互助会じゃなかったの?
この季節はめったに雨が降らず今日もいい天気。
ん~っと気持ちよくすると俺を取り囲んだ兵士がびくっと緊張する。
昨日の今日だからと言ってそんなに緊張しなくてもいいのに。
なんて言うものの平和ボケした日本人じゃあるまいし無意識が危険を察知して警報鳴らしてるのがわかる。
実質人食いトラを棒切れ一つ持たされて連れ歩いているのと同じだから。
俺って人の天敵、悪魔だからな。
喰われたいやつ前へ出ろってんだ。
そんな行列の終着点はでかい鏡が一段高いところに何枚か置いてあるだけの小部屋。
ただ一つ置かれてある椅子に俺が座ると鏡がそれぞれ立派な椅子に座る人物を映し出した。
あまりにもちゃちい演出にため息が出る。
「これより査問会を始める」
「無能をさらしたここの支局長は追放。これで決まりだな。さて俺の証言は終わった帰らせてもらうよ」
「我々を誰だと……」
鏡に向かって立ち上がり怒鳴ったおっさんの肩を俺は後ろからつかんで椅子に座りなおさせた。
画像、つまり光を送ることができるなら影も送れる。
俺は影となって先方へと転移しただけだ。
「まあそんなに熱くなるなよ。おや、俺だけ水が出されてないぞ」
別のひげ面の前に置かれてあるグラスを持ち上げる。
「上から見下ろされるのは嫌いなんだ」
鏡を台座ごと持ち上げて横に置き、別の爺さんから取り上げた椅子を置いて座る。
俺に敬老の志はない、悪魔だからな。
「我々って開拓管理局の本当のお偉いさんたちだろ、おいそこのひっくり返った爺さん4歳の孫ってかわいい盛りじゃないか。転んで死んじゃったりしないように気を付けてやれよ」
物騒なことを考え始めたジジイの鏡に向かってくぎを刺してから正面に向き直る。
「俺はあんたたちに用はない。帰らせてもらうよ、侯爵様」
「君とはいろいろ話し合いたかったのだがねえ、男爵」
つまり俺は一目で男爵級の悪魔だとばれたわけだ。
それで早速上級天使なんぞを刺客の新大陸までどうやって送り込もうかと考えていやがる。
多分まぁ何とかなるだろう。
俺が並の男爵級ではない。
侯爵が隠していると思い込んでいる思考も全部読ませてもらっている。
知りたいことは知ったので俺は元の部屋に戻るとしようか。
「そちらが今回みたいに手を出してこなければ俺は何もしない。じゃぁな」
元の部屋は相変わらずおれ一人。
鏡に映るのは真ん中の侯爵ただ一人、さすがトップ。
あとの者たちは逃げるように通信を断った。
ただ一人残った相手の身分は本国で貴族を束ねる侯爵。
ひっくり返ったジジイを含めて全員が本国の貴族。
ここは自由で平等な新大陸とはいうものの開拓管理局を通じて密かに本国に支配されていたのだ。
開拓管理局は開拓民の互助組合、それにしてはうまくできすぎてると思った。
本国のはみ出し者を新大陸に追放して開拓させる。
開拓が一区切りつく予定の5年後、本国は投資した分を何倍もにして回収しようとしている。
しかしネタがばれれば対策は簡単。
少なくとも俺の一家だけは何とかなるだろう。




