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死闘①

     ■


 アレク達の展示飛行が終わった頃、戦闘奴隷達の戦闘は犯罪奴隷達との乱戦へと突入していた。


「クズ共があああああ!!!」


 熊人族の年寄りは力任せに槍を振るい、狸人に襲いかかろうとしていた犯罪奴隷をまとめて3人弾き飛ばしながら叫ぶ。


「ご自慢の馬防壁も早々に崩された! 槍も振るえぬ奴が前に出るな!」

「は、は、初めからあんな物で、き、き、き、騎馬の突撃を防げるとは思っていません」

「なんだと?!」


 狸人は年寄りの背後に隠れながら返事をし、三方から迫る槍や剣をバタバタと不格好に避けながら話しを続ける。


「そんなにか、か、簡単に防げるのであれば──ひゃあ! き、き、き、騎馬隊が軍のは、花形にはなりません──ひょえ!」


 彼らの会話の通り、急造した馬防壁では騎馬隊の突撃を防ぐことはできなかった。相手は正規兵でも上位の部隊であり、馬防壁の脆い場所をすぐに見破られ、そこを守っていた者達は右から出た騎馬隊の投槍で倒れ、後詰めが守備を整える前に左から出た部隊の突撃により中への侵入を許した。

 その後は、散々中を食い荒らされ、混乱する戦闘奴隷達に犯罪奴隷達が襲いかかる時には鮮やかな退却を許していたのだった。


「では何のためにこんな物を造ったのだ!」

「ま、ま、負けるためです。せ、せ、せ、戦闘奴隷の中でも貴方達は強すぎる。生半可な相手であれば、に、2倍3倍の相手でも戦えてしまう」

「それの何が悪い!」


 年寄りが狸人の意味がわからず叫ぶと、最前線にいた白虎人族の青年が一息つきに戻ってきており、狸人に代わって年寄りの問いに答える。


「爺、相手は弓と魔法でいつでも我らを殺せるのだ」

「若!」

「こやつの目的はな。両陣営が派手に闘い、派手に死ぬ、激しい死闘を生みだすことだ」

「ご、ご、ご明察です」


 狸人は青年に対し、慇懃に頭を下げた。しかし、青年、そして狸人の答えを聞いた年寄りは全身をわなわなとふるわせ始め、奥歯を食いしばりつつ、城楼を指差して狸人に問いかける。


「それも……あ奴を楽しませるためだと申すのか!」

「はい」

「そのために仲間の屍を辱めたのか!」

「はい」

「そのために多くの仲間を死なせたのか!」

「……その通りです」

「うおおおおお!」


 年寄りは叫び声を上げ、人族とは隔絶した膂力に物を言わせ城楼へと向けて突進を始める。


「爺、待て!」

「ま、ま、まだ行ってはダメです!」


 青年は年寄りを止めようとするが、狸人が服を引っ張り、青年を引きとめた。


「……お主、これもわざとか? わざと爺を興奮させたのか!?」


 青年は狸人の胸倉を掴み、唸り声を上げて狸人を威嚇した。狸人はぶるぶると身震いしながらも、必死で彼の問いに答える。


「はい。し、しかし! あ、あ、あと、あと少しなんです!」

「っ! お主、爺の背中にいたのは……」


 狸人が後ろにちらりと視線を向けたのにつられ、青年はその視線の先を確認した。視線の先──崖では、先頭を登っていた子供達がようやく頂上へと辿りついていた。


 狸人は青年の目をまっすぐに見て正直に答える。


「そうです。『演出』のタイミングを計るためです」


 青年は熊人族の年寄りの方へと視線を戻す。単独で突進した彼には大人数の犯罪奴隷達が群がり、引き倒される。彼はギリっと歯を鳴らし、じっと年寄りがいた方を見つめる。


「……あとどれくらいだ?」

「15分、いえ30分」

「わかった。お主名前は?」

「ホセイと申します。貴方様は?」


 青年はホセイの方に視線を向けることすらせず、狸人は彼に深く頭を下げてから答え、青年に尋ねた。すると、青年はホセイの方を向き、強い口調で彼に告げる。


「我は白虎人族族長が長子ロウ。ホセイ、お主に一つ命ずる」

「なんなりと」

「お主は最後に死ね。最後の子が登るのを見届けるまで死ぬのは許さぬ」

「御意のままに。私からも差し出がましい願いが一つ。あ奴の心に恐怖を刻んで下さい」


 ロウは城楼を視線で示したホセイに対して頷き、大きく息を吸い込んでから叫ぶ。


「皆、集まれ!」

「「「「「はっ!」」」」」


 ロウの声を聞きつけ、各部隊に散っていた彼の部下たちが素早く参集する。精鋭が抜けた部隊はすぐに押され始めるが、それに構うことなくロウは命令を下す。 


「これが最後だ! 中央を奴らの血で赤く染める!」

「「「「「御意!!!」」」」」

「続けえええええ!!」


 ロウは精鋭を引き連れ、犯罪奴隷を指揮する兵士がいる中央へと鎧袖一触に切り進む。指揮兵に近づくにつれ強者が増え、数を減らしながらも彼らの進撃はとまることはなかった。


 しかし、ロウ達の奮闘であっても、皇太子デルタは退屈を感じ始めており、彼らにとって最悪の暴挙に出ようとする。


「つまらんな。ガキ共に向けて矢を放て」

「……承知。弓隊構え。目標、崖を上っている奴隷」


 ダミアンの指示を大隊長らが復唱し、弓隊は一斉に弓を上に向けて構えた。ホセイは、いち早くその動きに気付いて力の限り叫ぶ。


「ロウさまああああああああああ!!!」

「ガアアアアア!!! ッ!」


 自慢の白い体毛が自らと敵の血で真っ赤に染まっているロウは、極度な興奮状態にあったが、ホセイの叫び声は良く通り、彼の耳へと届いた。ロウは、ホセイの指が示す方へと視線を移す。


「(止めろやめろヤメロヤメロヤメロ!!!)コッチヲムケエエエエエエエエエ!!!!!」


 ロウは届かないと知りながらも、転がっていた手槍を拾い上げ、投槍の構えを取って城楼の方へと走り出す。彼の部下は城楼しか目に入っていない彼を必死で守り、傷つき倒れながらも道を開いた。


 その時、不思議な声が彼の頭の中に響く。


《限界突破を使用しますか?》


皆様、いつもありがとうございますm(_ _)m

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