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推して参る!!  作者: 小池
学徒編
21/37

青天霹靂

「さて、どうしようかなあ……」


 特別棟の最上階。七階あるクラス棟とは違い、特別棟は五階までしかない。とはいえ、子どもが飛び降りて無事な高さともいえなかった。普通の子どもであれば、の話だが。

 俺にとっては脱出不可能な高さではない。窓を割って、イオニスを抱えながらでも無事に逃げ出す自信はあった。問題は、結界が張られて外に出られないってことだ。


「ご丁寧に手の込んだ結界張ってくれちゃって、まあ」


「リューマ。壊せるか?」


「できなくはない……けど、時間かかるし。相当消耗するから、イヤ」


 遮断、空間の切り離しに偽装。ここまで複雑な術だと、術式を構築するのも一苦労なはずだし、何より目立つ。発動前は隠ぺいできたとしても、発動してしまえば「鍵」が丸見えになるのだ。捕獲用としては使い勝手が悪い。 「鍵」とは外の空間と、結界で閉じた空間を繋ぐ起点となるものだ。形状や材質は問わないが、魔術で結界を構築する場合、時空間的な意味を持つ呪具を用いるケースが多い。

 そのため、こういった用途で使う場合、大抵は術式も鍵も人体に組み込んでしまうのだ。術者は身を隠していても良いし、今回のように護衛付でもいい。とにかく、術式と鍵が敵の手に渡らないように立ち回る。

 閉じ込められた側の取りうる手段としては、術式を破壊するか、鍵を手に入れるか、あるいは力技か。できれば、手っ取り早く鍵の奪取が好ましい。

 でも、こいつら……プロだな。

 ブラフの配置の仕方が、巧い。一番強そうなヤツに、偽物っぽいの。弱そうなヤツに、本物っぽいの。それ以外のヤツはそれなりに本物っぽいの。一見しただけでは、どれが本物かわからんぞ。


「困ったなあ。こうなりゃ、全員倒して無理やり脱出も……アリか」


「できるのかよ」


「たぶん?」


 敵さんは動かないな。時間稼ぎが目的か、それとも、結界によほど自信があるのか? 時間稼ぎだとしたら、面倒だな。俺たちを隔離する理由がわからないし。

 今は手に握った短剣だけが頼りだ。外と連絡が取れれば、時間が稼ぎに徹しても良いんだけど、この状況では気付いてくれそうな人もいないし。


「イオニスは戦えんのか?」


「俺は研究専門なんだけど」


「……じゃあ、術式の解析は?」


「時間をもらえれば」


「りょーかい」


 俺とイオニスは、窓側の壁を背にして身をかがめていた。敵が何をしたいのか目的が全く読めないので、とりあえず、状況の把握に徹する。

 敵は動かない。俺が一瞬たりとも気を抜かないから、うかつには攻撃できないはず。


「じゃ、解析は頼んだ」


「頼まれた」


 イオニスを机の陰に隠し、俺は敵さんの前に出た。あっちの目線が高いのが気に食わないな。俺は手頃な机の上に乗った。


「ねえ、俺たちをここに閉じ込めてどうするつもり?」


 敵は口を堅く閉じたまま、答える様子はない。

 構えた武器を見るに、やつらは暗器使いだ。正面からの戦闘は苦手なタイプかな? 五人送り込むんだったら、もっと魔術師とか連れてくればいいのに。


「答えないの? 俺たちを殺す気はないようだね。……誘拐が目的?」


 敵さんはだんまりを決め込む。そりゃそうか、簡単に教えてくれるわけないよな。


「誘拐が目的だったとして、俺とイオニス、どっちがお目当て?」


 戦士系の武装集団、魔術系の秘密結社、政治がらみの裏組織。強力な戦力が欲しいやつらなんて五万といるし、俺たちはまだ子どもだから洗脳しやすいと思われてもいる。学長から話を聞いたとき、そんなやつらが接触してくる可能性についても、気が付いてはいた。


