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推して参る!!  作者: 小池
学徒編
16/37

一喜一憂

 若葉の目もほころび、青々と草木の茂る夏の入り。チェスリーの花びらが吹雪のように舞っている。母さんの機嫌は最高潮だ。父も今日は仕事を休んでおめかししている。あの、懐かしき地球は日本を彷彿とさせる光景の中、俺の胃はキリキリと悲鳴をあげていた。


「ふふふ。リューマったら緊張しているのかしら? スプーンを持つ手が反対よ」


「なにい? お前、森に入るときには平気な顔しといて、学校に行くのは緊張すんのか」


「にぃ! かおしろい!」


「しろい!」


「うるさい。今話しかけないで。頼むから」


 なんと、今日は入学式なのです。運命の日なのですよ、諸君!

 だってさ、エリー以外の友達がいない俺だよ? 学校と行ったら知らない子どもがたくさんいる所だ。今日トチれば、最悪卒業までボッチ街道まっしぐらじゃないか。会う人会う人が「初めまして」だ。緊張するに決まっている。

 いいか。学校というのは社会の縮図だ。スクールカーストなる恐ろしげなものもあると聞く。油断してはならぬ戦場なのだ。俺は魔族よりも人間の方が恐ろしい!


「大丈夫よ。リューマは賢い子だもの」


「俺の息子なら、学校中のワルを締め上げるくらいの気概を持て!」


 ちょっと黙って、そこおおぉぉ!

 俺の気が休まる暇もなく、『ノーステア学習院教養科分校』にたどり着いてしまった。魔導車に乗っている間も、双子は容赦なく俺に纏わりついてきた。おかげですでに満身創痍だ。


「入学おめでとうございます」


 受付係の人が疲れきった表情をしている俺に疑問符を浮かべたが、すぐに気を取り直して案内をしてくれた。はい、気にしないでください。

 受付係さんから学校案内と番号札を受け取り、俺たちは入学式の会場を目指した。校舎内は俺と同じ新入生で溢れかえっている。もし俺が当事者でなければ、微笑ましく眺められたことだろう。

 校内は広かった。各学年十クラスはあるそうで、上級クラス棟、中級クラス棟、下級クラス棟と三つに分かれている。教師棟はすべての棟と行き来可能だが、それぞれの棟を繋ぐ通路はない。完全に隔離されている。何だこの格差社会は。

 言っておくが、上級とか中級というのは年齢じゃなくて、成績順位のことだ。上級はニクラス、中級は三クラス、下級が五クラス。そして各棟の建物の大きさはほぼ均一。

 ……どういう意味かわかるだろ?

 身分意識の強い我が国では、はやくから格差が存在する事実(・・・・・・・・・)を子どもたちに教え込むわけだ。身を以て、な。平等思想なんて絵空事だと。

 こういう時、前世の記憶があいまいなのは助かると思う。あまりに前世と違い過ぎる価値観に出会ったとき、俺は拒絶してしまうかも知れないから。その理由、実態を知る前に。


「ここでも弱肉強食なのか」


 優秀なものが優遇され、無能者には価値が与えられない。俺もここで生きる限り、競争と身分からは逃れられないのだ。「納得できなくても、理解はしておけ」とヴェル爺は言った。

 まったく、厳しいことだ。

 修練場、地球で言う体育館みたいな所で入学式は行われた。クラス分けは成績順と言っても、最初の一年だけはランダムに分ける。本格的に待遇の差が出るのは進級してからで、一年間は教師も生徒に対して同じように接する。


「これより、クラス振り分けを行います」


 これだ! ここが運命の分かれ道。

 受付で配った番号を使ってクラスを振り分ける。上級Sクラスの担任から順に、番号を引いていく。どこに振り分けられるかは、完全に運しだいだ。


「にぃ、なんばん?」


 ディールが俺の手元を覗きこみながら訊いてくる。


「245番だ。ディーとリーも245番が呼ばれたら教えてくれよ」


「わかったー」


「かったー」


 双子は元気に手をあげる。のんきな奴らだ、お前たちも三年後には同じ目にあうんだぞ。次々と読み上げられていく番号に、入学生たちは一喜一憂している。あっという間に上級クラスは終わり、中級クラスの振り分けに入っていた。

 俺も身を乗り出して番号が呼ばれるのを待つ。はっきりいって、下級クラスは嫌だ。いくら成績は関係ないといっても、運任せだといっても、狭い教室には通いたくない!


