二つの想い
「はい。石川と田中の分」
朝、教室で好きな人から渡されたのは、かわいくラッピングされた手作りクッキーだった。
「ちょっと、ちょっと! みんなの前で手渡すって無神経じゃない? それにコレ! おばさんの手作りクッキーじゃない!」
「なんだよ。いらないなら返せ」
「いらないなんて言ってない。おばさんのクッキーはおいしいし」
「それなら文句言うな。いくらイベント好きだからって、受験中によくやるよ。母さんもなぜか張り切るしさ。付き合わされる俺の身にもなれ!」
「こんなかわいい女子からバレンタインにチョコを貰ったって言うのに、そういう態度取るんだ! もう、あげないんだからね!」
「元々頼んでないだろ。チョコだって、母さんと妹が食べて俺食ってないし」
「そういうこと言っちゃう? サイテー! ホント、無神経も甚だしいわ!」
友達の舞ちゃんに頼んで一緒に渡したバレンタインのチョコレート。
お返しを貰えて嬉しかった。
けれど、
一生懸命選んだチョコレートは、全く想いが伝わっていなかった。
「田中も断れよ。いくら推薦で受験が終わっているからって、チョコだって安くないんだろ?」
「あ、う、うん。それじゃ、舞ちゃん行こう」
私は、彼と言い合っていた友達の腕を引いて教室から出た。
「愛奈、ごめんね。こんな事になっちゃって」
「どうして舞ちゃんが謝るの? 私の気持ちが伝わらなかっただけ。仕方ないよ」
「拓馬は鈍感だから、ちゃんとメッセージとか入れないと気付けないんだよ。愛奈みたいな大人しい子がチョコを渡すってどれだけ勇気がいるのか、わかってもいいハズなのに」
「もういいの。お返しは貰えたんだもん。それで十分」
「でも、明日卒業したら、もう会えないんだよ?」
「うん……。舞ちゃんはいいな。合格したら同じ高校だもんね」
「私はたまたま志望校が一緒だっただけで、嬉しいわけじゃないし。もう、そんな事言うなら明日の卒業式に告白しなさい」
「ええっ? そんな事できないよ!」
無理無理とばかりに首を振る、愛奈の様子に私は内心ホッとした。
どんなに鈍感でサッカーバカの拓馬でも、バレンタインにチョコを貰い、卒業式に告白までされて気付かないバカはいない。
学年で1番かわいい愛奈となら付き合うくらいはするだろう。
そうしたら、頑張って同じ高校に入学しても私の入り込める隙間は無い。
ごめんね、愛奈。
義理チョコだからって言ったの、私なんだ。
もうすぐホワイトデーと言うことで、それっぽいお話を書いてみました。
男性目線で書いてみたかったのだけれど、男性の気持ちがわからなかった……。
お読みいただきありがとうございました。