終章 起承転結以降の終。主人公、ヒロインを助けたあと、自分も話を書くの図。・その2
帰り道、由紀乃が訊いてきた。
「ま、無理だろうな」
「あ、無理か。――はっきり言うね」
「本人もいないしな。大体、生まれてはじめて書いた小説が公募で受賞するなんて、常識で考えてあり得ない話だ。それに、今回、静流が書いた話は王道すぎる。悪く言うなら、誰にでも書けるってことだ。ま、基本はわかったと思うから、あとは書いて応募して、落ちまくって書評をもらって、自分でチャンスをつかむしかない」
「なるほどね」
「それに、意外と静流はがんばれるんじゃないかって俺は思う」
「へェ? なんでだよ」
「小説を書くのが好きでやってるわけじゃないからな。趣味でやってる奴は、飽きたらやめちまう。静流はそうじゃない。静香の夢を代わりにかなえようとしてやってるんだ」
言い、俺は虎の巻を開いた。
「これは出版社Sで聞いた話だ。『写真家とカメラマンという違いがありましてね。ヒマラヤに登って、雪山の写真を撮ってくるのは写真家。あまり売れないでしょうけど、信念があるから尊敬の対象です。カメラマンは、水着のアイドル写真を撮って「もっと胸を寄せてみようか」こんなでしょ? 売れるだろうけど、信念がないから尊敬はできない。それと同じで、作家とライターの違いがあるんですよ』で、ある人の名前をだして『あいつは完全にライターです。自分の信念なんて何もない。売れるものを書いて、金を稼いで、それで満足な奴なんです。我々も儲かるから使ってますが、作家として尊敬はしませんね。「は! おまえなんか作家じゃねーよ。ライターだよ」と言ってます。それでいいって言う人種もいるんですよ』」
ここまで読んで、俺は顔をあげた。
「いまの静流が、まさにこのライタータイプだな。仕事でやってるのと同じだから、最初から飽きる飽きない以前の問題だし、うまく極めたら、かなりのところまで行けると思う」
「ふゥん。そういうもんなのか」
「ま、『無理して書いても、好きでやってる人間にかなうわけがない』なんて意見もあるけど、俺は賛同したくないな。そういうのは、『凡人が努力しても天才には勝てない』と言ってるのと同じだ。凡人でも努力すれば天才に勝てる。そう信じてがんばっている人間なんて、いくらでもいるだろう。俺はそっちの味方をしたい。静流を見てて、そういう気分になってきた」
「なるほどねー」
俺の横を歩いていた由紀乃が、少し感心したような顔をした。
「あたしも、マンガは読むのが好きなだけで、描けるわけないって思ってたけど、試しに描いてみようかな」
「え、お姉、マンガ描くの?」
「マンガって言うか、イラストでもいいかな。サーバナイトにでてくるドラゴニアンとかさ。マンガの絵を真似して描いてれば、そのうちうまくなるかもしれないし」
「それでいいんじゃないか? 千里の道も一歩からって言うし」
適当に相槌を打って、なんとなく俺は空を見上げた。
「俺も、久しぶりに長編を書いて応募してみるかな」
「え、佐田も書いてみるのか?」
「まァな。静流のがんばってる姿を見てたらやってみようって気になった」
「そういえば、佐田って、なんで書くのやめちゃったんだよ? 一回、短編を書いて雑誌に載ったくらいなのに」
「あ、その話か」
俺は頭をかいた。照れ隠しに苦笑して見せる。
「長編を、半分くらい書いてて、途中であきて投げ捨てちまったんだよ」
「――は? 佐田が? そんなんで、静流に師匠みたいな顔して偉そうにものを言ってたのか?」
「長編小説ってのは、想像以上に書かなくちゃいけなくてな。俺も甘く考えてた」
俺は虎の巻に目をむけた。
「これは庄司卓先生の言葉だ。『とにかく最後まで書きましょう』」
「――なんだよそれ? あたりまえのことじゃん」
「それが俺にはできなかったんだよ。極意は基本にあり、だったんだけどな。俺も気がつかなかった」
俺は虎の巻をポケットに突っこんだ。
「とりあえず、俺も何か書いてみるわ。静流を見ていて本当に勉強になったよ」
「で、どんな話を書くのか考えてるのかよ?」
「一応、ネタがあるにはあるんだ」
言ってから、俺は少し考えた。ま、説明しても問題ないだろう。
「参考にしている虎の巻が同じなんだから、ストーリーの基本とか、メインヒロインを複数だすとか、そういうのは、どうしてもサーバナイトと近いものになると思う。差別化するとなると、設定はファンタジーじゃなくて、現代日本にするべきだろうな」
「はいストップ」
由紀乃が口をはさんだ。横をむくと、おもしろそうに笑っている。
「あのな? 質問を変えるから。佐田が書こうと思っていた話なんだけど、ものすごく簡単に、何がどうしてどうなる話なのか、それを言ってもらえるかな? 時間で十秒。小説で言うと、一行でおわるくらいの、ものすごく短めの文章で」
「――あァ、そうだったな」
俺は苦笑した。人に聞くときは的確にアドバイスできるのに、いざ自分が語るとなると、やっちまうもんらしい。指摘されないと気づかないものだ。
「えーとな」
俺は由紀乃に笑顔をむけた。
「ライトノベル作家志望者の夏休み部活動、かな」
本日のおさらい。
・「なんらかの資格は持っていた方がいいです」(声優林原めぐみさん)
・「とにかく最後まで書きましょう」(庄司卓先生)