「せめてさあ、名前くらい名乗ってくれても良いじゃん?」


 ダメだコイツら、うんともすんとも言わん。さっきから一ミリも表情筋が動いてないんだけど……。

 速く出たいなあ……殺っちゃおうか。何か面倒くさくなってきた。


「ふう。しょうがないな。答えてくれないなら……強硬手段をとるよ」


 俺は跳躍して天井スレスレにまで上昇する。

 短剣を振りかざし、狙うのは一番強いやつ。厄介な茶髪の男だ。でも、金髪と茶髪しかいないし、面倒だから強い順に番号つけよう。

 一号はスピードをのせた俺の攻撃を受け止めた。残念、それは不正解だ! 短剣と暗器が接触した瞬間、俺は電気のように気を流し込んだ。


「ぐあっ!」


 びりっとするし動けなくなるけど、死にはしないよ。安心しな。

この一手で理解した。こいつら、魔術師でも戦士でもない。戦闘訓練を積んだ、ただの人間だ。ならば、


「俺の敵じゃないな!」


 二号から五号が、一斉に連携攻撃を仕掛けた。

 腐ってもプロ。仲間がやられたことに全く動揺した様子はない。怯まずに撃ちこんできた。


「あらよっと!」


 身体の回転と剣さばきで、すべての攻撃をいなす。彼らは使える気の量が少ない分、技で補っているようだ。

 だけど、速さが足りない!


「遅いよ!」


 すれ違いざま、四号に気を込めた蹴りをお見舞いする。


「――――ぐふっ」


 ボールのごとく吹っ飛んだ。一瞬、壁に激突した仲間に意識が逸れた三号さんに、これまた気持ちのこもった掌底をプレゼント。脳を揺らしたから即落ちだ。


「このッ! 小僧めがあああああ!」


 キレやすい若者らしい短気な二号は、俺の背後を狙った。ぷつんときても、彼は自分の本領を忘れなかったようだ。

 しかし、俺にとって殺気のこもった一撃なんて、テレフォンパンチも同然である。暗器使いとして、いや、もしかしたら彼は暗殺者なのかもしれないけど、それじゃ二流だよ。

 すすっと体を横にずらして、鉄鞭を避ける。

 伸びきった腕をからめ捕って投げた。水平に飛んでいった二号は、そのままの勢いで壁にめり込んだ。おお、マンガみたい。

 最後に残った哀れな五号さんは、何を思ったか体に巻き付いていた鎖を引きちぎった。

 あれ……鎖?

 俺が本物っぽい「鍵」だなあ、とか。そんなカンジの印象を持っていた、

「繋ぎ止める」という意味を持つ呪具ではありませんか? この場面で破壊するってことは……。


「まさか、それが――!」


 俺は五号に飛びかかった。

 鍵を壊すとは、己はバカか! この空間から、誰も出られなくなるんだぞ! 特にお前らが!


「お前ら、何をしようとしてる!!」


 組み敷いた五号の頭を鷲づかみした。ほんの少しだけ気を流しこみ、五号の内魔力を乱してやる。おそらく、これで思考が鈍るはずだ。

 胸ぐらをつかんで問い質した。


「お、そい。もう、わたしたちの、目的はたっせいされた」


「目的って何だよ!」


「この分校で……一番の強者をかくりし、群れをよびこむことだ」


「群れ?」


「まぞく、の」


 どういうことだ? 魔族の群を呼び込むだと? 何のために?


「魔族の群れに、何させるつもりだ!」


「目覚めさせる。……おうの、聖布を……贄の血によって」


 『ルベール王の聖布』、それは呪われたマントだ。

 ルベール王は覇道を成して内乱を治めた。そして、当時は極東の超弱小国だったクライルヴィア王国を、大国にまで押し上げた人物だ。現在の国土のおよそ八割が、ルベール王時代に勝ち取った領土である。

 かの王がくぐり抜けた戦場はあまりにも多く、浴びた血は海をつくるほどだったという。彼の気を吸い、敵の血を吸い、いつしか王のマントは呪いを帯びるようになった。使用者に力を与える代わりに、主を闘争へといざなう呪い。

