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まずは生きることから考えます 8 「アルミナ」 

最初に見た時、彼は大きな魔物の下にいた。



焦って駆け寄ってはみたものの、服は少しボロボロだけど息は規則正しくて傷もパッとみたところ特に見当たらない。



いったいこの人はなんなんだろうと思った。モンスターの下で眠る男の人。しかもそのモンスターはこの辺りでたまにしか見かけないブルベアだ。私だったら率先して狩ろうとは思わないその獣を、無傷で倒してその下で寝ているなんて、そこはかとなく近寄ってはいけない様にも思える。だけどその寝顔はあどけなく、優しげな風貌につられてつい声をかけてしまった。



「あのー・・・」



少し反応した。警戒はしながらも今度はもう少し大きな声で呼んでみる。



「おーい・・・君、大丈夫ー・・・?」



私の声に彼は気が付いたようで、声を返してくれた。



「ちょっと・・・だいじょばない・・・。」



変な返しをする彼に、思わず笑ってしまった。もしかしたら面白い人なのかもしれない。



その後、ブルベアの下から抜け出そうとするのを手伝って、話をしてみると、どうやら漂流者さんだということがわかった。



私は昔から漂流者が冒険をするおとぎ話が大好きで、小さいころよくお母さんに絵本を読んでもらったのを覚えている。人の身でありながら強大な敵に立ち向かい、試練を乗り越えて英雄と呼ばれるようになった彼らのお話に、憧れていたのだ。



自分がおとぎ話の世界に足をかけたように感じて少し興奮してしまう。



とりあえずうちに来てもらえることになったので、彼を連れて戻ることにした。お母さんから頼まれていたのは、珍しい食べ物の調達だったのでブルベアのお肉を持っていけば喜んで買ってくれるだろう。



彼の名前はレン、というようだ。私のことはなんとなくあだ名で呼んでほしかったのに、レン君はアルミナと呼ぶのがすこし残念に思った。



そのまま街に帰って行って、お店でお母さんに紹介したら案の定からかわれた。その前にもクアットさんにもからかわれていたので、つい怒って自分の部屋に帰ってしまった。少したってからレン君がどうするのかを訊き忘れていたことに気づいて急いで階下に降りる、すでにそこに彼の姿はなかった。



お母さんから言われたこともあって、急いで宿屋に向かう。



宿屋のご主人に訊いて、彼の部屋を訪ねる。



そこで見た彼の顔は、本当に悲しそうなものだった。いや、怯えていた、というのが正しかったのかもしれない。



彼は私のせいじゃないというが、なら何故そんな顔をしているのだろうと考え、すぐに答えに行き当たった。



「漂流者」なのだ。家族や友人もここにはいなくて、その身一つで投げ出された彼の気持ちを、私は慮っていなかった。




ここでようやく初めて「レン君」という男の子を認識したと思う。今まで漂流者さんと出会えた興奮ばかりで、彼の気持ちに気づかなかったのが本当に悔しくて、情けなくて。



でもそんなことより、今は彼のことを見る。寂しいであろう彼の気持ちを、どうにかして慰めてあげられないだろうかと思い、ちょうどお母さんから言われていたことを思い出す。




「お祭り、一緒に行こっ!」




男の子を誘ってどこかに行くなんて、初めてのことだった。けれどもレン君となら楽しめるだろうという予感があって、実際時間を忘れるくらい楽しかった。最後の方は記憶があいまいだけど、ホントにレン君と一緒に周ってよかったと思った。彼のためというよりも自分の方が楽しんでいたかもしれない。それくらい楽しかった。



ただ、次の日に目が覚めた時は心臓が止まるかと思った。



彼が私のことを見ていて、私は肌着で、彼もすぐ横で寝ていたような恰好で、彼の部屋で。

何も考えられなくなって、すごく恥ずかしくって。



なんとか帰った店でそれがお母さんのいたずらだったことがわかって、ほっとしたんだけど、少し残念に思って、そう思ったことに困惑して。


スーおばさんに帰り際、「いい男じゃない。頑張りなさいよ。」と言われて、恥ずかしくてまた何も考えられなくなってしまう。



昨日に続いて今日も一緒に出掛けることになって、まずは汗を流しに街のお風呂屋さんに向かう。



汗を流している間も洗った衣服を火の魔法を利用した乾燥機にかけている間も、ずっとレン君のことを考えていた。鏡に映る自分の顔は少し赤い。

時間にして会ってから一日も経っていないのに、随分とお互いのことを知り合ったように思える。恥ずかしい思いもたくさんしたけど、楽しい思い出の方が多くなっていた。これから先もこんな風に接していくのだろうか。そうだったらいいなと思った。



その日は街の色々なところを周って、彼にこの街を案内した。私の通う学校や、生活用品が安いお店。たくさんのお店の集まる繁華街は昨日と同じく出店であふれていた。街のギルドでは彼の身分を証明するために冒険者として登録をした。その時ギルド職員のお姉さんがレン君のことをじっと見ていたのになぜだか焦ってしまって、手続きが済んだらすぐに建物を出た。




最後に私のお気に入り、街を一望できる外壁沿いの高台にある公園で、彼が私にプレゼントをしてくれた。昨日の露店で気に入っていたけど少し値段が高かったから諦めたネックレスだった。




いつの間に買っていたのかわからなかったけれど、買ってしまったのだから受け取るしかない。お礼だからと貰ったプレゼントに、内心は小躍りしそうなほど嬉しかったのは彼に気づかれてないだろうか。



男の子からアクセサリーをもらうのも初めてだったから、すごくドキドキもしていた。



早速それを首につけ、彼に見てもらった。彼がどう思うのか気が気でない。今まで生きてきた中で一番のドキドキだったけれど、数秒後にそれはまた更新された。






彼は私のことを見つめながら、

「キレイだ。」

と言ってくれた。







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