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第三章 起承転結の転。主人公とヒロインの間にサブキャラがからむの図。・その2

「気持ちは嬉しいけど、君、何歳だっけ?」


「一〇歳です」


「じゃ、悪いけど、俺たち、年が離れすぎてるから」


 笑って俺は断った。春奈も笑っている。おもしろい娘だけど、大人をからかうのは感心できない。


「ま、いまは夏休みだし、遊びにくるだけなら、普通に歓迎するよ。というか、春奈にも小学校の友達くらいいるんだろうし、その友達と遊べばいいんじゃないか」


「だってあいつら餓鬼ばっかだから。女子はマンガの話しても通じないし、男子はあたしのことババアって言って馬鹿にするし。あんな奴ら、腐った牛乳飲んで下痢便も飲んで死ねばいいんだ」


 やっぱり姉妹だな。言うことがそっくりだ。つか、下痢便飲むって由紀乃以上かも。


「友達はいいもんだぞ。ま、男子がババアとかなんとか言うのは、女子にかまってもらいたいだけだから無視していいと思うけど、女子の友達は大切にしておくべきだな」


「ふゥん。そういうもんなんですか」


 あんまり納得できないような顔で春奈が返事をした。


「お姉も、学校で話の合わない連中とは友達にならないって言ってたんですけどね。あんな連中、下痢便だして死ねばいいんだって」


「そこは、いくらお姉さんのやることでも、見習っちゃまずいんじゃないかな」


「うーん、考えたら、そうかも。どうせ血もつながってないし」


 言ってから、ちらっと春奈が俺の顔をうかがって、意外そうな顔をした。


「あれ? 驚かないんですか?」


「両親が再婚したんだろ? もう由紀乃から聞いてる。なんでもないって顔で説明してた」


「あ、そうなんだ。ちょっと残念。でも、どうせ血のつながらない家族なら、あたし、佐田さんの義理の妹がよかったかな。佐田さん、あたしのお兄ちゃんになってくれますか? あたし、かわいい義理の妹になりますよ?」


 変わったことを言ってくる。俺は少し考えた。――ダメだ。こういう冗談の切り返しはデータにない。


「ごめんな。俺、義理の妹とシスコンごっこって、あんまり興味ないんだ」


 仕方がないから能のない返事をした。春奈がつまらなそうな顔をする。


「ちぇ」


「それに、かわいい義理の妹なら、義理のお姉ちゃんの言うことをちゃんと聞くことだな。ただ、下痢便だして死ねとか、そういうところはお姉ちゃんの真似をしなくてもいいぞ」


 春奈が少し考えてからうなずいた。


「じゃ、夏休みおわったら、少しは学校の女子と親切にしてやろうかな。男子は馬鹿でイラッとするから無視するけど」


「そうそう、それでいい」


「でも、佐田さんを逆ナンするのは本気ですよあたし?」


 言いながら春奈が笑いかけた。


「お姉に何回も確認したけど、佐田さんのことなんか絶対に好きじゃないって最後まで言い張ったし。だったら、あたしが佐田さんに声をかけてもいいことになるから。佐田さん、あたしと付き合ってください」


「何度も言ってる。答えはNO」


「愛さえあれば年の差なんて」


「べつに愛なんてないし。春奈が高校生くらいになって、それでも気持ちが変わらなくて、で、俺もひとり者だったら、そのときに、もう一回告白してくれ。いまの話はなかったことにするから」


 冗談はこのへんで終了である。俺は虎の巻をだした。


「それ、なんですか?」


 春奈が興味深そうにのぞきこんできた。


「静流がライトノベルを書きたがってるから、その助言に使うまとめ集だよ。要するに虎の巻だ」


「へえ。ちょっと見せてください」


 言うから渡したら、春奈がおもしろそうに読みはじめた。


「えーと何何? 出版社F。公募の受賞作って、基本的に売れないんですよ。何故かと言うと、王道ではない、ちょっと変わった話が受賞するからです。もちろん、既存のプロが売り込みにきて書いてもらう場合は売れ線を書いてもらわないと話になりませんが、か。へー」


 感心したように言いながら春奈が顔をあげた。


「ところでライトノベルってなんですか?」


「マンガみたいなおもしろい小説のこと」


「あーあれか。夜中のアニメの原作か」


「そうそう。そういう奴だ」


「あれ見てお姉はブチ切れてたんだよねー。あたしは好きだったんだけど」


 虎の巻をパラパラやりながら春奈が言いだした。


「そのくせ、いつも見てて、それでブツクサ言うんですよ。好きな人がいて、いつも一緒にいるのに、相手がわかってくれないときの気分なんて、こんなものじゃない。あたしなんて、毎日TSと一緒にいるのに。あの鈍感クソ野郎なんか下痢便だして死ねばいいんだって」


「春奈アァァ!」


 いきなり、ドガラピシャーン! と部室の扉が開く音がした。ギョッとなって振りかえると、鬼みたいな形相の由紀乃が立っている。なんでか顔が真っ赤だった。


「おおおおおお姉!?」


「朝飯を食ってすぐにいなくなったからどこに行ったのかと思ってたら。しかも、そのことは言うなって、あんなに言ったのに。優しいお姉様の言うことが聞けなかったのかー!?」


「ごごごごめんお姉、ちょっと、勢いで、ポロっと」


「殺す! いくら春奈でも殺す!」


「ギャー! 佐田さん助けてー!」


「佐田に触るな! 佐田はあたしのもんだ!」


「いや俺はものじゃないって!」


 すごい形相で飛びかかった由紀乃と、俺に抱きついてきた春奈。巻き添え食った形で俺まで。ていうか、春奈がつかんだのは俺のネクタイである。そのまま逃げようとするから俺の首マジで絞まってる絞まってる死ぬ死ぬ死ぬ。俺をひきずって逃げようとする春奈と、すさまじい剣幕で追いかけまわす由紀乃で部室はグチャグチャになりかけた。


 静流がこなかったら俺は窒息していたかもしれない。

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