犯人はこの中にいる!
ひどいです。きをつけて。
「犯人はこの中にいる!」
とある孤島で起きた連続殺人事件。しかし偶然居合わせた全国的に有名な高校生探偵のほにゃらら田一新ほにゃ(有名ではあるがその場にいた全員があやふやでよく覚えていなかった)はその第一の殺人の現場をみてすぐにそう叫んだ。
「ばれちゃ仕方ねぇ! 全員そこを動くなぁ!」
瞬間、死体の傍に置いてあった人一人くらい余裕で入れそうな箱の中から現れた血まみれホッケーマスクの大男が箱から飛び出し、手近にいた少女を捕まえ首にナイフを突きつけた。
そうだ。犯人、はこの中にいたのだ!
「カオリ! くそ! カオリを離せ!」
「タクヤ! 助けて!」
囚われた少女の傍にいた青年が殺人犯に食って掛かる。この二人は今夜結ばれたばかりの恋人同士だ。
「見せつけてんじゃねぇ!」
叫びと共に殺人犯はおもむろに少女の胸にナイフを突き立てた。
「グァァァァァァ!」
「カオリィィィィ! お前人質の意味わかってんのかバカ野郎ォォォ!」
しかしもうそうではなくなった! 獣のように野太い断末魔を上げた(元)恋人の死体の前に崩れ落ちるタクヤ。殺人犯はついでとばかりに隠し持っていたナイフでタクヤの背を刺すと、タクヤもまたウッと声を上げて(元)恋人の死体に折り重なるように倒れる。
その光景を戦々恐々と眺めていた集団のうちの一人がハッと気が付いた。
「主張よりも先に手が出るその手口……お前は3年前に死んだはずの世界的テロ活動家?! こんな所で生き延びていたのか!」
そう、日本にはかつて最悪と呼ばれたテロ活動家がいた。何が最悪かと言うと、そのテロリストは政治的主張を一切することなく淡々と破壊活動を繰り返したのだ。一度逮捕されかけ、テロリストだと名乗るまでは快楽殺人犯だとばかり思われていたその恐るべきテロリストが、まさにこの男であった。
「世界的テロ活動家……? ククク、それは3年前までの話だ。これを見ろ」
正体を看破されたテロリストは倒れるタクヤの背からナイフを抜き、二人……いや、最初の犠牲者を含めれば三人の血で濡れたそれを皆の前に掲げた。その暴威に怯える皆に向かい、ニヤニヤと笑みを浮かべながら口を開く。
「このナイフを見て何か気づかないか?」
言われて、どよめきながらもそのナイフに注目が集まる。
そのナイフはいやにゴテゴテとした煌びやかなものだった。刃は白銀、柄は黄金、鍔元には宝石が埋め込まれ、所々にアルファベットのような、あるいは象形文字にも似た謎の文字が刻まれている。
そして、とうとう一人がその恐ろしい事実気付く。体中の毛穴から冷や汗を溢れさせながら上ずった声で叫んだ。
「ちゅ、厨くさい! とてもテロリストが使いそうなナイフには見えないぞ! まさかお前、三十路越えで中二病かよ?!」
その言葉と共に全員がそれを理解し、その場は阿鼻叫喚の地獄に変貌する! 修学旅行でこの場に来ていた彼らの大半は学生、在りし日の己の醜態を思い出してしまったのだ。それを見たテロリストが哄笑を上げる。
「そうだ! そしてこの厨くささは俺の趣味だからじゃねぇ! 俺が3年前に迷い込み、成り行きで救ってしまった異世界から持ち帰った物だぁ!」
「そ、そんな! じゃあお前は……!」
「そう、俺はもう世界的テロリストではなく……異世界的テロリストなんだよ!」
「う、うぁ……ぁっ……!」
テロリストの中二を最初に看破した少年が、恐怖に膝から崩れ落ちる。ただでさえ凶悪なテロリストが厨くさくなれば、もう誰にも手を出せる物はいない。当然だ。誰だって突如として現れたテロリストを格好良く鎮圧する中二妄想はしたことがあるが、テロリスト側が中二であった妄想など誰一人としてした事は無いのだから……。
