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嫌な汗がこめかみから流れる。足を踏み入れればひとりも帰ってこないという、そんな城で鳴る警報。悪い予感しかしない。
どこに行くのが正解か分からない中で最善を導き出すのは至難の業だ。男は焦燥に駆られた頭で必死にどこに行くべきか思考を巡らせたが、右の道も左の道も2階へと続く階段もどこもかしこも危険な何かが潜んでいるのではないかと思われて1歩も進めずにいた。ただ、周囲の様子を警戒する事しかできない。
そのまま1、2分程経っただろうか。鳴り響いていた音が止んだ。しんとなった空間に相反して何故か耳鳴りが聞こえて来る。それに邪魔されながら、今までの視覚からの情報に加わった、音という感覚に神経を尖らせた。
また数分の膠着状態の後。いつもより鋭くなった男の聴覚に、遠く遠くからある音が聞こえて来る。
ブオン…ブオン…
最初は、遠くから聞こえるそれは重々しすぎて、なんの音か分からない程だった。しかし音が段々と大きくなり、また、左の通路の奥の奥から物凄い速さで近付いて来る物体が何か分かった時。それが何かを男は理解した。
「何でよりによって…ガーゴイルなんだ…っ!」
角を生やし、苦悶の表情を浮かべ、手には槍を携え、背中にはコウモリの羽が生える。男目掛けて猛スピードで向かって来たのは紛れもなくその体全てが石でできた魔物、ガーゴイルだった。