まずは生きることから考えます 4
「はい、これ」
ハイナさんが手渡してくれたのは、くすんだ灰銀色の硬貨が数枚と、紙幣が一枚。ブルベアの肉の代金だ。高いのかどうかはわからないが、少しでもお金を持つことで心に余裕が生まれた。
「ありがとうございます。改めまして、レンって言います。迷宮で困っていたところをアルミナさんに助けていただきました。」
「そか。私はハイナ。この店の店主で、アルミナの保護者だよ。」
ハイナさんは値踏みするように僕を見ながら言う。
「身長は平均、体つきは健康そう。顔つきは整ってはいるけど少しなよなよしいかなー。」
実際値踏していたことをはっきりと告げられ、少したじろぐ。
「は・・・はあ・・・」
「けどブルベアを倒したなら願ってもない人材ね。うちで働かない?」
「いいんですか?いきなり押しかけてその上こんなにお世話になってしまって・・・」
「ま、ミーナがいいっていうんだから逃す手はないわ。決まりね、よろしく。」
「はい!よろしくお願いします!」
「ヨロシクね?レン君!」
ここまで良くしてもらえるとは思わなかったけど、本当にありがたい。二人には恩返しをちゃんとしよう。
「とりあえず今日はもうやることないけど、どうする?二階に余ってる部屋があるから、そこ使っていいよ。」
「え゛・・・?」
「ん・・・?」
「ぇえぇぇ・・・?」
ハイナさんがきょとんとした顔で声を返す。アルミナも驚いた顔をしていた。
「いや、その・・・俺もここに住むんですか・・・?」
「嫌なの?その方が都合いいでしょう?」
「い、嫌とかそういうんじゃないですけど・・・その、俺も一応男なんでまずいかなーって・・・」
「そ、そうだよ。さすがにいきなりうちに泊まってもらうなんて・・・」
アルミナが僕に同調して言うが、ハイナさんはにやにやしながらアルミナに言う。
「なに意識してんのよあんたは・・・?もしかしてこの子に満更でもないのぉ?」
「ちっ・・・ちがっ・・・、もう!知らない!」
アルミナが怒って店の奥へ行ってしまった。なんだかむず痒いことばかりだ。悪い気はもちろんしないけど。
「あ~あ、行っちゃった。どうする?」
「宿屋ってこれで泊まれますかね・・・?」
僕は先ほどもらったお金を掲げながらハイナさんに問う。
「それだけあれば七日くらいはまあ暮らせるわよ。ブルベアはいい値段で取引されるからね。実は結構儲からせてもらうのよ。角が売れたらまた追加で渡すわ。今は手持ちがあまりないから、許してね。」
「なるほど。大丈夫です。」
意外とちゃっかりしてるんだなぁ、ハイナさん。まあアルミナっていう子共がいるならそれも当たり前・・・かな。
と、そこでふと気づく。
「それにしても・・・アルミナの・・・その・・・お母さんなんですよね・・・?」
「なぁに?若くて綺麗だからびっくりしちゃった?」
からかうように片目をつぶるハイナさんに、思わずドキッとしてしまう。
「あっ・・・いえっ・・・はい・・・。」
「ありがと。・・・あの子はね、実の子じゃないのよ。私は猫じゃないでしょう?」
「あー・・・そういえばそうですね。」
そう言われてみるとわからないなりに納得した。
「ま、色々あってね。10年程前に。」
「そうですか。・・・すみません、無神経でした。」
僕はそういって頭を下げる。家庭内の事情なんて、軽々しく聞いていいものではないだろう。
「気にしないで、あの子も私も、気にしてないし、ホントの親子だと思っているわ。」
そういうハイナさんはとても、とても優しい顔をしていた。
「で、宿屋だっけ?うちの向かいがそうよ。」
「そんな近くにあるんですか・・・」
先にここに住むのを提案したのは、アルミナ(僕も?)をからかうためだったみたいだ・・・
声を上げて笑うハイナさん。
いい性格をしているみたいだけど、アルミナのお母さんだけあってとても優しそうだ。これからも良い付き合いをしていきたいと思える。
「とりあえず、向かいの宿屋の主人に「ハイナの紹介」って言ってみなさい。それで大丈夫だと思うわ。」
「ありがとうございます、行ってみます。」
「疲れたなら休んで、明日は朝に鐘がなったら起きてこっちに来てね。」
「はい。では。」
そういって僕はまた頭を下げる。踵を返して店を出ようとしたが、すぐそことはいえアルミナに一声かけようと思いなおす。
が、振り返った僕の目にはまたあのいたずら好きの母親が映っていた。