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海が見える渡り廊下

作者: 爪楊枝

初投稿だったりする

 2017年10月22日


 今日は俺の高校生活最後の文化祭。最後だからと父さんは仕事を休んでまで俺の学校の文化祭に来てくれた。


「お前は文化部だから文化祭くらいしか目立つことしねぇだろ??たまには父さんにかっこいいとこ見せてくれよ。ほら、写真も撮るしさ」


 そう言って文化祭に来た父さんだが、俺からすると余計なお世話だ。確かに俺は運動も勉強もほとんどできない。少し絵が描けるくらいの取り柄しかない。だが別に目立ちたい訳では無い。むしろ目立たないように生きて行きたい。


「んでだ翔太。お前の作品とやらは何処にあるんだ??」


「俺の回想を邪魔すんじゃねぇよオッサン」


「いいじゃねぇか。ったく厳しいねぇ〜」


 本当に人が考えてる時にいちいち突っ込んで来る面倒な親だ。


「朝からうるせぇオッサンだよ。ったく、2階の美術室だよ。俺は飲み物買ってくるからあとは勝手にやってくれ」


「まて、うるさいはいい、だがオッサンは許さん。父さんをオッサン扱いした仕返しにお前の作品の写真超撮ってやるからな」


「あーあー勝手にしてくれよっと。じゃーな」


 そう言って急いで自販機へと向かう。

 早く買わないと自販機の飲み物は全て売り切れてしまうのだ。毎年同じ過ちを繰り返して来た俺は学習していた。


「やっぱミスぺだよな」


 ポチッと自販機のボタンを押す。ガコンッと言う音とともにMr.pepperことミスぺがでてくる。

 ミスぺはいい。甘くて脳に不足したブドウ糖を補給している実感が湧く。


「さて、父さんのとこ行かねぇとな。何しでかすかわかったもんじゃねぇ」


 写真厨の父さんは写真を綺麗に撮るためならだいたい何でもする。

 家の屋根に登って虹をとったりする父さんのことだ。何をするかわからない。俺は急いで美術室に向かった


「何でここにいんだよ?美術室に行ったんじゃねぇのか?」


「ここ…やっぱり変わってんだな」


 父さんは渡り廊下の真横にそびえる崖を見ていた。

 十五年前、大きな地殻変動かなにかで学校の横の地盤が隆起した。幸い学校の生徒にも怪我はなく学校自体にも問題は無かったらしいがそのせいで学校の真横には学校より高い崖がある。


「いや、あーっとな?」


 父さんは続ける。


「俺がお前と同じぐらいのときはここから海が見えたんだよ」


 そう言いながら父さんは笑っていたがどこか少し寂しそうだった。


「そうかよ。一つ言い忘れたから言っとくけど写真撮るんでも余計なことはするなよ。例えば!いいアングルで撮りたいから〜。とか言って勝手に作品を動かすとか!」


 父さんの背中がビクッとなる。どうやら考えていた事を当てたようだ。


「お前いつの間にエスパーになったんだよ…実はスプーンとか曲げれるんじゃねえのか?」


「んなわけねぇだろ!」


「そうか…お前が曲げられるのは性格だけだもんな…」


「よーけーいーなーお世話だっ!」


「へいへい」


 ニヤニヤしながら美術室に歩いて行く父さんを見ていると今の問答で疲れたのか眠くなってきた。


「ふわぁぁぁあ」


 大あくびをした。あくびとともに涙がでてくる。涙を拭おうと目を擦る。


「は?」


 擦った目を開けると思わず絶句した。


 なぜなら目の前にあった崖はなくなり、海が広がっていたからだ。


 だが海は綺麗だった。今まで見た事の無いくらいに。


「綺麗だ…」


「何言ってんだよショーゴ!いつも見てるだろ〜?まあお前は特別好きなんだろうけどな。いつもここで写真撮ってるし。写真部の部長なのに同じ写真しか撮らねぇから顧問の先生が嘆いてたぞ?あの子はセンスがあるのにここの景色の写真しか撮ってくれないーってさ」


「ああ、そうなのか…あと俺は翔吾じゃねぇよ翔太だ。間違えんなよ。えーと、お前、誰だ?」


「はあ?何言ってんだか。お前は3年4組18番藤本翔吾で俺は同じく3年4組17番藤本京介だ!忘れんなよ!あれか?海の見すぎで頭おかしくなったのか!?」


 そんなはずはない。俺は3年2組だし、同じ名字の友達も京介なんて友達もいない。そもそも俺には友達がいない基本学校では1人だ。では何が起こっているのか。冷静に考えてみよう。


