第四章 起承転結の結。主人公、ヒロインを守るために切れるの図。・その2
「なんか、いつも騒いでる気がするんですけど、部室だけじゃなくて、外でもなんですね。何をやってるんですか?」
不思議そうに静流が訊いてきた。そりゃ、不思議そうな顔もするだろう。
「なんでもない。静流がきてくれて助かったよ」
俺はため息をつきながら返事をした。由紀乃は唸りながら春奈を睨みつけている。春奈が怖がっている感じはなかった。なんだかんだ言って、ちゃんと手加減してくれているってわかっているらしい。要するに舐められてるってことなんだが、これは姉妹の問題だから俺が口出しできることじゃなかった。
「あ、そうそう。静流の私服も似合ってるぞ」
一応、礼儀もあるし、俺は静流に言っておいた。静流は青いワンピースである。実際、普段から清楚なイメージの静流には似合っていた。
「え、そうですか?」
何気なく言っただけなのに、静流が赤くなった。由希乃に言ったから静流にも言っただけなんだが。やっぱり褒め言葉ってのは言って損をするものではないらしい。
「佐田師匠、こういう服って、ひょっとして好みなんですか?」
「好みって言うか、静流には似合うなーって思っただけだ」
「そ、そうなんですか。嬉しいです」
赤い顔で笑いながら静流がうつむいた。視界のすみで、春奈が由希乃に近づく。
「あのさお姉? 本当に、押し倒して、力任せでもいいからものにしちゃいなよ? 既成事実をつくっちゃえば、佐田さん、きっと責任をとってくれるよ?」
「ばばば馬鹿! だから佐田とはそんなんじゃないだから」
とりあえず俺は聞こえないふりをしておくことにした。
「さ、行こうか。主人公もできたしヒロインもできたし、メインにからむサブストーリーもできたし、あとはメインの話と、実際に静流の書いた話の推敲だな」
「あ、はい。わかりました」
静流が返事をしながら顔をあげた。
「じゃ、きてください。バスはこっちですから」
「ふゥん。バスで行くのか」
「え、ひょっとして、バス代を用意してなかったとか?」
「大丈夫。スイカくらい持ってる。じゃ、行くか」
「ほら春奈、行くよ。春奈のバス代はあたしが払ってやるから感謝しな」
「やだー。佐田さんがいい」
恩着せがましく由紀乃が言ったら、春奈が言いながら俺に抱きついてきた。
「ううう。やっぱり春奈殺す」
「あの、春奈のバス代は、やっぱり由紀乃が持ってくれないか?」
バスはすぐにきた。バスに乗って、席について、静流の指示があるまで、のんびりゆらゆら待つことにする。
「あのさ、前々から思ってたんだけど」
ついでだからひと眠りしようかな、と思ってたら由紀乃が話しかけてきた。
「いままで、静流の考えたサーバナイトの、あらすじって言うの? メインストーリーって言うの? そういうのって、佐田、全然口出ししてなかったよね? そもそも、どういう話なのか、聞いてもいなかったし。キャラとストーリーのからみがどうとかくらいは言ってたけど」
「あ、そうだったな」
「それに、静流も、そういうの、全然話さなかったし。いままで不思議に思ってたんだけどさ」
「あ、はい。そうですね」
「それって、なんでだよ?」
「基本的なあらすじは、俺がつくることじゃないからだよ」
由紀乃の疑問に俺は説明した。
「俺は、静流が書こうと思ってる、サーバナイトってライトノベルを書く上での、作法とか、コツとか定石を教えてるだけだ。基本的なあらすじにまで口出しするのはルール違反になる。そういうのは書く人間が考えることだからな。どうしたいいのか? という相談には乗れるけど」
「ふゥん。そういうもんなのか」
「私は、佐田師匠が質問してこなかったから、まだ言うべきじゃないんだろうと思って、言わなかったんです」
これは静流の説明だった。静流は静流で遠慮していたらしい。
「じゃ、ここで、ちょっと聞いておこうか。静流の家に行くまでに、こっちも意見を決めておきたいし」
「あ、はい。えーと、サーバナイトはドラゴンスレイヤーのおかげで、ドラゴンが人間を認めて、ドラゴニアンも生まれてるって設定は説明しましたけど、人間を認めていないドラゴンもいるんです。で、そういうのが」
静流が説明をはじめたとき、アナウンスが流れた。
「次は、○○。次は、○○」
「あ、すみません、次で降りますから」
「お、そうか。じゃ、話は、やっぱり静流の家に行ってからだな」
「みたいだね。春奈、降りるよ」
「うん」
「あ、そうだ」
席から立ち上がりながら静流が思いだしたようにこっちを見た。
「あの、お願いなんですけど。家についたら母が待ってます。その母には、夏休みの宿題の勉強会できたんだってことにしてくれませんか?」
俺と由紀乃は顔を見合わせた。
「べつにかまわないけど」
「いいんじゃね?」
「ありがとうございます」
静流が笑顔で頭をさげた。よくわからないが、きちんとした家庭なんだろう。――この時点では、俺はそう思う程度だった。




