人造人間を作った理由【カリナ過去編】
それからというものの、彼女が来たことによりいい影響が研究所内にわたっていた。
第一に彼女の研究技術の高さが他の従業員に伝わったことが大きい。
これまで詰まっていた課題も、それぞれの技術向上により改善されていくことが増えた。
そして小さなものだが、今まで四賢者として近寄りがたい印象が強かったカリナの雰囲気が、少し柔らかくなったことがある。
オルフェインという緩衝材のおかげか、研究員が気軽にカリナに相談できるような環境が出来上がっていったのだ。
「あれ、そういえば所長。最近顔色いいっすね」
「ん?そうか? まあ最近は体が軽い気もすんな」
三点目としては、カリナ自身のコンディションの改善があった。
研究漬けで体調を崩すことも少なくはなかったカリナだが、オルフェインが来てからというものの、カリナしかできなかった作業を彼女が代行してくれるようにもなり、カリナの負担が大きく減ったことは事実だ。
「ひょっとして、オルフェインさんの愛妻弁当のおかげっすか? いやー!いいなあ!モテる所長はやっぱり違いますねー!」
「ふざけたこと言ってねえで仕事しやがれ、給料減らしてやろうか」
「おー!所長が怒った怒った。怖い怖い」
ただまあ、所長としての威厳が失われていないか疑問ではあるが。
「ねえねえ、カリナってさ、この研究終わったらどうするの?」
ある月が綺麗な夜。業務も終わり、研究所内の休憩室に居たカリナにオルフェインが訪ねた。
まだ残っている従業員も居たため、「俺も聞きたいっす」なんて何人かが集まってきてカリナの周りを囲んでる。
「そうだな…俺の代わりに誰かを所長にして、俺は取締役でのんびりさせてもらうかな」
「お、悪くないっすね。オルフェインさんとか次期所長って感じじゃないっすか?」
「え? 私?」
ま、もうちょっと落ち着くこと学んでくれねえとできねえか。なんてカリナが言えばオルフェイン以外の従業員が笑って、間違いないっすねなんて彼女をからかう。
「私十分落ち着いてるし! 大人の女性って感じでしょ?」
「落ち着いてる人は所長のコーヒーに入れる砂糖の量僕のと間違えて倍にしたりしないっすよ」
「あ、あれはカリナが甘いもの苦手だって知ってたからわざとやったんだし!!」
「…尚更タチ悪いじゃねえかよ」
この環境なら近いうちに俺の役目は終わるかもな。なんて思えば、カリナは呆れたようにため息をつく。
「あ、そういえばカリナ、明日出勤してこないでね?」
「…はあ!?」
「最近カリナ働きっぱなしでしょ? こないだ峯岸さん来て、「カリナのアホにたまには顔出せっていっとけや」って言ってたから、顔出してあげたほうがいいよ!」
「こっちの研究は任せてくださいよ所長。ある程度形にはなってますし、たまには他の四賢者の方とも交流もたないと。所長人付き合い下手なんだから貴重なお友達じゃないっす…いてててててててて」
軽口をたたいてきた従業員の頭を締め付ける。これでもかってほどのアイアンクローで締め付ける。
だが、朔真が来たんなら行かないとうるせえな、なんて思うと、深いため息をついて「わかったよ」とカリナは頷いた。
「あ、それとね。カリナに渡したいものがあるんだ」
そういってオルフェインから渡されたのは綺麗な翡翠色の髪飾りだった。
「…なんだこれ」
「カリナへの誕生日プレゼント! 魔力抑えれるようにプログラム組み込んであるんだよ。前にカリナそのことでぼやいてたでしょ? 魔力のコントロール苦手だって。だからみんなで作ってみたの」
「所長女性みたいな見た目してますし絶対に合いますって。町で男にナンパされないように気をつけて下さいててててててててて!!もげます、頭もげますって!!!」
手元で輝く綺麗な髪飾り。片手で部下にアイアンクローをかましながら、カリナは器用に自分の前髪に止めた。
「あ、綺麗!すっごい似合ってるよ!」
「…頭もげるかと思ったっす。あ、でも似合ってますよ!カッコいいじゃないっすか」
「明日朔真さんとかアリアさんにも自慢しておいてよ。可愛い彼女が作ってくれたって」
「…はっ、どこにその可愛い彼女がいるんだか。いたら見てみてえもんだな」
「もー!! いつになったら私に告白してくれるのさ!」
「また神様との戦争とかってなったら考えてやるよ」
「…所長。そんなこと言ってると一生独り身っすよ」
本日三回目のアイアンクローを決めたところで、カリナは自分がつけた髪飾りを軽く撫でて、小さく笑う。
「ありがとな。大事にするわ」
「うん。誕生日おめでとう、カリナ!」
「おめでとうございます、所長!」
「…おう、さんきゅ」
ささやかながらも、久しぶりに誕生日なんて祝ってもらったな。なんて言えば。照れくさくなったのかカリナは「じゃあ、今日のうちにあっちに向かっておくわ」なんて言って研究所を後にした。
少しばかり足取りは軽い。何か土産でも買ってきてやるかな、と考えつつ、カリナは朔真とアリアがいる夏の大陸の大図書館へ向かっていった。
つけている髪留めのおかげで、大規模な移動は魔術で行えない。
「久しぶりにゆっくり歩くな」
代り映えもしない景色を眺めながら、ゆっくりとカリナは歩いていく。
もう少しで研究も完成する。ようやくだ、と思えば早かったような気もした。