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第五話

 それからの僕の生活はバタバタだった。


 家族のみんながいないすきにヒトの姿になってスマホを確認したり。誰かが帰ってきたらあわてて猫の姿に戻ったり。

 君がベッドに寝転がって僕にメッセージを送るのを見て、あわててとなりの部屋のベッドの下にもぐりこんで返事をしたり。


 花火大会の日も大変だったんだから。


 君が浴衣姿で出かけるのを見送ってから用意しておいた黒猫のぬいぐるみを背の高い本棚の上の奥の方に置いて。

 家にいるママやタクくんに見るからないように猫の姿で窓から飛び出して。

 茂みの中でヒトの姿に変身して。

 全速力で待ち合わせてる駅まで向かって。


 でも、楽しかった。


 猫の姿で下から見るよりも、ヒトの姿で上から見た方が君の全部が見られるんだよ。

 大学生にしては落ち着いた雰囲気だけど、よく似合ってる浴衣姿を全部。


 手をつないだまま歩けるなんて不思議だよね。ふさふさの毛なんて生えてないのに、君の手は柔らかくて温かいんだ。

 僕の肉球の話をよくしてたけど、きっと君の手のひらの方がふにふにしてる。


 花火大会の会場はすごい人だった。

 人混みは怖いけど、君の近くなるからいいかなって思った。


 花火の音もすごく怖かった。家で聞くよりもずっとずっと大きいんだもの。

 一番初めのドン! って音。

 びっくりして君の腕にしがみついちゃった。


「うちの猫みたい。ユキって、なんか可愛い」


 くすりと笑う君に僕の心臓がトクンと跳ねた。


 猫の僕は可愛いって言葉が大好きだった。意味はよくわからないけど君がにこにこ顔で額をなでてくれるから、うれしくて自然とごろごろ喉が鳴っちゃう。

 でも、きっと今は猫の姿に戻ってもごろごろ喉が鳴ったりはしないだろう。


 可愛い、なんて言わないで。

 僕は君に、そんな風に見られたいんじゃない。


 君の額に自分の額をこすり付けた。僕が知ってる精一杯の大好き。

 そうしたら唇に温かくて柔らかな感触がした。たぶん、きっと君が知ってる精一杯の大好き。


 僕の目をのぞきこんで、君ははにかんで笑った。


「花火、怖くなくなった?」


 こくりとうなずくと、君は空を見あげてうれしそうに笑った。満面の笑顔になった。

 僕も空を見あげた。黒い空にいろんな色が飛び散った。


 大きな音はきれいな花が咲く合図。

 君がうれしそうに笑う合図。


 花火の音が、怖くなくなった。


 ***


 秋――。

 葉っぱが赤くなってるのを見て、何が楽しいんだろうって思ってた。猫のときに味見してみたけど、赤色や黄色になっても葉っぱはおいしくないよ。

 でも、君がきれいだってうれしそうに笑うから、おいしくなくてもいいや。


 冬――。

 ふさふさの毛がないのにヒトは寒くないのかなって思ってた。やっぱり寒い。暖房の効いた部屋の中にいようよ。イルミネーションなんておいしくないよ。

 でも、つるつるの肌に君がくれたマフラーを巻くとふかふかで気持ちがいい。手袋もふかふかだけど、君の手の方が温かいから片方だけでいいや。


 春――。

 桜の花びらが舞う中、お花見をした。僕は花より団子。君が作ってくれたからあげがすごくおいしかった。

 君はちゃんと花を見てたね。

 猫じゃらしを追いかけて走りまわる猫の僕を見て、君は可愛いって笑ってた。君もこんな気持ちだったのかな。


 桜の花びらを追いかけて走りまわるミキは、すごく可愛い。

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