「254番!」


 おしい! とてもおしい! 速く245プリーズ!!

 無情にも、俺の番号が呼ばれないまま時間が過ぎていく。うわ。中級終わったよ。下級確定だ。最悪だ。まあ、生徒の半分は下級クラスなのだから、しかたない。最下級のIクラスだけはホントに嫌だけど、一年間だけの思い出だと思って我慢するか……。

 時が過ぎるごとに、俺は悟り顔になっていった。


「245番!」


「あ、よばれた」


「たー」


「あらあら、Iクラスなんて残念ねえ。リューマ」


「お前なら大丈夫だ。頑張れ」


「二人とも俺の目を見て言ってよ」


 豚小屋よりもひどいと噂のIクラスになってしまいました。……泣。


  ◆


 入学式の後、俺たち新入生はそれぞれの教室に移動した。母さんたちはここでお別れだ。ぞろぞろと移動する喜色満面の集団に、暗雲を漂わせる集団。……一目で結果が分かるな。

 俺もすごすごと暗雲集団の後ろをついていった。

 下級クラス棟は想像していたよりも普通だった。田舎のボロイ学校を想定していただけに、拍子抜けしたところもある。だが、よく見るとある事に気が付く。


「小さくなってる?」


 ずらりと並んだ教室、廊下には私物入れらしきロッカーが並んでいた。そのロッカーの大きさが、奥に行くにつれて小さくなっているのだ。俺は恐る恐る奥へと進む。手前の教室に入っていくやつらからは同情の視線を送られた。

 手前の三教室分のロッカーには、かろうじて扉が閉まって鍵がかかるようになっていた。うしろ二つは……カラーボックス重ねたカンジ。もはや扉さえなかった。これが社会の縮図だというのか!

 廊下から目を反らして、しかたなく教室のドアを開けようとした。……なかった。あ、これ、バリアフリーで良いね。……じゃないわ! 夏や冬は空調ナシかコレ。自分で何とかしろってか。 

 廊下と教室を区切るのはただの衝立だった。壁つくるのさえ面倒だったのか!


「これがIクラスの洗礼というヤツか……」


 江戸時代の寺子屋を思わせる、横長の座卓が二十。二人一組で使うらしい。良かった、思ったより普通だった。俺は開いている席に座る。


「すまん。もっと端によってくれるか」


「え? あ、すまない」


 胡坐をかくと隣の人が座れない。俺は正座になってスペースを開けた。隣に座ったのは、俺よりも背が高い男の子だった。俺も五歳にしてはよく育っている方だが、彼の方が大柄だった。肩身が狭い。

