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第3話「現状」

 俺は詰所まで歩かされると、後ろ手に縛られたまま左右を甲冑おっさんに挟まれて座らされた。

 狭い部屋だ。

 目の前には周りの甲冑おっさんより怖い、甲冑おっさんリーダーが居て、身動きできないまま呆然としている俺に質問が飛んできた。


「名を名乗れ」

「ヨシオ」

「年齢」

「十六歳」

「職業」

「学生」

「あん!?」


 突然表情を歪めた甲冑おっさんリーダーに胸倉を掴まれた。

 何これ意味わかんない。


「お、おい……」

「お前何者だ?」

「学生だけど」

「ああ!?」


 こええ、何だこのおっさん。

 このまま続けていたら、先の戦闘でちびって未だに生乾きのズボンがまたビシャビシャになりそうだ。


「お前これ握ってみろ」


 そう言って、水晶のように透き通った綺麗なカードを出して来た。

 恐る恐る触れてみるが、何も起こらない。


「何だよこれ」

「うるせえ黙っとけ」

「……」

「遅いな、お前なんかしてないだろうな」

「するわけないだろ」


 しばらくそのままで居ると、バチンと頭に衝撃が走った。

 その後ぼんやりとカードに文様が浮かび上がった。

 ついでに俺の視界にもぼんやりと浮かんだ。

 視界が阻害されて非常に鬱陶しい。

 甲冑おっさんリーダーはしばらくそれを眺めて、俺に視線を戻した。


「犯罪歴は無いみたいだな、疑って悪かったな」

「当たり前だろ」


 何でわざわざ恫喝したんだよと思うが、言ったらブチ切れそうなのでやめておこう。

 しかしよくわからん文様だが、文字なのか。

 だとしたら日本語でも英語でもない……、此処は何処だ?


「ところでこの破邪の風格ってのは何だ」

「俺に聞くなよ」

「お前のスキルだろうが」

「スキルゥ!?」


 英検とかそういう類のものだろうか。

 破邪の風格なんて、そんな仰々しい検定聞いた事もないぞ。


「まぁいいか、冒険者って連中はスキルを隠したがるしな。大方ユニークスキルか」

「……」


 話についていけない。

 冒険者って……、スキルってのはいわゆる所の技とかなのだろうか。

 ファイアとかサンダーとか。

 いやいやまさか。


「それで、その嬢ちゃんは?」

「襲われていた所を助けたんだ」

「おお、そうか。上玉だし、恐らく奴隷商のグスタフの所だろうな。呼んで来させるから待ってな」


 あれ、奴隷商って……。


「なあおっさん、クーンは……この子は何なんだ?」

「何って、そりゃお前奴隷だろ」


 首輪を指差してハハッと笑う甲冑おっさんリーダー。

 クーンは目を伏せ悲しげな表情をしている。

 つまりなんだ、犯罪者とかそういうのではなく、単純に、本当の意味で奴隷?

 いやいや……。




「ところで、この俺の前に出てる奴、文字? 消してくれよ」

「はあ?」


 俺は視界を遮る鬱陶しい謎の文字を手で払うが、まるで消えてくれない。

 気味が悪い。


「お前大丈夫かよ」

「おっさんが出したんだろ、さっきの変なカードで」

「ジャッジカードの事か、お前のステータスを見てたんだよ。っていうか本当に何も知らないんだな」


 ジャッジカードというのか。

 犯罪歴がどうとか言っていたし、犯罪者か確認出来るものなのだろう。

 ステータスか……。

 ステータス消えろ、消えろ、何か出てるステータスっぽいの消えろ……。

 そうして念じてみると、パッと消えた。


「消えたぞ、おっさん! ありがとう!」

「いや、何もしてないが……」


 溜め息をつくおっさん、俺は完全に不審者。

 でも構わない、俺はようやく良好な視界を取り戻した。

 試しにステータス出て来いと念じたら、また出て来た。

 何これ気持ち悪い。


 やばいな、認めたくなかったけど、これ日本とか外国とかそういうのではなく、もはや別の世界なんじゃないのか。

 しかもゲームっぽい、ゲームっぽいのにリアル。

 人とか血出まくりだし、この世界のおっさん怖いし。

 どうしよう、これ帰れ……る気がしないんだよな。


 まずこの世界に飛ばされた理由が不明だ。

 だからどうして来たのかわからない。

 どうやって帰るのかもわからない。


 そしてこの世界で生きるにしても身分証がない。

 詰んでる、詰んでるぞこれ。




「なあ、お前何処から来たんだ?」

「日本の群馬」

「……」

「ああ、家で寝てたんだが、目が覚めたら森、大木の下に居たんだ」

「どういうこった」

「正直に言うと、此処が何処だかわからない」


 静まり返るおっさん達。


「なんというか、大変だな」

「ああ、もうこの際恥を忍んで聞くが、俺はどうすればいいんだ」

「冒険者になればいいんじゃないのか」

「それ、簡単になれるのか?」

「犯罪歴も無いし、大丈夫だろ」


 おっさんはさも当然のように言った。

 冒険者とはつまりあれだよな、身一つで旅をして稼ぐような、何かそういう危険な、ゲームの勇者みたいなお仕事。

 でもゲームじゃない、怖いし、痛いし、死ぬ。

 正直やりたくない。


 やらなければ、生き残れない。


 今、俺には親もいなければ、そもそも日本ですらない地に独り。

 きっと頭の良い奴ならば、商売とかで安全に稼げるんだろう。

 生憎俺にはそんな頭脳は無い。

 でも、対人戦なら経験済みだ。

 吐いたとはいえ、悪人なら斬れる。

 一対一なら戦える。


 戦わなければ、生き残れない。




「はあ……」

「まあ頑張れよ、犯罪者にだけはなるなよ」

「ああ、気を付けるよ」




 先程のジャッジカードがあるのだから、盗みでさえ一発でばれるという事だ。

 仕組みは不明だが、犯罪歴が刻まれていくのだろう。

 ともすると、この世界において誰も見ていないから、といって行える犯罪行為はないと言える。


 冒険者とジャッジカード、知らなければ食い扶持に困り、そのうちに犯罪に手を出していた可能性だってある。

 経歴を汚せば、多分そこで俺は詰む。

 それが知れただけでも収穫か。


 何にしても当面の目標は衣食住の確立、これだ。




「ありがとな、おっさん」




 俺はぼそりと礼を呟き、今後の生活を想像して頭を抱えた。

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