第四章 起承転結の結。主人公、ヒロインを守るために切れるの図。・その6
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というわけで、実際に書きはじめてみたわけだが、これが意外に大変だった。
「あ、本編で、いきなりサーバナイトの設定をズラズラ書くのはNGだな。えーと、出版社Mで聞いた話だけど、『いまの読者は設定を読むのを嫌がるんですよ。西暦三〇〇〇年、人類は地球を離れて~この時点でもうだめ。読者が読みたいのは、設定じゃなくてキャラクターなんです。ただ、設定の存在しない話は存在しない。だから読者が、いま、自分は設定を読まされているんだな、と意識しないように設定を説明しなければならない。その点、スレイヤーズ! の先生はうまかった』だそうだ」
「わかりました。それはいいんですけど、スレイヤーズ! って、どんな感じだったんですか?」
「ボケとツッコミ漫才形式だったらしい。『あーうっとうしい! こんなことも知らないの? いい? これはこうなのよ』『やっぱりわからない』『だめだ! こいつの頭のなかには脳みその代わりにクラゲが詰まってるんだ!』なんて感じで、ただ読んでるだけでおもしろい文章だったんだそうだ。で、気がつくと設定も頭のなかに入っている」
「なるほど」
「あと、こんなのもある。海外クリエイター、作品制作の十戒の三でな。『説明は物語のためにある。説明のための説明は不可』。つまり、不必要な説明は書くな、ということだな。ま、基本的な考えは同じだと考えていい」
「わかりました」
「それから、これはネットの意見だ。『いかにして読者に、ストレスを与えずに、すらすら設定を説明するか? スレイヤーズ! がある程度参考になる。設定の解説したいなら中盤後半になってからだよね』あと、『先にストーリー進めて刺激を与えてから、それに関係した設定説明だけなら、思ったほどうざくない。鬱陶しくない設定説明は異世界ジャンルに共通する必須技量』、『細かい設定まで書かれると、これある意味あるの? と読者は思うよ』、『場面に必要のない細かい設定、細かい描写は必要なし』だそうだ」
「――設定の説明って、難しいんですね」
「そうだな。いかに、読者にストレスを与えずに設定を理解させるか? は、これからの、静流の課題だと思う。これは実際に書いて、俺たちから感想を聞いて、試行錯誤しながら技術を磨いていくしかないから、とにかくがんばってもらうしかない」
「わかりました。がんばります」
「あの、ここ、叙述トリックって言うの、やってみてもいいですか?」
「やりたかったらやってみてもいいけど、どういうのをやってみたいんだ?」
「主人公の佐竹鋼哲朗は、最初、訳がわからないまま、サーバナイトにくるわけですよね? それで、どうしてなんだって人に訊いてまわって、それはドラゴニアンのマリアが魔法で召喚したんだって知って、会いに行ったら、実はマリアは女の子でしたって感じの奴です」
「なるほど。でも、マリアって名前の時点でもう女の子の気配プンプンしてるぞ」
「あ、そうでしたね。名前変えようかな」
「それでもいいけど、そのアイデアは、主人公の佐竹鋼哲朗と、ケモミミのジルの出会いのときに使うといいんじゃないか? ほら、ケモミミのジルと、ガラの悪い連中がトラブってるときに主人公の佐竹鋼哲朗が助けに入るって、前に言ってただろ? で、そのときに、意外や意外、ゴロツキと喧嘩していた威勢のいいのは女の子でした、みたいな感じで。名前を言うシーンは、そのあとにすればいいし」
「あ、なるほど。じゃ、このアイデアはそっちに使います。となると、ジルが登場するシーン、外見の描写は少なめにしないといけませんね。メモメモ」
「あのさ、ここ、ドラゴニアンのマリアが妊婦さんの手をひいてて、それで、『鉄砲腹だから、きっと男の子ですね。元気な子だといいですね』って言ってるじゃん?」
「あ、はい。妊婦さんのお腹が張ってるときは男の子だって、昔から言うみたいなので」