 彼は手持無沙汰な俺に話しかけてくれた。


「お互い運がなかったな。まさか最下級クラスに当たるとは」


「ああ。他のクラスのやつから向けられる、同情の視線が痛かったよ」


「ははっ。違いない」


「進級すればいい思い出になると考えることにする」


「お? 上に上がる自信あるのか」


「いつまでもこんな狭い部屋にいられるか」


「確かにその通りだ!」


 二人で笑い合った。隣の彼とは気が合いそうだ。良かった。これで一年間ボッチの刑は免れる。


「俺、リューマ。リューマ・イレイディターだ。よろしく」


「俺はイオニス・ヴルケイン。よろしくな、リューマ」


 軽く自己紹介をした後、全員が揃うまでイオニスと雑談をしていた。

 イオニスには上に三人の兄がいるそうで、兄弟の中でIクラスになったのは彼だけ。兄たちには相当からかわれたらしい。

 いいなあ。俺は一番上だから兄や姉がいることに憧れる。俺がそう言うと、イオニスはこき使われるだけだと苦笑いしていた。


「でも、学校の話はいろいろと教えてもらった」


「そうなんだ。……俺はわからないことだらけなのに」


 受付で渡された学校案内の冊子をめくってみる。あ、これ、校舎の案内図しか載ってねえ。


「食堂や売店は共同みたいだ。その分トラブルもあるから気を付けろって」


「へえ? やっぱりこんだけ差があると、トラブルの一つや二つあるか」


 上に兄弟がいると違うもんだなあと感心していたとき、にわかに教室の一角が騒がしくなった。


「ここは僕が一人で使う! お前は他の机に座れ」


「ええ、ええっと。でも……空いてるのはここしかなくて……」


「知るか! 自分で何とかしろ!」


 赤茶色の髪の少年が、ハニーブロンドの女の子を怒鳴りつけていた。他のクラスメイトも何事かとそちらに目をやっている。

 まだ五歳なわけだし、この待遇に文句の一つも言いたくなるだろう。少年の気持ちもわからなくはないが、ここは止めるべきだな。集団で生活するからには、耐えることも必要だ。

 少年に注意しようと立ち上がりかけた俺を、イオニスは腕を掴んで止めた。


「え、なんだ?」


「リューマは知らないようだけど、あいつ……『都落ち』なんだ」


 俺は『都落ち』という言葉に肩を揺らした。かつて、エリーの話を聞いて、彼女も都落ちなのではないかと疑ったことがあったからだ。

 『都落ち』とは、なんらかの理由で王都の居住権をはく奪された人たちを指す。ごくまれに自ら権利を返上する人も居るが、ほとんどは闘争に敗北した者たちだ。過去の栄華を忘れられず、地方の暮らしに馴染めない者も多い。

 彼らは身分が高かったがゆえに、総じてプライドも高い。赤茶色の少年が都落ちなのだとしたら、Iクラスの待遇には耐えがたいのかも。


「でもよ。女の子を怒鳴りつけるのは、やっぱ、おかしいだろ?」


「注意するなとは言わないさ」


 イオニスは肩をすくめて俺の腕を放した。クラスメイトが傍観する中、怒鳴られている女の子は今にも泣き出しそうになっている。


「おい。さすがに言いすぎだろ」


 思わず強い口調で赤茶色の少年と女の子の間に割り込んだ。少年は怪訝そうな目で俺を見る。


「なんだお前は。僕に口答えするのか?」


「Iクラスに来て文句言いたくなる気持ちもわかるが、言う相手が違うんじゃないか?」


「ふん。このクラス分けは実力とは関係ない。そのくらいはわかっているさ」


「じゃあ、なんで彼女を怒鳴ったりしたんだよ」


「クラス分け自体に意義はない。でも、クラスの中では優秀な者が優先されるべきだ。違うか?」


 おおっと、そうきましたか。この少年、意外に知恵が回るというか、屁理屈をいう。

 最初の一年間はごった煮クラスだ。もちろん、クラスの中にはできるヤツもできないヤツもいる。だからできるヤツを優遇しろ、と。


「それは君が優秀な者で、彼女は優秀じゃない者だと言っているのか? まだ授業も始まっていないのに、いささか気が早いな」


「そうさ」


「……なに?」


「その通りだと言っている。そこにいる愚図は、我が家の使用人の子だ。そいつ頭のデキも、無能であることも知っている」


「はあ? まだ入学したばかりの子に、無能のレッテルを張るのはおかしいだろ」


 俺は半ばあきれて反論すると、今度は後ろから返事がきた。


「彼の言う通りですよ、リグブレンド君」


 突然割って入った声に、俺は振り返って声の主を見た。そこにはまだ若い、教師と思しき女性が立っていた。


「君たちは我が校に入学したばかりです。まだ何の実力も示していない。実

績もないうちに優遇を求めるのは傲慢ですよ。はやく席に座りなさい」


 リグブランド君と呼ばれた少年は、眉をひそめただけで何も言わなかった。教師の言葉に従って、黙って席に着いた。俺も煮え切らないまま、イオニスの隣まで戻る。ハニーブロンドの女の子はびくびくしながら少年の隣に座った。

 全員席に着いたことを確認した教師は、生徒を見回してからこう言った。


「最下級のIクラスへようこそ。来年は上のクラスに上がれるよう、励んでくれることを期待します」


いよいよ学徒編です。主人公、さっそくフラグを立てました。

新キャラがどんどん出てきます(予定)。可愛い女の子をいっぱい出したいな(願望)。

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