第二章 起承転結の承。主人公、ヒロインと遊びに行くの図。・その4
「それいいな。ただ、そういうときは、エルフじゃなくてハーフエルフがいいと思う。ハーフエルフが見下されるってのは、ファンタジーじゃ王道だから、難しい説明なしで捨てられたってわかる。何より読者も萌えるし」
「わかりました。じゃ、ハーフエルフの、義理の妹がいるってことで」
「あ、それから、その妹は七歳から十歳くらいがいいと思うぞ」
俺は虎の巻を開いた。
「これは出版社Sで聞いた話だ。『うちでだしている本「K」は「D」のスピンオフ作品だけど、「D」そのものよりも売れた。なぜかと言うと、美少女がでてくるから。ロリはそれだけで一定の需要がある』」
読み上げて顔をあげたら、静流が感心したような顔で俺を見つめて、由紀乃が嫌そうな眼をしていた。
「なんか気持ち悪い。男ってみんなロリコンなのかよ?」
「みんなとは言わない。ただ、そういう需要があるってだけだ。需要がある以上、書くべきだろ」
「でもさ。ほら、前に佐田、言ってたじゃん? 流行を追っかけようとしたら遅いとかなんとか。ロリコンを追っかけるのおかしくね?」
「あ、それは少し違う。ロリ要素が売れるのは流行じゃなくて王道なんだ。定番でもあるし、鉄板でもある。だから、これは踏まえておくべきなんだよ」
俺の説明に、横で聞いていた静流がうなずいた。
「わかりました。ハーフエルフの義理の妹は十歳ですね。それで行きます。」
「それでいいと思う。大体固まってきたな。ケモミミのジルは下町育ちで面倒見がよくて、ハーフエルフの義理の妹がいる。で、主人公のことは田舎者だと思って馬鹿にしてる、と」
「てことは、ツンデレってことになるんじゃね?」
由紀乃が訊いてきた。
「基本、ヒロインは主人公にラブしてるんだろ? で、ケモミミのジルは、普段は主人公のことを田舎者扱いして馬鹿にしてるわけじゃん? じゃ、たまにはデレるってことにしないとラブシーンつくれないし」
「あ、そうですね。由紀乃先輩、ありがとうございます。そうします。それだと、ドラゴニアンのマリアがもろラブだから、差別化もできるし」
静流が、さらにノートに書きこんだ。――俺も少し感心した。ただ雑談をしているつもりなのかもしれないが、意外に由紀乃は的確なアドバイスをしてくる。いい原案協力者だ。
「これで、主人公と、ヒロインふたりの設定は、性格も含めて、ほぼ決まったって考えていいかな」
俺が言ったら静流が顔をあげた。
「それは、いいんですけど。あの、実は、ちょっと質問が」
「こたえられることならこたえるけど?」
虎の巻をパラパラやりながら聞き返したら、静流が、少し恥ずかしそうな顔をした。
「あの、主人公の佐竹鋼哲朗がいて、ドラゴニアンのマリアが尊敬してもろラブしてて、ケモミミのジルが田舎者扱いしてツンデレっていうのは、いいんですけど。その――」
そこまで言って黙ってしまった。
「どした?」
「あの、付き合ってる男の人と女の人って、普段、どういう会話をしてるんですか?」
「は?」
「実はその、私、男の人と付き合った経験がなくて。それでわからなくて。わからないと、そういう会話、書きようがないし」
「あ、そうかもな」
「それで、あの、佐田師匠と由紀乃先輩は、私がいない間、どんな会話をしていたのか、できたら教えてほしいんです」
「――はァ!?」
「だって、目の前に恋人がいるんだから、ぜひとも参考にさせてほしくて」
赤い顔をしながら、とんでもない勘違いセリフをのたまった。
「ズバリ質問します。佐田師匠と由紀乃先輩って、どこまで行ってるんでしょうか?」
「どこにも行ってねーよあたしたち!」
「そうそう、行ってないから! 誤解してるから!」
俺と由紀乃はあわてて手を振った。静流が意外そうな顔をする。
「あれ? そうだったんですか?」
「俺たち、この文芸愛好会で、適当に駄弁ってただけで。付き合ってるわけでもなんでもないんだ」
「あたし、告白なんかされてないし」
俺と由紀乃の説明に、静流が、なんでか、不思議そうな、嬉しそうな、なんとも形容のできない表情を浮かべた。
「そうだったんですか。私、少し勘違いしてました。そういえば、さっきも、仲良くなんかないって言ってましたですね、佐田師匠と由紀乃先輩」
独り言みたいにつぶやいて、静流が少し微笑んだ。
「わかりました。それは、個人的にはすごく嬉しかったんですけど。あの、それだと、私、恋人同士の会話、どこで勉強すればいいんでしょうか?」
「え? それは、やっぱり、ライトノベルのラブコメシーンを読んで勉強するのが一番じゃないかって思うけど」
「本物のカップルの会話でも盗み聞きすればいいんじゃね?」
ライトノベルの意見が俺で、盗み聞きは由紀乃だった。
「ドラゴニアンとかケモミミとかエルフとかは実在しないんだから想像で書くしかないけど、カップルなんてのは、どこにでもいるじゃん? その会話、聞いてないふりして、こっそり聞けばいいと思うけど」
「どこにでもって、たとえばどこですか?」
「そうだね」
由紀乃が小首をかしげた。
「たとえばプールとか」
ひどくまっとうな返事をしてきた。
「ほら、いま夏休みだし。プールに行けば、バカップルなんてゴロゴロいると思うよ。あたしたちだってナンパされるかもしれないし」
「あ、言われてみれば、そうですね。気がつきませんでした」
静流が感心した顔でうなずいた。
「でも、あの、私、ちょっと前に引っ越してきたばっかりだから、このへんって、よく知らないし。プール、どこにあるのかな」
「これから行ってみる?」
由紀乃が意外な提案をしてきた。
「実は私、今日、プールに行こうと思っててさ。妹とも約束してるし。よかったらつれてってあげるよ」
「え、いいんですか? あの、それは嬉しいんですけど、私、水着持ってきてないし」
「行けば売ってるって」
由紀乃が立ちあがった。
「じゃ、行こうか。部室でダラダラするだけじゃなくて、たまには外で遊ばないと」
「ありがとうございます」
静流が素直に従った。とりあえず、今日はこれで終了か。
「じゃ、また明日な」
さ、俺は夏休みの宿題でもしよう――と思ってたら、いきなり襟首を引っ張られた。
「何してるんだよ佐田。おまえも行くんだよ」
「は?」
「あたしたちがナンパされたらどうするんだよ? 『ごめんね、つれがいるから』って言って断らなくちゃいけないし。おまえ、ボディガードに必要なんだよ」
「あ、そうなのか」
「それに、夏休みになったら、どこかに遊びに行こうかって言ったじゃん? 覚えてないのかよ」
「あーそういえば」
仕方がない。俺も同行することにした。