「えーっと、崖が無くなって海が見える崖が出来たのは十五年前くらいで父さんが学生の頃はなかった。そして俺は父さんの名前で呼ばれる。これは俺もしかして…」


 頭の中にちらつく最悪の予想。これを確かめなくては。


「なあなあさっきからどーしたんだよショーゴ?保険室行っとくか?それともカタカナでイっとくか?」


「心配の合間に下ネタを挟むんじゃねぇよ。なあ京介今日って何年の何月何日だ?」


「何年のって…ほんとどうしたんだ?今日は1991年の10月22日だぞ?」


 予想は的中した。1991年ということは2017年から遡って26年。しかも当時の父さんの体で。


「俺はタイムスリップしてる………」






 どうしたらいいのかわからず学校が終わる。

 授業の形態は全く違って驚いたがそれより驚いたのはこの男。京介だ。


「なーあー、ショーゴー。放課後ちょっと付き合えよー」


 こいつは1日中絡んでくる。正直に言う。面倒だ。


「何でだよ。俺は他にやることあんだよ」


 適当にあしらい帰ろうとした。


「お前自分の家の場所、わかんのかよ」


 京介の一言で背筋が凍った。京介は明らかに何かに気づいていた。


「ショーゴさ、いいやショーゴの中身ってゆーのか?違うだろ?なんか人格というか記憶というかさ。今日1日見て、話してみたけどやっぱり違うんだよないつものショーゴと。」


 京介は少し間をおいて続ける。


「いつもはもっと俺に興味無さそうにするのに今日に限ってかまってくれただろ?それに授業もプライド高いから分からなくても分かりませんなんて言わないのにさ」


「お前は一体誰なんだよ。ショーゴ、いやショータ」


 何故この男はこんなに俺を見ているのか。見透かされているようで少し怖くなった。


「ショーゴじゃないショータだって最初に教えてくれたからな。俺は聞き逃してないぜ。まあ話してくれよお前に何が起きてんのかをさ」


「ああ、わかったよ。観念した。多分これは自分じゃどうにもなんねぇからな。まあ人に言った所でってのもあるかもしれねぇけど」








「はぁぁぁ!?すげぇ!ショーゴ未来から来たの!?あ、ショータか。でもすげぇよ!かー未来か!すげぇな!」


「お前の語彙力の方がすげぇよ。すげぇ、しか言えんのか。まあでもそういうことだ。わかってくれたならいい」


「へぇ〜未来かぁ〜いいな〜俺、結婚とかしてんのかな〜うわー夢がひろがりんぐ!」


「いや、話し聞いてる?はっ倒すぞ?」


 ごめんごめんと謝る京介を見つつこれからどうするかを考える。


「家に帰って…いや京介にバレたくらいだからな母さん、いや婆ちゃんには速攻でバレる。となると…」


「泊まるところが必要だな!ショータ!」


 目を輝かかせて京介がこちらを見る。いやお断りだ。こんな騒がしいやつの家に泊まるなんて有り得ない。野宿の方がマシだ。


「おい〜野宿の方がマシだって顔すんなよな〜。ほんと傷つくぞ〜」


「だからお前はエスパーか」


 いちいち心を読んでくる奴だ。逆に感心してきた。


「え?なに?当たってた?やっぱ才能あるかもな〜。ショータ将来一緒にマジシャンやろうぜ!スプーン曲げよう!」


「曲げられるわけないだろ。曲げられたとしてもお前とは組まない」


「まあショータに曲げられそうなのは自分の性格ぐらいだもんな!」


「余計なお世話だっ!」


 そんな会話をして時間が経ち夕暮れ時になり、そろそろ帰ろうかと話しをしていた頃だ。


「そうだショータ帰る前に少し寄るとこがあるからきて!」


 そう言った京介について行って着いたのはあの渡り廊下だった。


 渡り廊下から見える海は夕焼けの光を浴びてオレンジに輝いていた。


「ここ、ショーゴ大好きなんだぜ。いっつもここにいるんだ。せっかくタイムスリップしたんだから目に焼きつけとけよ。元の時代に戻っても忘れないようにな!」


 京介なりの気遣いなのだろうか。きっと俺が元の時代に戻れると言ってくれている。言わなくても戻りたいと思っていることが伝わっているのかもしれない。


「ああ、そうする」


 気遣いに感謝してそう言ってやった。


「なあ」


 京介が急に真面目な口調になる?


