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ここにいる理由 4 「ロスアレス」

 

 ひと月前のことだ。


 それ以前からある犯罪者集団を追っていた私は、その住処の一つにたどり着いた。山の中腹辺り、寒村すら存在せず国境さえ曖昧なその場所で、我がミルザ王女親衛隊が執り行う殲滅作戦の最中に、初めてその男と出会った。

 黒い衣装に身を包み、強力な魔法を操る賞金首。剣を持たせれば自分が傷つくことを厭わない剣線を描き、手傷を与えてもものともしない。そんな死神のような犯罪者、「クロエ」との邂逅だった。


 奴ら、便宜的に「ミシアンの遣い」と呼ばれている犯罪者集団は好んで黒づくめの恰好をしている。闇に紛れて人を襲い、太陽の訪れよりも前に姿を消すのに丁度良いのだろう。他国による侵略者だと言う者もいれば、ミシアンという邪神に心を操られている被害者だという話もあった。だが確かめたこともないし本当のことを知る必要もない。国民が害され、恐怖を抱いている。それだけで私にとっては純然たる「悪」であり、我が主の敵だということになる。奴らと闘うことに迷いはなかった。


 犯罪者どもを斬り捨てていく中で、一際力を持つクロエと対峙した私はその規格外の男に翻弄され、取り逃がしてしまうこととなった。



 そして今回のペールの街の遠征につながる。


 ギルドからの通報に基づいてクロエの討伐に向かう我々は街に到着するなり聞き込みを開始。

 似顔絵を見せて歩けば「間違いない」といい、話をすれば「そんなはずは無い」と街の方達は言う。いわく、レンという男はそんなことが出来る奴には見えない、と。実際私がみた「レン」という男は「クロエ」と違い、暴力に似つかわしくないような男であった。


 だが、ここまで同じ顔を持つ人間が、果たして存在するものだろうか。私は当初の予定通り「クロエ」と思しきその者を王都に連行することにした。実際にクロエであれば素直に連れて行かれることは無い、と踏んでのことだ。

 結果は私の予想は現実にはならず、まるで冤罪に怯えるように「レン」は馬車に乗り込んで行ったのだ。


 いよいよ引っ込みがつかなくなってきたなと内心焦る私はその夜、彼と話しをすることにする。これが幸運なことに彼が「漂流者」だということが分かった。ならば軍に入れることで戦力の増強につなげることもできる。我々の主であるミルザ王女の面目は立つことだろうと私は安心した。同時に、まだ彼が「クロエ」である可能性は捨てきれないこともあって、監視のためにも、有力な選択肢となっていた。


 そしてその夜偶然か必然か、クロエ率いる「ミシアンの遣い」共が我々を襲撃してきた。これ幸いとばかりに私は奴らを迎え撃つ。同時にレンの乗る馬車にも向かっていた。

「やはりか」という思いと「そんなまさか」という思い。果たして正解は後者であった。「レン」と「クロエ」は別人であることを、私自身が確認することが出来た。


 疑ってすまなかった。私はそう思いながらクロエに斬りかかる。さすがに腕を一本斬り飛ばしたのは堪えた様子で、奴は退却を選んだ。


 そうして一連の事態は一旦の収束を見せたように思われたが、その騒動はまだ続くことになる。


 次期女王となる我が主の失墜を狙う宰相、ギム・ハレットが、無理やりにレンの処刑を敢行させたのだ。後になり、クロエではなかったことが判明した場合に王女を糾弾できる、と考えたのだろう。

 クロエではない、という証拠を示すことが出来なかったのも痛い。夜の襲撃はクロエの解放を狙ったもので、同じ顔をした者は影武者だったんだ、と喚く宰相。「ミシアンの遣い」の襲撃タイミングが決め手となり、レンの処刑を止めることはできなかった。


私の判断が、彼の不幸を呼んでしまった。いや、正直に言おう。私のせいで、罪の無いレンが殺される。

そして、我が主、ミルザ王女も同じように自分を責めるだろう。だが・・・。






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