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二話 馬車の中から。アリアサイド


 ◆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◆


 アリアサイド。


 ◆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◆


 ファシズ歴1105年の春。


 私はアリア・ファン・ローベル。


 十二歳。


 ローベル伯爵家の次女です。


 クリスト王国の王都ベルクートにある王立ロードグラム魔法学園に通っている普通……いや、少し普通ではない力を持っている女の子です。


 私の外見が優れているかは自分ではよくわかりません。


 ただ、もう少し身長が高くなってくれたと思うところでしょうか?


 数年後には大きくなってくれると信じています。


 それでも、今現在同世代の子に比べでも身長がかなり低いこともあって、幼い子供として扱われるのが悲しいです。


 それで今、私が何をしているのかと言いますと、馬車に乗ってある場所に向かっています。


 馬車に乗っているだけなのですけど、そのある場所と言うのがかなり遠いところにあってかれこれ六時間が経っているのです。


 長い時間座っているのは慣れているけど、体がカチコチに固まっています。


 私はぐぐっと背筋を伸ばして、体を伸ばします。


「んー」


「大丈夫ですか? アリア様?」


「さすがに、馬車移動の連続で疲れました」


「……あと少しで目的地です。ご辛抱を」


 私に声を掛けてきたのは私の他に馬車に乗っていたメイド服を身に纏った茶色の髪の女性。


 彼女は私がもっとも信用しているメイドのリナリー。


 リナリーは落ち着きのあるキリッとした茶色の瞳で凛とした顔立ちの女性です。


 癖のある赤茶色の髪を後ろで結んでいるポニーテール。


 身長は私よりも三十センチほど大きい百六十センチ後半くらいで背筋がピシッと伸びています。


 黒と白のシックなデザインのメイド服がとても似合っていると思います。


「それにしても、リナリー……聖獣様はいないのでしょうか?」


 私が向かっているある場所というのは、それは聖獣という聖なる獣が住処をなのです。


 つまり、聖獣を求めています。


 ここ二週間、私が住んでいるクリスト王国の王都ベルクート近辺に住処があるとされていた聖獣様の十三柱いる内の二柱……青龍と赤猿の住処を尋ねました。


 訪ねたのですが……その二柱が住処だとされていた場所には何も居なかったのです。


 何も残っていなかったのです。


 すごく残念でした。


 何より、魔法学園……学びの場を二週間も休むことになったのはとても残念で仕方ありません。


「聖獣は住処を定期的に変えるのだと聞いています。そもそも、聖獣はほとんど目にするものではあるません」


「そう……なんですね。私は聖獣様に避けられているのでは思っていました」


「ふふ、それは考え過ぎですよ。昔冒険者をやっていていた時、多くの森や遺跡に出向きましたが、聖獣……黄馬を見かけたのは一度空を走る様を一瞬見ただけですので。さらに言うなら、あまりに目撃することがないので冒険者の間では聖獣と会うと幸福が訪れると言い伝えがあるくらいです」


「それほどですか。聖獣様とはなかなか出会えないものなのですね。あ……リナリーは聖獣様を見て……何かいいことがあったのですか?」


 私の問いかけに、リナリーは何か面白いことでも思い出したように口元に手を置いて、小さく笑みを浮かべる。


「ふふ、そうですね。確かにありました。ちょうど、聖獣……黄馬が天駆けるのを見かけて、すぐ後のことでしたね」


「え? 何があったのですか?」


「アリア様という偉大な聖女様に母の病気を治していただきましたよ。そして、母は見違えるように元気になり、私は高額な薬代を払わないで済むようになったので……私は冒険者をやめ、恩を受けた方の下で仕えることができています」


「もう……私のことを褒めてもいいことないですよ」


 私はまっすぐ感謝されることになんだかむず痒さを感じて、そっぽを向きました。


 対して、リナリーは全く悪いと思っていない……すまし顔で謝ってきます。


「ふふ、すみません。ですが、事実なので」


「もう」


「えっと、アリア様も何か聖獣様にお願いを?」


「……」


「いや、さすがに違いますよね? わざわざ、アリアが王都から出て……魔法学園を休んでまで探しに行く理由は。すみません。秘密事なのかも知れないと、今まで詳しく聞きませんでしたが、ここまでくると気になってしまって」


「……そうですね。リナリーには話しましょう。別に口止めされてないので秘密ということはないでしょう。……私は聖獣様との間で【聖約】を結ぶためです」


「【聖約】……ですか?」


 聞きなれない言葉を聞いたのでしょうリナリーは首を傾げました。


 私は一回頷いて続き説明していきます。


「そう……【聖約】とは十五歳未満の聖人・聖女など多くマナを保有している者が聖獣様や精霊様などの大量のマナを有する方達との間で結ばれる契約だそうです」


「……大量のマナ」


「聖獣様や精霊様の望む条件を聞き。その条件を執行する代わりに、召喚権とマナの共有権を得るのです。その召喚権とマナの共有権を行使することで、私は強力な魔法を使用する際に彼らを一時的に召喚してマナを貸していただくのだそうです」


「はぁー大量のマナを得ることができるが……その【聖約】とやらには……十五歳未満という縛りがあるのですね」


「はい、何でも聖獣様や精霊様のマナを体が適合できるのが、十五歳未満だからだそうです」


「なるほど。なので、アリア様が十二歳の今探しに出ているという訳ですね」


「はい、そうなのです。ただ期限は約三年あるとは言え、二カ所の住処を訪れて姿を見ることもできない。聖獣様の望む条件すら知ることもできないとは……もうへこたれそうです」


「これは……気長にやるしかないでしょう。力とは多くの苦労を経て手に入れなければ、その重みに気付けないものですから」


「そう、ですね」


 リナリーはそういうけど……。


 私は強くならないと。


 私は早く大人にならないと。


 魔法学園で魔法を学ぶのも、今回の聖獣との契約を結びのも……すべては強く、大人になるのです。


 お母様との約束を守るために……。


 私は左手の甲をさすりながら、馬車の窓から外を見ました。


 馬車の外は草原が広がっていて遠くに森が広がっていたのです。


 外の様子から、もうすぐ聖獣の銀猫が住むとされる『バルベルの森』へとたどり着くことが分かりました。






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