「なんだ?」


「未来だとこの海はもう見られねぇのか?」


「そうだな」


「なら一つ頼みがある。戻れたらこの風景をどうにかしてショーゴに見せてやってくれねぇか?あいつはきっと見たいと思うんだ」


「わかった。約束する」


 素直にそう言ってやった。


「あ!いま素直になったな!?ショータが素直になってくれて京介くんは嬉しいよ。うっうっうっ」


「涙、でてねぇぞ」


「でもショータはでてるぞ?」


「えっ?」


 確かに頬を涙が流れていた。初めてできた友達に気遣われて嬉しくて流れたのか、それとも海が綺麗だったからか。


「ショータの涙ゲットー!ふふーん今日は最高の日だぜ!」


「バカ!これは海が綺麗だったからで!」


 涙を拭って調子に乗んな!と言うつもりだった。


 しかし、涙を拭って再び開かれた目に京介は映らなかった。


「京介?どこいった?」


 辺りを見回したが誰もいない。

 そして気づいた。自分の手にミスぺが握られていることと目の前の海が崖になっていることに。


「ミスぺ…んでここに崖があるってことは戻ってきたのか?元の時代に…」


「おうおう息子よ!まーだこんなとこにいたのか?あんまりぼーっとしてっと文化祭なんてすぐ終わっちまうぞ?」


「体感的には1日中授業受けた気がするけどな…。父さん、今日は何年、何月、何日、何時だ?」


「なんだ急に。気持ち悪。言っとくが親父デンプン画鋲!なんて言わねぇからな。絶対言わねぇからな」


「いいから!何年のいつだ!?」


「2017年!10月!22日であります!時刻は10時を回ってるであります!」


「そうかごくろうだ、軍曹!」


「はっ!」


 まだ昼前。タイムスリップからあまり時間は経っていないようだ。


「おい息子よ。普通逆じゃねぇか?なんで俺が軍曹なんだよ」


「悪い父さん!用事ができた!じゃあな!」


「じゃあなって…どこ行くんだよ!」


「約束を果たしにな!」


 父さんに別れを告げて俺は走る。文化祭は3日間開催される。今日は1日目の土曜日。明日は父さんの仕事も休みだろうが3日目は月曜日だ。さすがに父さんも仕事に行くだろう。


「となれば今日中に仕上げるしかねぇか…どっちにしろ明日になったら忘れちまいそうだからな。やるしかねぇか」


 俺の作業は夜遅くまで続いた。1枚しかない大きな紙を使った。絵の具を大量に使った。覚えていたのはそこまでだ。気がつくと学校で寝ていた。朝の光が眩しい。だが、まだやることはある。眠い目を擦り、渡り廊下へと向かう。


「…できた」


 四隅を留め、渡り廊下に展示された作品は俺の記憶通りに出来ていた。

 これまでに無いほど美しい最高の出来だ。


「ああ、綺麗だ」


 疲れからか瞼が重い。

 うとうとしているうちに俺は寝入っていた。


「おい、起きろ。息子。」


「ああ?まだ眠いんだよ」


「いいから起きろ」


 俺は渡り廊下のど真ん中で寝ていた。それも大の字になって。


「俺、寝てたのか」


「それよりだ。息子。この絵お前が描いたのか」


 絵の右下にはアルファベットで小さくShotaとかいてある


「ああ、約束したからな。…いやそれ以上に俺自身が描きたかったのかもしれねぇ」


「そうか」


 小さく父さんが返事をする。


「翔太。あの日、これと同じ景色が広がってたんだよ。これをお前に見せてやりたかったんだが、全く同じのを描いちまうとはな」


「父さんが学生の頃はってやつだろ?知ってるよ。見てきたから。頼まれたから。俺の最初の友達に」


「そうか」


 さっきよりも小さい返事が聞こえた。


 その日渡り廊下には雨が降ったらしい。父さんの足元の水滴の跡を指摘したら雨が降ったのだと教えてくれた。父さんの小さな返事を遮らないほど静かな雨だったようだ。


あれから特に変わったことはない。タイムスリップすることも、京介に会うこともない。

でも渡り廊下で大の字になって寝ていたのがきっかけで俺に話しかける人が増えた。少し友達もできた。



 絵の作品名?そんなこと聞くのかよ。

 言わなくても分かるだろ?

 仕方ねぇな特別だぞ?









 作品名__________________________。 shota



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