展示飛行
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一方、アレクとネロは風を切って空を駆けていた。季節は晩春、上空の風はまだ肌寒いが青く澄み渡っており、渡り鳥の群れが北へと向かっているのが見える。
(このままずっと飛んでたいなあ……)
アレクの思いとは裏腹にすぐに第二訓練場が見え、彼らのランデブーは、ほんの1、2分で終わりを告げた。
(みんな偉いなあ。もう開始位置に着いてるよ)
アレク達が列の1番後ろへなめらかに着地すると、すぐに怒鳴り声が飛んでくる。
「遅いぞアレク!」
髭もじゃ、巨躯、声もでかいこの男は、テイニール王国竜騎兵団長のガウェイン。顔は怖いが、とても心優しく、アレクの義父でもある。
(義父さんってどうやってあんなに大きい声を出してるんだろ? 普段はめちゃくちゃ優しい声なのに……その優しさをもって、僕とネロをニートにさせて欲しい。それか、ネロ専属の竜丁としてなら働くのもやぶさかではないんだけど)
アレクがあくびを噛み殺しながらぼけ~っとしていたら、けたたましいラッパの音が鳴り、ガウェインが叫ぶ。
「これより展示飛行を始める! 全騎飛翔!」
ガウェインとその愛竜である白飛竜シリウスを先頭に、階級が高い順に次々と竜騎兵たちが飛び立つ。なお、アレクは隊長クラスでは1番下っ端のため最後尾である。
「ネロ、適当によろしく」
「グルル」(ああ、いつも通りだな)
隊列を組んで飛ぶ編隊飛行は、ネロに任せてれば何も問題が無かった。アレクがすることは、バランスをとることと、長いランスでネロの邪魔をしないことの2つのみである。なお、竜との信頼関係が築けていない者ほど一生懸命騎竜を操ろうとする傾向があるが、アレクは、頭の良いネロに編隊飛行について説明した後は彼に任せっぱなしだった。
彼らは隊列を保ったまま王都を低空で周回し、第一訓練所へと向かう。テイニール王国での竜騎兵団の人気は非常に高く、民衆は空を見上げて彼らに手を振っていた。
「一列横隊!」
ガウェインの号令に合わせ、竜騎兵達は隊形を整え、的が用意されただだっぴろい訓練所へと滑空する。観覧席では、この国の王族や貴族、さらには隣国の大使等がこの展示飛行を眺めている。
「ブレス準備!」
竜達は羽を広げてブレーキをかけ、滞空姿勢をとる。
(いっつも思うけど、なんでこの状態で落ちないんだろ? ……まあ魔法が存在する世界でそんなこと考えてもしょうがないか)
「3、2、1、放てええええ!」
アレクが他のことを考えている間にガウェインの号令が響き、大きく息を吸い込んでから放たれた全騎竜のブレスにより、ほとんど全ての的が跡形もなく焼け尽くされた。しかし、一騎のブレスが的を外し、1つ残ってしまっている。
「アレク! ライオット!」
(え~僕? そりゃ両端だから1番動かしやすいんだろうけど、ライオットだけで良いじゃん。面倒くさいなあもう。ってか、これは義父さんがわざと外させたな)
「突撃!!」
号令と共に、左端にいたアレク達と右端にいたライオット達は、滑空しながらランスを構えた。
ライオットがアレクをちらりと見る。アレクは彼の先に行きたいという意思を理解し、ランスの先をくるくると回して、了承したことを伝えた。すると、ライオットの相棒である赤飛竜のアンタレスが、力強く羽撃き加速する。
アンタレスは、ぐんぐんスピードを上げ、ギリギリまで高度を下げる。ライオットはランスを脇に抱えて固定し、両足を締め付け体を支えて衝撃に備える。彼のランスが的に当たった瞬間、その頭部がばらばらに弾け飛んだ。
(……的がもろすぎだよ。体部分が残っちゃってるじゃん)
アレク達はスピードを落とさず、的に当てたかのように見えるタイミングで、ランスの先端から魔法を放つ。
「エナジーショット」
アレクの放った魔法は見事に命中し、的の体部分もまたばらばらに砕け散った。そのままアレク達が端へと戻ると、団長が叫ぶ。
「菱形小隊!」
竜騎兵達はガウェインの号令に従い、四騎一組の小隊に分かれ、ホバリングしたまま滑らかに移動し菱形の隊形を組んだ。
その後も、編隊飛行や分隊同士の空中戦のデモンストレーション等を行うと、観客達は立ち上がって拍手を竜騎兵達に贈っていた。
1時間ほど経ち、ガウェインがランスを掲げながら叫ぶ。
「帰投する! 全騎2列縦列!」
(お? いつもより随分早いな。ラッキー♪)
ガウェイン達を先頭に、アレク達は先程までいた竜騎兵団の駐屯地へと向かう。ちらりと見た観覧席では、アレクが良く知る恩人が彼に向けて手を振っていた。
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