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木々に囲まれて鎮座しているのは古びた城である。
城壁こそ無いものの、横幅だけでも百メートルはありそうな面構えと、同じ位奥に伸びた全景を見て、周りが木しかない中での異様さを感じる。また、城から外周の森までの五十メートル程が雑草の無い綺麗に刈り揃えられた芝生と、わざと切り取られなかった花々が咲く光景は、美しさと共に、蔦が絡まり壁がひび割れ、窓のステンドグラスが粉々になった古城と相反した手入れの行き届き様に、男は少し薄寒い印象を覚えた。
男が今出ようとしている森に面する城の壁に、この城の入り口が見える。森からその城門までは自然にくねりながら、踏み固められた一本の道ができていた。
森の外の村で聞いた話に寄ると、長い間村人はこの城に近付いていないと言う。では、一体誰がこの芝生を整備して道を踏み固めたのだろう。男の脳裏にそんな疑問が過ぎる。男の『同業者』や他にこの城に興味本位で近付きそうな研究者、冒険家等は、荒らす事はあっても環境を整えて帰る事はしない筈である。
ここに来てから不気味さばかり募る心の内に、拭えない不安に、膨らむ嫌な予感に、らしく無いと自分で自分を奮い立たせて、男は光の溢れる空間へと足を踏み出した。