「これってさ、マリアの優しいところがでてて、いいシーンだと思うけど、いまスマホで調べたら、鉄砲腹って、鉄砲で自分の腹をうちぬいて死ぬことだってあるよ? 使い方間違えてるんじゃね?」
「あれ? そうでしたか。すみません、言葉を変えます」
「ふゥん。ライトノベルを書くのって時間かかるんだ。あたし、簡単に読めるから、それと同じで簡単に書けるんだと思ってた。お姉、あたし、退屈なんだけど。ここにあるマンガ読んでもいい?」
「ちょっと待ってな。静流、春奈にマンガ読ませてもいい?」
「あ、はい。かまいません」
「三点リーダーとダッシュは多用するべきじゃないな。出版社Gのブログだったかで、新人賞の応募作を読んで『当分ダッシュは見たくない』というのがあった」
「あ、はい。――となると、かなり難しいですね」
「その難しい課題をクリアしないとな。小説の主体は文章だ。三点リーダーやダッシュじゃない」
「わかりました」
「これって、みんなが主人公のことを統一して『勇者鋼哲朗様』って読んでるけど、キャラによって飛び方を変えるといいかもしれないぞ。これは田中芳樹先生が『創竜伝』という小説を書いたときに使った手法なんだけどな。『主要キャラは、そのキャラごとに、ほかの主要キャラへの呼びかけ方を変える。たとえば、始という長男がいて「兄さん」と呼びかけたら次男の続のセリフ、「始兄貴」と呼びかけたら三男の終のセリフ、「始兄さん」と呼びかけたら四男の余のセリフ。こうすると「と、誰それが言った」と書かなくて済むから、話がテンポよく進む』だそうだ」
「わかりました、佐田師匠」
「ねー佐田さん、こっちでトランプやりませんかー?」
「ほら春奈、佐田の邪魔しない。佐田はライトノベルの書き方指導で忙しいんだから」
「あれ? ここ、ハテナマークの使い方、おかしくね?」
「え、おかしいですか?」
「ほら、ここ。『ここはサーバナイトの大神殿だぞ?』てなってるじゃん? はてなマークって、漫画だと『先生、質問いいですか?』とか『あれ、どうしてなんだろう?』てときに使うからさ」
「あ、これ、私もおかしいと思うんですけど、佐田師匠に言われて、勉強しようと思ってライトノベルを読んでたら、こういう使い方をよく見たから、ライトノベルでは、いいのかな? と思って」
「あ、これは、まだ学校の授業じゃ教えてないからな。ライトノベルで普及してきた新しい言葉の使い方で、これでも、きちんとした質問の形なんだ。最後に『わかってるよね?』とか『知らないのか?』という言葉をつけるのが本当なんだけど、それを省略してるんだと思ってくれ」
「ふゥん。じゃ、これ、『ここはサーバナイトの神殿だぞ。わかってんのか?』てことか」
「あ、それだと、ちゃんとした、確認とか、質問の形になりますね」
「そうそう。だからこれは問題ない」
「あ、変に格好をつけて、凝った言い回しを意識することはないな。かえって読みにくくなる。『ルシフェルの再来のような気高さ』とか『三千世界の儒箱の隅をつつくような雷鳴』なんて、訳のわからない言葉になっちゃったりするし。むしろ、意識的に脱力して文章を書くべきだ」
「え、そうなんですか?」
「これは、空のキャンバスってマンガからの引用なんだけど。『本番は七〇パーセントの力で挑め。本番では緊張して、意識してなくても三〇パーセントくらい、どこかに無駄な力が入っている。そこで一〇〇パーセントの力を発揮しようとすると、合計で一三〇パーセントの力をだすことになる。でるはずのないパワーをだそうとすると空回りをして失敗する。七〇パーセントの力と、無意識に入っている三〇パーセントの力で普段の一〇〇パーセントだ』だそうだ」
「あ、なるほど。わかりました」
「ただ、ドカーンなんていう擬音は極力使うべきじゃないな。それをやると薄っぺらくなる。それをやるくらいなら『耳をつんざく轟音が響き渡った』なんて感じにするべきだ。擬音に頼るのは脱力じゃなくて手抜きだから」
「はい、脱力はしても手抜きはするな、ですね」




