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まずは生きることから考えます 3



丘を下って少し歩くと、遠くに見えていた外壁の、その大きさに圧倒される。


門も比例して大きく、10人ほどの大人が手をつないで横に並んでもそのまま入れる大きさだ。


大門の右には小さい扉があり、その前に見張りの兵士が立っていた。よく見ると赤ら顔で、ふらふらしているのがわかった。


「あー!クアットさん、お酒飲んでるでしょー!!」


「うげっ、てなんだミーナか・・・。早かったな、もう帰ってきたのか」


「うん、この人がブルベアを倒してたから、そのお肉を頂戴しようかなと思って・・・。いいよね?もちろんお金は払うからさ。」

最後は僕に向けての言葉だ。ブルベアというのはさっきのイノシシのことなのだろう。


「もちろんいいよ。できればお金もいらないと言いたいところだけど・・・」


「あはは、そのあたりはまた相談しよっか!」

と、そこでクアットと呼ばれた壮年の男性が茶々を入れる。


「なんだ!ミーナ、お前獲物を獲りに行ったと思ったら、えらいもん捕ってきやがったな!!まさか婿を捕まえてくるとは!!しかもブルベアを獲ってこれる奴だ、こりゃハイナも喜ぶぜ!!」


「ちっ違うよぉ・・!この人はレン君って言って、漂流者さんなの!!たまたまダンジョンで出会って、困ってたみたいだからうちで雇ってもらおうと思って来てもらってるの!!」

真っ赤な顔でアルミナが両手を顔の前でわたわたさせている。猫耳もピンと立っているのが愛らしい。


「じゃあ一緒のことじゃねーか!店をその兄ちゃんと一緒に継いで、仲睦まじく二人で生きていくわけだ!くぅ~、お熱いねぇ~!!」


「ほんとに違うって~・・・。レン君に迷惑だからやめてよぉ、おじさん!!」


クアットさんが今度は僕に向かって言う。意地悪な顔で。


「迷惑なのか?レンとやら。」

その言葉の裏にある意味を、僕はすぐに理解する。困った様子のアルミナは可愛いから、ついつい意地悪したくなるのだ。


「いえ、俺は迷惑なんかじゃないですよ。むしろそうなってもいいとすら思い始めています。」


「えぇえぇぇぇ!!!」

そろそろアルミナの顔が燃え上がりそうだ。


「じゃ、決定だな!ようこそ、ペールの街へ!歓迎するぜ!・・・と言いたいところだが、冗談はここまでにして、仕事するか。」

クアットさんは小さいほうの扉を開け、中から一枚の紙を持ってすぐに出てきた。


「とりあえず、漂流者ってことみたいだから特に答えられることもないかもしれんが、いくつか聞くぜ。」

門兵としての仕事はちゃんとこなすみたいだ。おちゃらけただけの人じゃないのは確かかな。


そのまま二、三受け答えをしたが、特に実のある答えをすることはできなかった。


「ま、形だけのもんだから特に問題もねーよ。一応ここにサインしてくれ、て書けねーか。代わりにレンって書いといてやるよ。」


「ありがとうございます。お世話になります。」


と、手続きが済んだところでアルミナが冗談だったことにようやく気付き、さらに悶えているのを、クアットさんと二人で楽しんでいた。






------------





「もう!二人してからかって!ひどい!」

門を通ったあと、アルミナはぷりぷりと怒っていた。もちろん本当に怒っているわけではなさそうなので、僕も調子に乗ってついまた言ってしまう。


「俺は結構本気だったけど?」


アルミナがおっきな目をさらに見開いて、再び真っ赤になって、はたと気づいたように咳払いをする。


「もう騙されないから」


相変わらず顔は赤いままだが、幾分冷静だった。もう少し押してみよう。


「けど、アルミナのこと可愛い子だって思ってるよ?やさしい子だしね。一緒にいたら楽しいだろうなあ、って思うのはホントだし。」


「えっ・・・」


アルミナの可愛い顔を見ることには成功したけど、予想以上に僕も恥ずかしかった。

二人して足を止めてもじもじしている。


「も、もぅ・・・恥ずかしいならやらなきゃいいのに・・・」



「と、ところで、さっき気になったんだけど、ハイナさんって人が・・・?」


「あ、そうそう。私がお世話になってる人。うちのお店「ハイナアル」の店主なの。もう少しでつくよ。」


街中は石造りの建物が多く、全体的に少し茶色がかったものが多い。今はかがり火が多く焚かれ、暖かい光が照らされていてとても安らぐ。


「いつもは電灯石がついてるんだけど、今はお祭りだから。」


「あぁ、それで。」


周りを見渡すとそこかしこで談笑する男女やむさくるしい男の集まりに、老人の集会も目に付く。出店もちらほらと出ており、おいしそうな匂いが辺りを満たしていて、ついお腹の虫がなってしまった。