 災いをまき散らす、呪いのマント。それこそが『ルベール王の聖布』。


「聖布がここにあるのか……?」


 『ルベール王の聖布』は王宮の封印庫に安置されていると、本には書いてあった。それがこんな辺境の学校にあるというのか。


「リューマ!」


 イオニスが声を張り上げた。晴れやかな表情である。


「イオニス。急いでここから脱出する必要がありそうだ」


「聞こえていたさ。まさか、この結界が本当に(・・・)足止め用だったなんて」


「正直、誘拐や暗殺の方がマシだったと思ってる」


 複雑な術式、鍵の隠ぺいにその破壊。

 あの五人は、戦う意思が感じられなかった。はっきり言って弱かったし。そんな五人の役目は、時間稼ぎしかなかったという訳か。使い捨て要員ですね、わかります。


「俺たちが目的? とか言っちゃったんだけど、……恥ずかしい」


「良いじゃないか、あれも駆け引きだよ。…………ほら、開いた」


 鍵もなしに空間のゆがみをこじ開けましたか。術式を完全に読み解きましたね? イオニス君、さすがすぎる。

 ごおおおんと鐘が鳴るような音が聞こえたかと思うと、教室の景色が一変した。戦闘の痕がすっかり無くなっていて、楽士系の生徒向けの設備が見える。やたら立派な棚には楽器が並べられていた。


「どうする?」


「決まってんだろ。――――魔族の群をぶっ潰す!」


「聖布はいいのか?」


「どこにあるのかも、本当にココに存在するのかもわからん。気にするだけ

ムダだって。それに……」


 俺は職員棟の方を一瞥した。


「それに?」


「聖布の別働隊は、じきに捕まるよ」


 俺たちはその場を後にして、学校の正面へと回り込む。

 すると、校舎を囲むようにひしめく魔族の群が見えた。教師が戦っているのだろう、ちらほらと魔術光が発せられている。中には七回生の生徒も交じっていた。


「意外だな。……先生たちが押している」


「そうか? 召喚士の腕が足りていないせいで、わざわざ首輪せいやく

を付けてるぞ。せっかくの魔族も、これじゃあ意味ねえよ」


 数だけ集めても、一体一体の能力が半減しているのでは、陣形を組んでいる教師たちの防衛ラインは突破できない。教師の中にも一応、戦士や魔術師が混じっている。出力パワーより技術テクニック派のやつらばっかだけど。


「それじゃ、一発派手にあいさつしてやろう」


 両手に握った短剣に気を通す。

 今の俺が可能な最高密度に達するまで、循環と凝縮をくり返した。しだいに剣は熱を帯び、青白く発光しはじめる。溜めて、約三十秒。青白い光はすでに炎のような赤に変色していた。

 赤。これが気の本来の色である。気の色が赤に近づくほど、その純度の高さを示しているのだ。

 ぶぶぶっと短剣が振動している。これは相当負荷が掛かっているな。まあ、この一発分が持てばいい。


「錬気術・三の型」


 三の型は、気を形状変化させて威力を一極集中させる業だ。俺は専ら剣の形にしている。短剣に沿うように、気を剣の形状へと練り直す。

 傍から見たら、俺はきっと大剣を握っているように見えるに違いない。


「――――――万災帯砲ばんさいたいほう!」


 魔族の群の中心部に向かって、振りぬいた。

 赤い気は鋭い刃となって魔族たちを襲う。薙ぎ払われた後には、身体を真っ二つに斬られた魔族どもが崩れ落ちた。半分くらいは削れただろうか?

 焼けこげた死体に目もくれず、俺は今の一撃を受け止めてみせた一体の魔族をねめつける。見覚えのある顔だった。


「アイツだけは、首輪ナシか。……いや、首輪を付けられなかったんだな」


 フレイム・ベア。胸部にのぞく小さな傷痕は、確かに自分が付けたモノだった。まさか、こんな所で再会するとは思いもよらなかったが、まあいい。


「嬉しいよ。こんなに速くリベンジする機会がくるなんて、な」


 ボロボロに崩れる短剣を捨てる。

 左の掌に隠していた術式を解放。歪んだ時空を通って、手に馴染む俺の相棒が顔を出した。耐久率の高い、ジルコニア鋼を鍛えたツヴァイハンダー。太陽の光を反射して、俺の相棒が凶悪な光を放つ。


「イオニス。ちょっくら、あのクマ倒してくるわ」



学徒編の助走部分ですね。事件が終われば一気に飛びます。

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