕の声を上げてしまいました。
も、もしかして。
もしかして。
「で、殿下。もしかしてこのパーティーを開催したのは……」
「無論、そなたの名誉を回復するためだ。我のお気に入りであるそなたが馬鹿にされたままなど、俺の沽券にかかわる。ゆえに、この馬鹿どもを招待したのだ」
ひえええええええええ!?
まさかの理由でした。
で、ですが、こうして彼らにあやまってもらう機会を得られたことは素直に嬉しく思います。
母国では散々な目にあわされたのは確かですから、それは謝ってもらうべきなのでしょう。
「お心遣い感謝します。王よ。ではペルニシカ第1皇子、シルビア、アレックス、ルイス、ハイネ。この公の場でわたくしへの謝罪をしなさい。心から謝罪をすれば、この場にて大聖女カナデはあなたがたを許します」
「ぐぎぎっ……!」
「な、なんであんたなんかに謝罪をっ……!」
「馬鹿! やめろシルビア! ブリュンヒルト大公国の機嫌を損ねたら我が国がどうなるか!!」
「そ、そんなっ……!」
わたくしの言葉に、ペルニシカ皇子たちが悔しそうに歯噛みをしますが、社交界を知らないシルビアが反射的に何か言おうとするのを、押しとどめました。良かった、最低限の自分の立場くらいは理解していたのですね。
「さ、手をついて」
「ぐ、ぎ、ぎ……」
彼らは手をつくと、頭を地面にこすりつけるようにします。
そして、
「も、申し訳ありませんでした。カナデ様。お許しを」
そう言って許しを請うたのです。
ですが、私はそれが不十分に感じます。
「それだけですか?」
「は?」
頭を垂れながら、皇子たちが疑問の声を上げます。
「わたくしと決闘する際、一対一の戦いをするのは貴族の決闘のルール。しかし、あなたがたはそれを破って魔法でわたくしに眠りの呪文をかけました。そのことについても謝罪してもらいましょう」
その言葉に、周りの貴族から皇子たちへ罵声が飛びます。
「そのような卑怯な方法で決闘を!?」
「貴族の誇りはないのか!?」
「ペルニシカ皇子のいる国などとは今後断交するべきでは!?」
そんな声が飛び交います。
断交。
そうなれば、ペルニシカ皇子は破滅でしょう。
なりふりかまわず、再度地面に頭をぴたりとつけて謝罪の言葉をはきました。
「も、申し訳ありませんでした! わたしは神聖なる決闘を土足で踏みにじる罪を犯しました! ここにいる者たちと結託し、カナデ様へ祖国追放の罪をかぶせました!!!!」
「わ、わたくしは知りません! わたくしは無実ですわ!」
「お、俺だって、あの場所にいただけです!」
「わ、私もです!」
「ボクだってそうだよ!」
「うるさい! いい案だと一緒にはしゃいでいたのはどこのどいつだ! シルビアも伴侶となるなら、最後までこの夫たる俺の味方をしないか!」
「破滅する皇子など知りません! わたしは無実です! そ、そうだブリュンヒルト大公国で雇ってくださいませ! そこのカナデよりもよほど役に立ってっ……!」
「貴様ああああああああああ!!!」
「きゃああああああああああああああああああ!!! なにをするんですの! この落伍者! ヘボ皇子! わたくしの王妃になる夢を壊した似非皇子がああああああああああ!!!」
醜い争いがペルニシカ皇子と(聖女?)シルビアの間に起こります。とっくみあいの喧嘩です。
「ちょっと! 本当に母国の恥をこれ以上上塗りするのはやめてください! はぁ~」
わたくしはそんな醜い光景を、嘆息とともに見守るしかなかったのです。
そして、もはや罪人と同格になった皇子たちは、ブリュンヒルト大公国の衛兵たちにつれてゆかれてしまうのでした。
まぁ、2,3日も幽閉されれば、頭も冷えるでしょう。
母国の重鎮の首はすげかわっていそうですが……。
さて、そんな断罪の光景を、なんの関係もないブリュンヒルト大公国の皆様に見せてしまい、申し訳ないかぎりだと思っていたのですが。
皇子たちが衛兵に連れていかれると、
『パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ』
と拍手喝采が私を迎えたのでした。
「え? え?」
私が焦っていると、ブリューナク殿下とレン様がやってきて、
「さすがカナデ嬢だ。何か助けが必要かと思ったが、たった一人で彼らを放逐してしまうのだからな。やはり我の目に狂いはなかった」
「ええ、本当です。故郷になど帰らず、ずっと我が国の聖女として、ご活躍願います」
そう言って、なぜかお二人から手の甲へチュッとキスをされたのでした。
きゃー!
わたくしは柄にもなく照れてしまいます。
その後のことはよく覚えていません。
何だか夢のような気持ちで、そのパーティーを満喫したのでした。
いろんな偉い貴族の方々から、ご挨拶されたと思うのですが、正直ちょっと完全に記憶できているか怪しいところです。
さて、こうしてわたくしは祖国を追放され、そして、その追放した祖国の重鎮たちから謝罪を受けるという物語は幕をおろしたのでした。
この後、わたくしの身には数々の冒険や、出来事が降りかかり、なぜか伝説の聖女となっていってしまうのですが、それはまた別のお話。
(ご愛読ありがとうございました! 次回作にご期待ください!)
これにて完結です。
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