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まずは生きることから考えます 7

 アルミナと二人、見つめ合いながら時間だけが過ぎていく。


 彼女は未だに真っ赤で、目を白黒させていた。昨日のことを必死に思い出そうとしているのだろう。


「えっ?・・・あっ・・・えっ?」


 僕もなんと言えばいいのかわからない。覚えていないのだから仕方がないのだが、毛布を引き寄せる彼女は未だに肌色の部分が多く、恥ずかしげな表情としっぽを体に巻きつけているのが妙に艶めかしくて、そこに意識が向いていたというのが本音だ。


 アルミナも僕のそんな視線に気づいたのだろう。


「あ、あまり・・・見ないで・・・」

 そこで僕は二度目我に返る。寝起きということもあるが意識を持っていかれすぎだ。


「ごっごめん!」

 勢いよく背を向ける。


「う、うん・・・」


 衣擦れの音がする。どうやら衣服を探しているようだ。


「も、もういいよ・・・。大丈夫・・・。」


「わ・・・わかった・・・。」


 服を着なおした彼女がそこにいるが、衣服の乱れが生々しく感じてしまう。


「そ、それで・・・その・・・。」

 なんとか声を絞り出すも、後が続かない。


「うん・・・昨日のこと・・・覚えてる?」


「ご、ごめん・・・あまり覚えてないんだ・・・。」


「そっか・・・実は・・・あたしも・・・。」


 二人の間に沈黙が訪れる。さすがにこの沈黙は気まずい。


 と、そこで折よく朝を告げる鐘が街に響き渡り、僕らはそれにすがって助けを求めるように窓の外を見た。


「と、とりあえずお店にいこっか・・・」


 未だに赤さを残す彼女の言葉に、僕は一も二もなくうなずいた。





 手早く準備をして、と言っても落ちていたナイフを拾っただけだが、洗面所に向かった彼女を待つ。



 アルミナもすぐに出てきて、ともに部屋を出る。階段を下りて宿屋の主人に今後も部屋を借りることを告げると、快く応じてくれた。



 宿屋を出て向かいのハイナアルの扉を開くまで、二人の間に会話はなかった。



 奥から疲れた様子のハイナさんが姿を見せる。


「おはようございます・・・。」


 挨拶をする僕を見て、ハイナさんはニマーっとした笑顔をした。


「昨晩はお楽しみでしたね。」


 僕は口を半開きにして、ぱくぱくと動かすことしかできない。昨日の小魚掬いの小魚たちに呪われたかのようだった。


 横を見るとアルミナも同じような顔をしていたが、僕の間抜け面と違ってこちらは「あうあう・・・」といった様子でかわいらしい。


 ハイナさんは渾身のいたずらが成功したかのように満面の笑みで大笑いしていた。


「わ、笑いごとじゃ・・・」と言いかけたところで僕が言うべき言葉ではないと思い口を閉じる。



 と、そこでもう一人奥から女性が同じく疲れた顔をしてでてきて、僕らを見て言う。


「あら、昨日の子じゃない。おはよう。ミーナちゃんも。」


「「お、おはようございます。」スーおばさん。」



 アルミナも知り合いらしい、気の良さそうなおばちゃんの挨拶にとっさに挨拶を返すが、そこでふと違和感を覚えて訊く。


「え、えと・・・どこかでお会いしましたっけ・・・?」


「あら、覚えてないのね、昨日――――むぐっ」と、ハイナさんが横からおばちゃんの口を押さえる。


「スーザン、ダメよ。せっかく面白いものが見れてるのに。」


 なにかおかしい。というかそれにすがりたい気持ちでハイナさんに詰め寄る。

「どういうことですか?面白いって・・・?」


 泣きそうな僕の言葉に少し残念そうにしたハイナさんは、種明かしをするように言う。


「昨日あなたは何もしていないわ。ミーナを連れてここまで戻ってきたのよ。」


「じゃ、じゃあ・・・なんで・・・」


「その後、面白そうだったから、酔っぱらってるあなたを言いくるめてミーナと一緒に宿屋の部屋まで連れて行ったのが私よ。いいもの見れた?」


 最後のからかいに返す余裕もなく、聞き直す。

「と、ということは・・・。」


「あなたもその時にはほぼ意識がない状態だったからね。なにもできなかったでしょ。」


 そこまで聞いてホッと安堵の溜息をつく。横にいるアルミナを見ると、柳眉を逆立てて母親をにらんでいた。


「おかあさ~ん!?」


「ま、あたしたちも遅くまで騒いでいたからね。起こしてしまわないようにと気を遣ってあげたわけよ。」

 あっけらかんと笑うハイナさんに、スーザンと呼ばれた女性は苦笑する。


「ま、それだけハイナがあなたを気に入っているってことよ。あたしはスーザン、ハイナの友達よ。」


「あ、どうも、レンと言います。」


 知ってるわ、と言いながらハイナさんに別れを告げて扉へ向かう。途中で何事かアルミナに耳打ちして、アルミナの顔を赤くさせてから満足そうに出て行った。

(似たもの同士なのか・・・)


「さて、いたずらも大成功してわけだし、これからのことを少し話しましょうか。」


 悪びれる様子もない彼女だが、結果的に良い思いしかしていないのだから怒る必要もなかった。


「はい。改めて、ここで働かせてもらってありがとうございます。」


「えぇ、こちらも頼らせてもらうからそのつもりでね。」


 僕はもう一度返事を返す。


「とは言ってもお祭りの間はお得意さんに品物を届けるくらいで、特に何をするわけでもないのよね。」


「そうなんですか?」


「そうなの。だから明日までは特にしてもらうこともないの。」


 弱ったな。いきなり暇を与えられてしまった・・・。


「まあ今日明日はこの街になれるようにしなさい。ミーナを貸してあげる。」


 先ほどから止まっていたアルミナがようやく動き出す。


「レン君に街を案内すればいいの?」


「そ。頑張りなさい。」

 意味深な顔でアルミナに告げる。が、アルミナは気づかなかったようで、元気よく返事をしていた。

「うん!」


「むぅ・・・。あ、そうだ。」

 何かに気づいたようにハイナさんは奥に引っ込み、包みを二つと小さめのカバンを持ってきてくれた。


「これ、昨日レン君が無傷で倒したブルベアのお肉の料理。昨日の残りだけど持っていきなさい。」


 包みをカバンに入れたのを受け取り礼を言うが、一応訂正しておく。


「無傷じゃありませんって。かなりヤバかったです。」


「そう?そう見えないほどピンピンしてるじゃない。」


(そういえば・・・あれだけやりあった痕が全くない。今まで忘れていたくらいだ・・・)


「あたしが見た時も別にけがなんてしてなかったよ?」


「全然気づかなかった・・・でも結構血も出てたはずなんだけどなあ・・・」


「漂流者の加護ってやつじゃないの?ま、なんでもいいじゃない。」

 ハイナさんがそう言うので納得する。機会があれば色々試したいものだ。




「じゃ、行ってきまーす!」


 アルミナが元気に言い、僕は会釈をしてハイナアルを出る。昨日に続いて今日もアルミナとお出かけだ。そろそろ罰が当たってもいいかもしれない。


 変なことを考えていると、こちらをじっと見るアルミナに気づく。

「どうかした?顔に何かついてる?」


「ううん。なんでもないっ。じゃ、昨日に続いて今日も行こっか!」


 どうやら同じことを考えていたようだ。彼女も楽しんでくれていたのなら嬉しいが、それを訊く勇気はない。


「今日も宜しく。アルミナ。」


「うん。任せてっレン君っ。」



 僕らは再び街に繰り出していった。







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