「あはっ!お腹すいたね!なにか買おっか!」

そういうとアルミナは手近な屋台で何かの肉の串焼きを五本買い、三本渡してくれた。

「はい!あたしのおごり!」


「ありがとう。今度お返しするよ。」


「気にしないでいいよ!あたしも食べたかったし。」


ハイナアルにつくまでの道のり、肉汁が滴って香ばしい串焼きを食べながら、僕とアルミナは通りを歩く。


途中で街のことを聞いたり、目に付いたものについて質問したりして、とても楽しかった。



「とうちゃ~く!」


目の前には他の建物よりも大きめで、木の看板に文字が書かれた立派なお店があった。看板に書いてある文字は「ハイナアル」と読める。

そのままアルミナは中へ入っていくので、僕もそれに続く。

中にはテーブルがあり、その周りの壁になにやらいろいろなものが並んでいる。薬の入った小瓶のようなものに、皮の召し物、奥には直剣なども見え、まさに何でも屋といった様相だ。


「ただいまー!!」


元気な声で帰りを告げるアルミナに、奥のカウンターの下から返事がある。


「おかえりー。どうだったー?」


声と同時に上げた顔が僕の目に入り、同時にくぎ付けになってしまうほどの美人が立ち上がる。


「あれ、それ誰?彼氏?いつのまに・・・」


「お母さんまで・・・うぅ・・・クアットさんと同じこと言わないでよ・・・」

アルミナがお母さんと呼ぶこの人がハイナさんなのだろう。真っ黒な髪に映える白い肌。華奢な体躯で、目の下にある黒子がなまめかしい。細められた目には理性的な光が宿り、同時にいたずらを思いついた子供のような無邪気さの色が見える。アルミナとは似ていないが、この人もまた違う魅力を醸し出している。


「あらやだ、あの下品な男と一緒にしないでちょうだいな。」


「仲良いくせに。えっと、この人はレン君って言って、漂流者さんみたい。ダンジョンでブルベアの下で寝てたから、声かけてみたの。」


「どもっす」


「あの巨体を毛布代わりに寝てるなんて、見かけによらず豪胆ね。で、ミーナのナンパが成功して、連れてきたと。」


「そ、そう。あてもないみたいだし、ほら、お母さん前に新しく人を雇おうとしてたじゃない?だからどうかなって思って。」

顔を赤くしながらも話が進まないと思ったのか、アルミナは特に反応もせずに答える。


「あー、あの時はひどかったわねぇ。やらしい目で見てくる男ばっかりで、諦めてたのよ。この子、使えそう?」


「うん!ブルベアも一人で倒したみたいだし。ほら!これ」

アルミナが持っていたブルベアの肉をカウンターに置く。僕も持っていた肉と角をカウンターに置く。


「へー、あなたがこれを」


「はい。簡単に、とはいかなかったですけど・・・いえ、正直に言うと死ぬかと思いました。」


「漂流者はより優れた人が多いって聞くけど、わけもわからないうちに襲われて、それでも倒せるっていうならすごいわよ。」


美人なお姉さんに褒められて照れてしまう。


「で、このお肉を買ってあげるか、ここで雇うかしてあげてくれないかな?」

アルミナが言うと、ハイナさんはすぐに快諾してくれた。


「もちろん両方いいわよ。とりあえずお肉の代金を払うからちょっと待っててね。」


ハイナさんが店の奥に入っていくと同時に、アルミナが僕の方に笑顔を向けてくれた。


「良かったね!レン君!!」


「なにからなにまでありがとう、アルミナ。きっと恩返しはするからさ。」


「えへへ・・・うん、期待してるね!!」


この子と出会えなければ今も迷宮の中でさまよっていたのかと思うと、本当に感謝してもしきれないと思う。けれどもふと疑問に思いアルミナに聞いてみる。


「けど、どうして俺なんかを助けてくれたんだ?あんなところで一人でいる男に声かけるのは、ちょっと危ないんじゃないかと思うけど・・・」


「え、えと・・・と、とりあえずあたしも腕には覚えも少しあるし、足の速さには自信があるからね。危険だとは思わなかったんだよ。」


「まあ、なさけなく潰れている男には同情する人もいるか。やっぱりアルミナは優しいね。」


「あ、ありがと・・・。そ、それと、あと・・・」

アルミナが小さな声で続けるが、後半が良く聞こえなかった。


「それと?」


「べ、別に!?なにもないよ! レン君は、ちょっといじわるだね!!」


「うっ・・・ごめん・・・」


「あはっ!」

アルミナの笑顔はやっぱり可愛い。









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