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序章  起承転結以前の序。時系列を入れ替えて、日常シーンを先に書くの図。・その2

「まず、こっちから感想を言うんじゃなくて、逆に訊いてみようか。静流は、これを書くときに何を意識した?」


「あ、はい。えーとですね」


 静流が少し考えた。


「まず、私もネットで調べて、小説を書く作法を勉強してみたんです」


 言いながら指を折りはじめた。


「えーと、『セリフを書くときは、鍵括弧の上をひとマスあけない』。それから『セリフの最後に句読点は入れない』あと『ビックリマークやハテナマークのあとはひとマスあける』これは意識しました」


「あ、そうなんだ?」


 俺の横で、由紀乃が意外そうな顔をした。


「あたし、小学校の作文で、鍵括弧のときはひとマスあけろって教わったよ? あと、最後はマル入れろって」


「あー、いまでも、そういうふうに教えてる学校はあるだろうな」


 俺もうなずいた。つか、俺も小学校でそう教わった記憶がある。


「ただ、作文と小説は作法が違うんだよ。この場合は静流の調べた方法が正しい。ついでに言うと、いまは作文でも、鍵括弧の上はひとマスあけるなっていう教えが一般的なはずだ。ネットで調べればわかる。それから?」


「それから、佐田師匠に言われたことを、とにかく意識して書いてみました。まずですね」


 静流が思いだすように小首を傾げた。


「『出だしに詰まったらセリフからはじめろ』と教えてます。と言われたので、それを」


「あー言ったな。だから悲鳴からはじまったのか。確かに、こういうのはインパクトがあるから人目も惹くし、OKだ」


 何日か前にちらっと言っただけなのに、よく覚えてるもんだ。実際問題、「あの男を捕まえてー!」とか「火事だー!」なんてセリフを聞いたら、実生活でも人間は振りむく。――あとで確認したが、これは出版社Sで二〇一一年に聞いた話だった。


「それからですね。『最初の五ページと最後の五ページとあとがきは死ぬほどおもしろく書け』、『推理小説なら一ページ目から死体を転がしておけ』この格言も意識して、最初から事件を起こしました。で、時系列を入れ替えるって言うんですか? とにかく、プロローグで事件を起こして、あとで『そもそものきっかけはこうだったのだ』という回想シーンでつなげようと思ったんです」


「なるほどな。確かに、一応はインパクトがあった。もちろん、全部おもしろいのが理想だけど、最初と最後はとくに力を入れないとな」


 俺はうなずいた。このふたつは、出所こそ不明だが、あちこちで言われてる定番の教えである。


「あと、ラッキースケベですね。これもちゃんと最初から入れました。これで、読者は一気に興味を持つと思います」


「それは、さっきも言ってたな」


 冒頭で事件を起こす。さらに、その事件をラッキースケベにする、か。両方の課題を一気にクリアする手だ。


「確かに、ラッキースケベもなるべく早めに出すのが手だろうな」


「じゃァさ、これ、ライトノベルを書く作法をすごく踏まえてるってことか?」


 由紀乃が訊いてきた。


「だったら、この調子で話を最後まで書けば、余裕で認められてプロデビューできるってことじゃん?」


「あー。それが、そんな簡単じゃないんだよ」


 俺は由紀乃に説明した。由紀乃は文芸愛好会に入り浸っているが、ライトノベルを書くという点においては俺よりも素人である。


「Hっていう文庫で書いている作家先生が言ってたことだけどな。『ライトノベル新人賞の下読みしたことあるんだけど、文章になっていれば一次は通る、は過去の話』なんだそうだ」


「へえ。なんでだよ?」


「それは俺もわからないけど、応募者数がどっと増えたのと、あとは、ネットで検索すれば、簡単にラノベを書く作法がわかるから、無茶苦茶な書き方をする奴が減ったってことなんじゃないか? 想像だけどな。だからプロデビューってのは余計に難しいんだよ。競争率はどこも百倍以上だ」


 言いながら、俺は静流を見た。相変わらず、静流は目をキラキラさせている。


「それからですね。佐田師匠、言ってましたですよね? 地の文章は五行を超えてはいけないって。それもやりました」


「え、あれもやったのか? あれはべつにいいんだって」


 俺は眉をひそめた。「若い読者を集めて話を聞いたら『いまのライトノベルは地の文章が五行を超えてはいけない』なんて言ってましたよ。信じられないでしょ?」――確かに、出版社Sの人間が、こういう世間話をしていたと言ったことはあった。ただ、どう考えても参考にする必要のないことだったんだが。言った本人も信じられなかったんだし。


 俺の前で、静流がイタズラっぽく笑った。


「私も、どうしようかと思ったんですけど、ほら、ライトノベルって、会話文が主体じゃないですか? 西尾維新先生とか。だから、地の文章で状況を説明するときも、定期的に、アクセントみたいにセリフを入れておこうと思ったんです」


「本当だ。これ、マックスでも地の文章、五行になってる。六行以上がない」


 由紀乃が紙を指さしながらつぶやいた。行数を数えてるらしい。俺も横からのぞいて、あらためて確認してみる。


「なるほど。本当だ」


「ね? だから、佐田師匠の言うこと、全部守ったつもりなんです。私」


 静流が俺に言ってきた。なんとなく、誇らしげに見える。課題をきちんとクリアしたという自信があるんだろう。俺は静流を見つめた。

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