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まずは生きることから考えます 5


 宿屋は本当にすぐ向かいにあった。扉をあけて中に入ると、主人のような小柄な男性がつかれた顔でこちらを見る。


「すみません。今夜はもう一杯でして・・・」

 うぁ、そういえばアルミナが祭りがあるっていってたっけ・・・


「そうでしたか・・・他に泊まれそうなところはありますか?」


「ふむ・・・この時間でしたら、よっぽど良いか、かなり酷い宿屋くらいしかあいてないでしょうなぁ・・・」


 定期収入のない僕としては、あまり高いところは遠慮したいのだけど・・・、良くないところにもすすんで泊まる気概はないなぁ。


「ところでこの宿は普段どれくらいの値段で泊まれますか?ハイナさんの紹介なんですけど・・・」


 店主が「お?」というような顔をする。


「ハイナさんの紹介でしたか。では無下にすることもできませんな。こちらでお部屋をご用意いたしますよ。」


「大丈夫なんですか?」


「えぇ。本当はなにかあった時のために空き部屋を確保しているんですがね、そこを使ってください。」


「すみません。ありがとうございます。」


「いえいえ。あとが怖いですしね・・・。」


「ハイナさんってやっぱりそんな感じなんですね・・・。」


「おっと、この話は内密に。でないとあなたの泊まる部屋が、宿屋ごとなくなってしまいますよ?」


 ユーモアのある店主さんと笑いあう。いいところそうだし、ここにしばらく居ても良さそうかな?



 お金を払って部屋の場所を聞いて階段をあがる。

 貸してもらった部屋は上質とまでは言えないが、きちんと手入れされていて、清潔感がある良い部屋だ。


 そこでようやく一息つく。同時に背筋がうすら寒くなるのを感じるが、耳に入る音に意識を向ける。


 どうやら通りに面した部屋のようだ。窓をあけると祭りの喧騒が聞こえてきた。

(お祭りか・・・楽しそうだなぁ)




 しばらく耳に届く街のざわめきに心を預ける。


 何も考えずにただ、音だけを聞く。


 そう。何も考えたくない。考えないようにしていた。


 けれど。


「さすがに不安になってきたなぁ」


 いや、強がるのはやめよう。今は一人だ。誰も僕を見ていない。


 少し狭いベッドの上で、毛布にくるまり震える。


 ここはどこだ?なんでこんなとこにいるんだ?そもそも僕は・・・誰なんだよ・・・


 記憶もなく、身一つしか確かなものはない。それも一歩間違えればなくなっていたかもしれなかった。そんな不確かさが僕の心を不安定にする。一度口からでた嗚咽はあとをひき、余計に声が漏れだしてきた。

 みっともなく泣いている自分が情けない。けれどどうしようもなく怖い。


 漏れだした嗚咽は涙とともに溢れ出す。怖い。怖い。怖い。


 これからどうなるんだろう。僕は誰?ここはどこ?僕の名前は?家族は?友人は?


 怖い。こわい。こわいこわいこわいこわいこわいこわい、こわ―――


「レン君??ここにいるのー??」


 ノックの音ともに聞こえる声に、我を取り戻す。アルミナだ。


 未だ震えるのどを押さえ、深呼吸して落ち着きを取り戻す。


「レンく~ん?いないの~?」


 よし。


「いるよ、アルミナ。」


 扉を開けて彼女と向かい合う。


「そ、その・・・さっきはごめんなさい。レン君のことが嫌いだとか、そういうことじゃなくって・・・」


 その言葉で思い出す。ハイナさんのいたずらだ。「アルミナがうちに来ないでっていうから落ち込んでたわよって言っとくわ。」とか言ってたっけ?


「レン君のこと、嫌いじゃないから!!」


 よっぽど焦っているのか、下を向きながら同じことを言う


「う、うん・・・。ありがと・・・?僕も君のこと・・・嫌いじゃないよ・・・?」


「ほんと?」


 上目遣いでこちらをうかがう彼女に、思わず好きだと言ってしまいそうだ。


「ほんとほんと。」


「でも、悲しそうな顔してる。」



「え?あっ、いや、これは・・・違うんだっ。君のせいじゃない・・・」



「それに「僕」って・・・」



「あぅ・・・。・・・いろいろと忘れてくれないかな・・・?みっともないからさ。」



 彼女はハッと何かに気づいたように口に手を添えてつぶやく。



「そっか・・・そうだよね・・・なにも覚えてないし、一人なんだよね・・・」



 聞こえているけど恥ずかしすぎて聞こえていないふりをする。

(情けなさ過ぎて死にたい・・・)




「ねぇっ、レン君!」

 彼女の優しい目が僕を見る。吸い込まれそうな青い瞳に、心が安らいでいく。


 そのすぐ後に、また僕の胸が高鳴る。




 ――――――――お祭り、一緒にいこっ!


 そう言って、彼女は笑った。




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