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まずは生きることから考えます 2

 女の子にも手伝ってもらいながらも、なんとかイノシシの下から出ることができた。



「で、君は冒険者だよね?なんでこんな時間に潜ってるの?」

 女の子は首をかしげながら聞いてくる。



「そもそも今何時なのかわからないんだけど・・・」


「え?そんなに長いこと迷宮にいるの?修行?」


「いや、そういうわけじゃなくて、俺もなんでここにいるのかわからないんだ。

 気づいたらここにいて、わけもわからないうちにイノシシに追われてさ・・・」


 そこまで言うと女の子はびっくりした顔になってずいと迫ってくる。



「君もしかして“漂流者”!?身寄りないの!?うちこない!?」


「ちょちょ、ちょっとまって!俺がなんでここにいるかを知っているの?えっと・・・」


「あたしの名前はアルミナ!みんなはミーナとかミナって呼ぶよ!!君は!?」


「えっと、じゃあアルミナ・・・さん。俺の名前は・・・あれ?・・・俺の・・・俺は・・・」


「さんはいらないしミーナでいいよ!・・・わからないの?」


「あー・・・うん。じゃあアルミナ、君は何か知っている感じだけど・・・漂流者って?」


「うん、この迷宮“ペール・アルメリアの迷宮”とか、ほかの迷宮でもたまに、君みたいな人がいるらしいの。「いつのまにかここにいた」って言う人。あたしは初めて見たけど」


「そうなんだ・・・」


「そう。で、その漂流者たちはほとんどの人が記憶をなくしていたりして、覚えていても名前くらいが精々だって。それまでのことを覚えていた人もいたけど、なんでそこにいたかはわからなくって、それも過去に数えるほどで、今はいないみたい。」


「・・・結局は何もわからない、てことなんだなぁ・・・」


「うん。ごめんね?」


「謝らなくて大丈夫。似たような境遇の人がいたってわかっただけでも随分安心したよ。ありがとう。」


「うん!で、なんだけど・・・うちに来ない?私のお世話になっているお店なんだけど、ちょっと人手が足りなくて・・・よかったらうちでしばらく働かない??」


「願ってもない話だよ。今の俺には分からないことしかなくて、身寄りもないしね。頼らせてもらっていいかな?」


「やった!じゃ、決まりだね、うちに連れて行ってあげる!」


 アルミナの笑顔を見ているだけで、なんだかこっちまで幸せになってくる。

(可愛い子だなぁ・・・)


「とりあえずここから出よっか。それまでに名前、無いと不便だから考えてね、漂流者さん!!」






 ---------------




 アルミナの助言で、イノシシの角二本と、お腹の柔らかい肉を切り出して、入れ物はアルミナに借りて、僕と彼女が持てる分を持ち帰ることにした。

 それから僕たちはともに迷宮から出るために歩き出した。アルミナは地図を持っていて、迷わずに外に向かうことができている。




 どうやら迷宮は地下に向かって伸びているらしく、途中で馬鹿でかい階段を二度通った。つまり僕がいたところは地下二階より下ということだ。迷宮のことも少し説明してもらったけど、ダンジョンと呼ぶ人もいるとか、ここでとれたもので生計を立てる人を冒険者と呼ぶ、とか色々あるようだ。


 途中で何度か動物にも遭遇したけれど小型のものばかりでたまに襲ってくるやつも問題なく倒すことができた。


(やっぱり自分の知っている動物とは違うようで、人を襲うモンスターという認識でいいみたいだ)


「ところで、アルミナのお世話になっているお店って、何屋さん?」


「えっと、いろいろかな。雑貨とか?小物も売ってるし、お鍋とかの金物もあるよ?あとはたまに武器のお手入れもしてるかなあ。

 あ、この前は店長が薬を作ってるとかでひどいにおいがしたなあ・・・」


 いったい何の店なのか・・・

(ちょっと不安になってきた)



「で、どう?名前決まった?」



「あー・・・れ・・れん・・れんたろう・・“レン”・・で。」



「わかった。レンさんね。もしかして名前思いだしたのかな?」


「いや、よくわかんないや。まあ、レンでいいよ。呼び捨てでいいし」


「じゃあレン君で。改めてよろしく。あたしはミーナでいいよ!!」


「こちらこそよろしく。みー・・・アルミナ」


「むぅ・・・」

 ふくれっ面も可愛いし、なんだかあだ名で呼ぶのは恥ずかしいように感じるからアルミナと呼ぼう。



「で、聞きたいんだけど。」


「話を変えたー・・・」



「ぅ・・・。 えっとさ、その耳って・・・」


「ああこれ?そっか、レン君は知らないんだね、あたしは獣人って種族の猫族なの。人間とほとんど変わらないけど、身体能力が少し高いのが特徴だね。ほかにもいろいろいるんだけど、また必要があれば説明するよ。

 それより今は・・・」


 アルミナの視線の先、円柱型の大きな柱がある。半径はゆうに50メートルは超えているだろう。



「この階段を上った先が街だよ。さ、行こう!!」

 軽く手を引かれるままに柱にくっついた大きな扉にたどり着く。そこを抜けて螺旋階段をしばらく登った先にまた大きな扉があって、それを開けると、、、まだ外は見えない。


 後から聞いた話によると迷宮を管理しているギルドの建物だということだ。そこの兵士のような人たちとアルミナが二、三言話したと思うと胡散臭げな顔で兵士はこちらを見る。


 特に手続きもないようで、アルミナとともに僕は建物を出た。


 そこで見た光景を、僕はきっと忘れることはないと思う。


 少し小高い丘になっているこの場所から見下ろす景色。


 背後には大きな柱と建物。それ以外には果てしなく広がる草原に、人が通るための一本道。道の先には外壁があり、大きな街を形作っているのがわかる。

 人の営みが燃やす火の灯りだろうか、街の中はオレンジか黄色の輝きがきらめき、僕の瞼に幻想的な景色を映し出した。


 さらに目を引くのが前を歩く猫耳の少女。よく見るとしっぽも少し見えている。


 振り返った顔には心が高鳴るような笑顔が。

「昔からの言い伝えで、漂流者さんにはこう言うんだ。」





 剣と魔法の世界へようこそ、英雄さん。






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