旅先の朝は朝市だろ
ややこしい初夜は日が昇ってルルがゾンビの体に戻っていつもの俺たちになったんだが、なんともしまりのないことである。
良く考えれば日が昇っている間にルルとにゃんにゃんして夜はソニアと……イテッ、ルルさん枕投げんなよ。
そして朝、俺が作った飯をみんなで食って、あ、この世界の宿は飯が無いのは常識ってのがきつい。
なんたって一行で俺しか料理ができないんだからさ。
俺の料理ってのもとにかく鍋に材料をぶち込んで煮るか焼くかするだけなんだけどな。
とにかく素材がいいせいか非常に美味だったポトフもどきを食べ終わったらジョン夫妻はルルにレオを押し付けて二人だけで出かけてしまった。
これって育児放棄じゃないんだろうか。
俺なら絶対預かるときに一言ぐらい何か言ってやるんだが、俺が鍋を洗い終わった時にはあの二人は出て行った後だったんだよなぁ。
そんなわけで買い出しついでに朝市の屋台でも冷やかそうと宿を出た俺に抱っこひもでレオがくっついている。
まだ首が座っていないリルと違って多少荒っぽくてもいいってことで俺が抱っこすることになった。
「トムちん、恥ずかしいからその変な顔やめてよ」
変な顔とは失礼な。
今俺がしているのは ”悔しければ俺を倒してみろ” だ。
ちなみにさっきまでのは ”リルはお前にはやらん” だ。
レオのやつは俺に恐れおののいてキャーキャーいいながら手を振り回している。
すれ違うここの住民どもも余りにもレオがあわれで笑みを浮かべるしかない。
なんたって俺は恐ろしい悪魔だからな。
おっとレオが生意気にも反撃したぞ。
水鉄砲攻撃か。
そんな水量で俺にダメージを与えられるもんか。
そんな水など消し飛ばしてくれるわ、そりゃっ!
あまり得意にしてはいないが、闇属性以外の魔法も使えるんだぞ!
ん?
この匂いは?
毒によるドットダメージか、ちょこざいなっ!
浄化してやるっ! そりゃっ!
「トムちん、おむつ綺麗にするの上手ね」
何やかんやと言いながらそれなりに人出のある朝市の露店の間を縫って歩く。
もちろんソニアも俺の左後ろ、定位置で俺の腰の辺をつまんでついて来ている。
相変わらず自分から何も行動を起こそうとしないがきょろきょろとあたりを見渡しているあたり少しは回復に向かいつつあるようだ。
それもあるから俺は気分がたいへんよろしい。
だからと言ってリルはお前にはやらん、わかったなレオ。
「だからその顔道の真ん中でやめてってば」
ルルはかわいいんだから別にレオなんぞにやきもち焼かなくってもいいのにな。
持てる男ってつらいぜ、なはははは。
「その顔も変」
うるさいな。
しかし声を出して言えないのが惚れた弱みか。
「トムさん、おはようございます」
「グレゴリウス様、おはようございます」
俺に挨拶してくれたのはあの爺さん牧師。
俺より先に挨拶を返したのはルル。
この爺さん、グレゴリウスっていうのか、知らなかったよ、はははは。
イテッ、そこ神経通ってんだって言ってるだろ?
ルルさんつねらんでくれよ。
「おはようございます」
「おはようございます」
俺もちゃんとあいさつしたぞ、礼儀知らずじゃないからな。
もちろん視線は爺さん牧師の後ろのシスターにだが。
向こうも笑顔で挨拶を返してくれた。
しかしこの世界には美人が多い、イテッ!




