4
バタン。男の後ろで扉が閉まる。
男は、視線を下げていた為、扉が閉まった瞬間に『変わった』床に気付いた。
入るまでは外壁と同じく穴の開いた、ぼろぼろの石材だったそれが一瞬でピカピカの大理石に変化していた。
狐に摘まれた様な感覚で顔を上げると、男の目の前に広がるのは見るからに立派な、王様でも出てきそうなエントランスだった。
床も壁も全面大理石でできており、正面から左右に、別々に伸びる階段は緩やかに弧を描いて二階の踊り場へと繋がっている。
男が立っている床からその階段や正面の赤地に金の装飾がなされた扉に向けてはこれまた赤地に縁を金で彩られた毛の短い、高級そうな絨毯が惜しげもなく敷かれている。
大理石の白に赤と金の調度品達が良く馴染み、その場の高級さをより一層高めていた。そして、男の場違いさも。
男は束の間呆けた後、我に帰ると、入って来た扉にくるりと振り返った。ノブに手をかけ回すがビクともしない。全体重を掛けて引いても、思い切り体当たりしても扉は開こうとしない。暫く扉と格闘している間、男は、自分の嫌な予感が当たった事を感じていた。何とも言えず感じていた不自然さ、異様さ、不気味さ、違和感は当たっていたのだ。となると、今感じている根拠のない危機感も恐らく見当違いでは無いだろう。男は、自分が魔物の腹の中の獲物になった様に感じた。
男は動く気配のない扉を諦め、絢爛豪華なホールに向き直った。煌びやかな照明を見上げてどうしたものかと一瞬考えはしたが、何が起こっているのか全く分からない状況で答えを得るのは、名探偵でもない男には無理だった。
取り敢えず城内を探索して外に出れる場所を探そうと、視線を下に戻す。部屋の左右に伸びる廊下はどちらも突き当たりまで結構な距離がありそうだ。
左の廊下から見て回る為に一歩、踏み出した。その瞬間。
ジリリリリリリリリリンッ!!!!
けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。