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第一章 起承転結の起。主人公、ヒロインと出会うの図。・その1

       1




 御堂静流が文芸愛好会にやってきたのは、一週間ほど前の、ある放課後のことだった。


「あのさー佐田、夏休み、部活動するのか?」


 いつものように俺が部室に行って読みかけの本を開いたら、先にきてた鴻上由紀乃が声をかけてきた。――この時点では、実は、まだ鴻上は文芸愛好会の人間ではなかった。一年のころから、なんとなく一緒にいるだけの関係である。


 古い言い方をするなら、腐れ縁だった。


「夏休みは部活ないだろうな」


 俺はいつもの席に着いた。読みかけだった本を開く。


「相変わらずやる気ゼロだねー」


 部員でもないのに、なんとなく入り浸っている人間に言われることじゃない。


「いいんじゃないか? 先輩たちだって、もうおしまいだって、前から言ってたし」


 その先輩たちは去年卒業。三年の先輩は受験で引退。残ったのは俺だけ。部員が五人未満のため、文芸部は文芸同好会に格下げ。その後、顧問の教師が転勤で、同好会から愛好会へ、さらにランクダウンしたのが、いまの、この集りの状態だった。ダラダラ愛好会と言ってもいいかもしれない。


「どうせ、もう会誌も発行しないし」


 俺だって、ここで本を読むだけだ。何か書こうって気は起こらない。ほとんど部室を不法占拠しているも同然だが、とくに文句を言ってくる人間もいないので、俺と鴻上は毎日のようにここで駄弁っていた。


「ま、いいか。佐田がそう言うんなら。ОBの先輩たちに怒られてもあたしは知らないし」


 なんて言いながら、鴻上がマンガをとりだした。


「あ、そうだ」


 そのまま、マンガを読むのかと思ったら、鴻上が何か思いついたように顔をあげた。


「佐田、夏休み、部活はないけど、ほかに何か予定はあるのか?」


「予定?」


 言われて、俺はちょっと考えた。


「べつにないな」


「あそ。じゃ、夏休み、どっかに遊びに行かね?」


「――遊びって、どこに?」


「そんなの、これから考えるよ。それとも、断る理由でもあんの?」


 ふむ。――ないな。


「べつにいいけど。冗談抜きに予定なんてないし」


「わかった。じゃ、なんか予定日が決まったら、連絡するから」


 言って鴻上がマンガに視線を戻した。このあとは、とくに会話らしい会話もなく、俺は小説を読み、鴻上はマンガを読む。それが俺たちの日常だった。


 ただ、そのときだけは、少し違ったのだ。


「あのー、失礼します」


 部室の外で、澄んだ声がした。――文芸愛好会の部室はLL教室の隣である。放課後、このへんを歩く人間はいないはずだった。俺が顔をあげると、鴻上も同じように顔をあげている。


 俺と鴻上は視線を合わせた。


「いまの声、この部屋に用がある人じゃね?」


「だと思う」


「あのー、失礼します」


 また声がした。やっぱり、この部屋に用があるらしい。


「なんだろ?」


「佐田がでろよ。文芸愛好会の代表だろ?」


 一応、そういうことになる。俺は立ち上がって戸口の前まで行ってみた。


「どちら様でしょうか?」


 扉をあけながら訊いてみた。


 少し背の低い、三つ編みツインテールの、メガネをかけた美少女が立っていた。うちの学校のブレザーじゃなくてセーラー服を着ている。


「あ、あの。文芸部って、ここだって聞いたんですけど」


「文芸部じゃないよ」


 と、返事をしたのは俺じゃなくて鴻上だった。振りむくと、不思議そうな顔でこっちに歩いてくる。


「いまはは、文芸部じゃなくて文芸愛好会だから。ま、名前ばっかりで、全然活動してないんだけどさ。愛好会の代表がやる気ゼロだから」


 ひどい言いようだが、事実だから反論できない。鴻上が、メガネの美少女を興味深そうに見おろした。


「それで、あなたは?」


「あの、私、御堂静流って言います」


 メガネの美少女が自己紹介をした。ちょっと古風な名前だな。


「あたしは鴻上由紀乃って言うから。よろしくね。それから、こっちのヤローは佐田哲朗」


 俺が言うより早く、鴻上が説明した。


「あのな。一応、この愛好会の代表は俺なんだけど」


「硬いこと言うのやめろって。ほら、邪魔。よくわかんないけど、お客様がきてるんだし」


 言いながら鴻上が俺を押しのけた。


「はい、どうぞ」


 鴻上が、御堂って美少女を部室に招き入れた。御堂も、キョロキョロしながら入ってくる。


「じゃ、どうぞ」


 鴻上が御堂を椅子に座らせ、自分も向かいに座った。カバンからポッキー系の菓子をだす。ポッキーそのものじゃなくて、コンビニで売っているPB商品だった。


「お客さんがくるって知ってたら、缶ジュースでも用意したんだけどね。ま、お菓子だけでも」


「あ、あの。ありがとうございます」


「それで、どんな御用? この学校、どうだった? 来年、受験する気?」


 俺を無視して、鴻上が御堂に質問した。これは俺も興味がある話だったので、横で聞くことにする。


 御堂と名乗った美少女が、少しして、あわてて手を左右に振った。


「私、この学校の生徒です」


「え、そうだったんだ?」


 御堂が意外そうな顔をした。


「あたし、どこかの中学生が、うちの学校を見学に来たのかと思ってた」


 実を言うと俺も思ってた。


「あの、私、実は、今日、この学校に転校してきたばっかりで。この学校の制服、まだ買ってなくて、セーラー服ですけど」


「あ、そういうことか」


 背も低いし、童顔だから勘違いしてた。ま、これは本人がコンプレックスに思っている可能性もあるので、黙っておくべきだろう。そのまま見てたら、御堂がおずおずと口を開いた。

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