絶望が辺りを支配し、最早引き攣った嗚咽のみが響いている。
感情は谷底よりも深い暗黒へと静かに静かに沈んでいき。
理性は底なし沼よりも黒い深淵へと静かに静かに沈んでいく。
だが嘆く事ではない。ただ彼らは帰るだけだ。
多くの生徒にとって学園生活など、始めから奈落の底なのだから――。
「フッ……少々脅しすぎたようだな。心配するな。俺はもう異世界的テロリストではない」
「……えっ」
そのテロリストの言葉が理解できず、彼らの多くは素っ頓狂な声を漏らした。テロリストはホッケーマスクの下でにやりと笑い、ナイフで最初の死体を指した。全員の目がそれを追って死体に集まる。
と、その時だ。突如として死体がぶるんぶるんと蠕動を始めた。全身があり得ない方向に折れ、曲がり、膨らんではまた曲がり、最後に縮んでまた動きを止める。最早これ以上驚くことはあるまいと思っていた彼らもこれには驚いた。死体が動いた事ではなく、その死体が変貌した先の姿に。
「そ、そんな!」
「宇宙人?!」
そう、グレイだ。低身長で有名な、しかし音楽をやっているほうではないグレイがそこに死んでいた。
そして彼らはテロリストの言葉の真意を理解した。そう、彼はもう異世界的テロリストですらなく……宇宙的テロリストだったのだ!
「う、宇宙にまで手を出すなんて……お前はいったいどこまで行くつもりなんだ?!」
「ククク……俺のやる事は最初から決まっている……これはすべてそのための下準備よ」
「な、何だって?! それは一体……?!」
しかし、彼らはその問いの答えを聞くことはなかった。テロリストのナイフから迸るファンタジックなエナジーが絶海の孤島ホテルを一撃で消し飛ばしたからだ。
塵すらも残さずこの世から消滅した、煌めく星空の下。罅の入ったホッケーマスクの下の目を血走らせながらテロリストは呻くような声で叫ぶ。
「米軍だ……! 宇宙を制したおれは、米軍に対してテロ活動を仕掛ける……!」
『いいか照露。米軍は、鬼畜だ』
それが彼の祖父の口癖であった。
世界的……いや、異世界的、ひいては宇宙的テロリスト、鈴木照露。彼の米軍への憎悪の根源は彼の祖父にあった。
彼の祖父は旧日本軍の下士官だった。祖父は二次大戦時、常に最前線で米軍と戦い続けていた。そう、当時の旧日本軍の量産型最新呪装生物兵器、TAKEYARIを使って多くの戦闘機を落としたエースTAKEYARIストだったのだ。
だが、旧日本軍司令部から「冗談だったのに……あいつやべぇよ」とすら評される戦鬼であった彼の祖父は志半ばで命を落とす。空腹に耐えきれずTAKEYARIを齧っている所を撃たれて死んだのだ。
その後、特に何かが起きる事もなく終戦したのだが、異変が起きたのはその数十年後だった。まだ幼い照露の枕元に死んだ祖父が立ったのだ。全裸で尻の谷間にTAKEYARIを挟んだ姿で。
『いいか照露! 米軍は鬼畜だ! YOU殺っちゃいなYO!』
軽快なステップで踊り、時折リズミカルに尻を叩きながら米軍への憎悪を説く半透明な祖父。それはまだ4歳だった照露にとってどれほどの恐怖だっただろう。そしてそんな毎日が続く内に、恐怖と憎悪が実体のない祖父から実在の米軍に移っていくのも、あるいは当然の事だったのかもしれない。
かくして、ここに対米軍専用宇宙的異世界テロリストは誕生したのだ。
だがその夜、隕石が落ちて地球が滅亡したのでテロリストの悲願は達成できませんでしたとさ。
おしまい
なろうの全部のジャンルを書き出してすべての要素を備えた作品を書こうと思ったのが運のつきでした。
詩とエッセイの要素は……み、見逃して