人造人間を作った理由【カリナ過去編】
どれくらいの時間がたったのか全くわからない。
ただ荒れ地に立ちすくんで、血に濡れた得物をただ眺めていた。
「…笑い種だな、死ねもしない」
虚しさだけが心を支配する。気が付けば当たりは何もなくなっていた。
失ったものは大切なものだけでなく、心までもなくなってしまっていたようで。
「虚しいな。なにが賢者だ。なにが所長だ。結局何も残らなかったじゃないか」
ゆっくりと振り返って前を見る。何もない焼け野原。その中に彼は立っていた。
荒れ地の奥のほうから、二人の人影が走ってくるのが見える。
「なんやこれ!なにがどうなっとんねん、カリナのアホは何しとるんや!」
「でも朔真、おかしくない? カリナがいてこんなことになるわけないのに」
「ほんまや、しかもここら辺ってカリナの研究所があったとこちゃうんか、それなのにこの惨状どないなっとんねん!」
その人影は四賢者のアリアと朔真だった。近衛警備隊から通報があったのだろう。大陸の枠を飛び越えて、代表である彼らが行くべき案件と判断し、彼らはここに向かっていた。
昨日まで話していたカリナが無事なのかの確認も兼ねて、ただひたすらに彼らはこの大陸を目指していたのだった。
「…」
「え? カリナ?」
そして到着した彼らが見た者は、黒衣を身にまとい、血に濡れた大鎌を持つカリナの姿だった。
カリナは二人に気づくと、ゆっくりと歩いてくる。友好的な歩みではないことは二人もすぐに察することができた。
「カリナ!何があったん、お前なにしとんね」
「五月蠅い」
カリナに近づこうとした朔真の目の前をカリナの鎌が横切る。あと数センチ近ければ、おそらく朔真の首は落とされていただろう。
咄嗟に距離を取り、朔真は自分の得物である銃をカリナに向ける。
「何さらすねん、死ぬとこやったやないか!」
「ねえカリナ、何があったの? 普通じゃないよ! 昨日あんなに優しそうな顔してたのに!」
アリアが慌てたようにカリナに詰め寄ろうとするものの、再びカリナは彼女にまでも鎌を振るう。
「わりい、オルフェイン。お前との約束。一個破るわ」
誰にも聞こえないほど小さく呟いたと思えば、まるで境界線を敷くように二人の目の前の地面を真っ二つに切り裂いた。
「黙れよ」
まるで大戦の時敵に向けていたかのような、そんな視線に、銃を構えていた朔真が思わずその引き金を引く。
彼の頭部目掛けて放たれた銃弾であったが、彼に当たる直前、その存在が消えた。カリナが銃弾そのものを否定したのだ。
「…あいつとの約束なんだ」
「は? 何わけわからんこと言うとんねん」
「朔真、アリア。お前らでも俺の邪魔はさせねえ。どうしても止めたいなら止めてみろ。できんのか?」
「もうわかんない!とりあえず一回眠っててもらうからね!」
アリアの背後に巨大な魔法陣が展開される。それを援護するように、朔真は血の腕を顕現させ、カリナに対して走っていった。
「邪魔すんなっつってんだろ!!」
朔真が射程圏内に入る前にカリナは自身の鎌を大きく横なぎに振るう。
竜巻のような突風が彼の周りを囲んだかと思えば、朔真が放った銃弾はそれに弾かれカリナまで届かなかった。
「いける、準備できたよ。ごめん、カリナ!ちょっと痛いけど我慢して!」
その突風目掛けてアリアの背後の魔法陣から赤色の光線が放たれる。
それはカリナの竜巻を易々と貫通し、その背後にあった廃墟まで吹き飛ばすほどのものだった。
「もうええやろ!なんで仲間で争わなあかんねん…って、あら?」
「カリナが、いない。魔力の気配もない、嘘…」
竜巻が晴れた後、そこにカリナの姿はなかった。
呆然と立ちすくむ二人。周囲を見渡してもカリナの気配はない。
「なんやねんな…」
どこに行ったのかも知れず。朔真とアリアはただ辺りを見渡していたのだった。