始まりと終わりの町
出発が遅れたので目的地ファーエステンドには夕方に着く。
この町は新大陸でモンテグリュンに次いで2番目に人口が多い。
もちろん北の中心都市、ノイセントや南の中核都市サウセントの方がはるかに発展しているのだが人口だけが多い。
理由はここまで来てしまうと帰れなくなるから。
エステンドからここまでは開発管理局が無料で飛行船を手配してくれる。
だが帰りの運賃がバカ高すぎるのだ。
エステンドからここ以外の場所への移動では高いが常識的な旅費を請求されるだけなので、ここの案内板にしか書いてない帰りの料金を見て絶句することになるのだ。
俺たちの開拓予定地は他と比べて大きい。
それだけの大きさを提示しないとだれも開拓を請け負おうとしない。
つまり失敗した先人たちがいて、死んでなければこの町にいるのだ。
鍛冶屋など手に職を持ちこの町で生活できるすべを持つ者だけは何とか普通に下町を作り暮らしている。
それ以外は町を守る城壁の外でスラムを作って生きている。
スラム街でも一応生きていけるだけの仕事を開拓管理局は与えているのだ。
そのために暴動などは起こっていない。
俺たちが到着した飛行船の発着場は町の中心地。
開拓管理局関係の建物群と共にちょっとした城壁で囲まれている。
新大陸では誰もが平等なはずだがここでは城壁の門を一つくぐるごとに明らかな格差が出来てしまっている。
俺たちは余計なものを見ないようにちょっと贅沢な宿に押し込められ夜になり、そして真夜中になって部屋のドアが叩かれた。
「開拓管理局の者です、ジョンさん起きてください」
「なんですか、こんな夜更けに」
「それが大変なんです、発着場の厩舎からショコラが逃げました」
ルルたちに部屋を出ないように言って俺は発着場へ向かった。
籠を掴んで飛ぶのは飛竜や翼竜で、発着場にはそれらを入れるでっかい犬小屋のようなものが何軒も建っていた。
その一つ、一番端のホゲラがいたという建物には内側から破られたと思しき木の扉とふっとばされていたかんぬき。
「先ほど暴れて内側から戸板破り、かんぬきとして渡してあった木の棒を咥えて外して逃げました」
「そちらの不手際だ。弁償してもらうからな」
「何をおっしゃいますかっ! 暴れたのはそちらのショコラですぞ!」
俺はわめくそいつの髪の毛をつかんで引き倒し、かんぬきに顔を押し付けてやった。
「これは飛竜の牙跡だろう、うちのホゲラは鳥だ。くちばししかないぞ。もう一度言うぞ、鳥だ。夜に脱走なんてするものか。馬鹿だろうお前」
「ちょっとした連絡ミスが有ったようです。担当者は処分しましょう。ただもう飛竜が暴れて逃げたと日誌に書いてしまったのですよ。書き直すより、所有者が暴れる飛竜に殺されたとする方がいいようです」
いつの間にやら俺たちの周りを兵士が取り囲んでいた。




