空からほぎゃ~
忙しいので短いですが
旅には陸路の他に、海路、空路がある。
飛行機がなくったて魔法があるから空路がある。
実際俺飛べるし、悪魔だから。
モンテグリュンの東門から出たところに飛行船の発着場がある。
飛行船と言ってもでっかい鳥や翼のある何かたちが人や物を積んだマイクロバスほどの籠を運ぶのだ。
普段は有料で結構それなりの金額を取られる飛行船が、初めて開拓地に向かう開拓者のためにだけ無料になる。
開拓管理局もいい仕事するね。
そういうことで、俺たちは空の上にあった。
「たかいたか~ぃ」
「やめてくださいっ、お願いですからやめ」
「ほ~らもっと、たかいたか~ぃ」
「ほぎゃ~」
「ほら、変な鳥さんもほぎゃぁ~って鳴いてるよ~」
頭上にいるのはパンパンに膨らんだ黄色い丸い体にちっこい羽をはやした変な鳥。
アヒルの様な口を時々大きく開け、情けない声でほぎゃぁ~っと鳴く。
リルはそれが気に入って揺れる籠の中で俺に高い高いをせがむ。
たぶんせがんでいるはず、ルルの意見は違うようだが。
ほれ、リルは喜んで口を真一文字にしているではないか。
ルルが俺からリルを取り戻そうと思っても今はそれができない。
ルルのオッパイにレオがくっついているからだ。
メアリーさんは母乳が出ないらしい。
ということで飛行船に乗っている間は火が使えず、粉ミルクらしきものを溶かすための湯が沸かせないのでルルが臨時の乳母代わりをすることになった。
今は2段になっている籠の下の階で怯えるロバたちをなだめているためここにはいない。
「左手下方に見えますのが出発したモンテグリュン、正方形に整然と並ぶのが第一期開拓地、西側の海に注ぐのがグリュン河でございます。この船は河をさかのぼって東進街道沿いに東へと向かいま~す」
わたわたしているリルをニコニコと眺めながら船を指揮する操獣士のタプランさんのガイドが入る。
籠を掴んで飛んでいるのは一応鳥に見えるのだが魔獣ということで操獣士と言われるらしい。
「成功の事例を見せて発奮させろ ってことなのですけど、地理は良く見ておいた方がいいですよ~」
「おぉ、ありがとう。リルちゃんよ~く見ましょうね~」
「や、やめて!」
「だいじょじょ~ぶでちゅよ~」
子供を下に落とそうとしてるように見えるんだろうか。
魔力をひも状にリルにくくり付けてあるから万一も無いんだけどな。
「乱暴なお父さんですね~」
タプランさんはにこにこと笑いながらどっしりと座っている。
多分座っているはずだ。
なんというか、ぱっと見て500kgくらいありそうな体は立っているのか座っているのかわからない。
メアリーさんたちのように幻影でごまかしているのでもない。
心配になって気づかれぬようにそっと計ってみたらなんとその10分の1も無かった。
世のなかは不思議で満ちている、うん。
そしてそのハスキーボイスにもかかわらずうら若き女性なのだ。
俺、悪魔だから気にしない。
人間やめていても気にしないぞ。
ゾンビも現実に可だから、冷たいけど。
だからこれからの4日間はタプランさんをお嬢様として丁重に扱うことにしたのだ。
本国ではお貴族様のお嬢様であったらしいし。
俺、悪魔だから記憶の奥底に隠してあるものも引っ張り出して読んじゃうんだよ。
恥ずかしい黒歴史、なんてやつもね。