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第二話

 猫は九つの命を持つ――。


 そんな迷信やことわざを聞いたことはあるかな。


 実際、僕たちは九つくらいの命を持ってる。

 くらい、っていうのは誰もちゃんと数えたことがないし、正確な数になんて興味もないから。


 何はともあれ、僕たち猫は九つくらいの命を持ってる。

 猫の悪魔はラクチンだ。


 なにせ、


「願いを叶えてやろう、代償はお前の命一つだ」


 と、いうお決まりの甘い誘い文句に僕たち猫はお気楽にうなずくから。


 九つくらいあるんだから一つくらい、いいかな。

 別にいいよね。


 そんな感じ。


 叶えたい願いというのもお気楽なものだ。

 何がいいかな。あ、あれが気になるからあれにしよう。そうしよう。

 そんな感じ。


 ときどき、あるでしょ。

 窓が開いていて飼ってた猫が出て行っちゃった、なんてこと。

 ちゃんと窓は閉めておいたはずなのにどうして? って、思うよね。


 そういうときは大体、猫の悪魔の仕業。猫の悪魔が願いを叶えて窓を開けたんだ。


 出て行っちゃった猫はちょっと外に興味があっただけ。

 すぐに帰ってくるつもりだったのに気になるものを見つけて追いかけていっちゃったり。思ったよりも外が怖くて動けなくなっちゃったり。帰り道を忘れちゃったりしちゃっただけ。

 それだけのこと。


 運良く道を思い出したり、猫の悪魔にまた会えたら願いを叶えてもらって帰ってくる。


 じゃあ、猫の悪魔が僕の前に現れたら、僕は何をお願いするのか。

 実はもう願いを叶えてもらってる。


 猫の悪魔が僕の前に現れたのは夏真っ盛りの頃。

 空は真っ青で、もこもこの白い雲が浮かんでて、セミと祭りばやしの音がにぎやかな季節。


 ミキちゃんのベッドの上で丸くなっていた僕の目の前に、猫の悪魔は突然現れた。


 猫の悪魔は僕と同じ黒猫の姿をしていた。

 でも、背中にはコウモリみたいな羽が生えていて、ふよふよと宙をただよってる。しっぽはふたまたに分かれていて、持ってる槍の先っぽはみまたに分かれていた。


「願いを叶えてやろう、代償はお前の命一つだ」


 お決まりの甘い誘い文句に僕は猫じゃらしをはむはむと噛みながら考えた。


 どんなお願いがいいかな。どんなお願いをしようかな。

 ずっと家の中にいて、一度も外に出たことがない。窓の外の世界がどんなところなのか見てみたいな。

 でも、あの美味しいおやつもたくさん食べたいな。ミキちゃんがたまに持って帰ってきてくれるお肉を干したやつ。

 でもでも、ミキちゃんが外で何をしているのかも気になるな。


 考えて、考えて……僕はいいことを思いついた。


「僕、ヒトになりたい!」


 猫の悪魔はこくりとうなずいた。


「命一つだと一年くらいかな」


 窓の外の世界をぜーんぶ見てまわって。お肉を干したやつをお腹いっぱいに食べて。ミキちゃんが外で何をしているのか見たらすぐに帰ってくるのだ。

 一年なんてかからない。


 僕はこくりとうなずいた。


 猫の悪魔がみまたの槍を一振り。

 僕の体からさらさら、ふわふわの黒い猫っ毛が消えてなくなった。


 こうして僕は一年くらい、ヒトになった。

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