表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純白の勾玉と漆黒の花嫁  作者: 篠宮 美依
第2章 新しい風
11/41

その1

麗花を厳しくしかったあの日から、男鹿はあまり鈴を訪れなくなり、鈴も男鹿とは顔を合わせなくなった。

 別にお互い避けているわけではない。それなのになぜか、お互いに会おうと思えず、会わない。

 否―――どちらかといえば、男鹿が独りでいる時間が増えたのだろう。

 あれから優礼や月秦は相変わらず訪ねてくる。

 月秦も最初は嫌そうな顔をしていたが、段々と慣れてきたのか、それとも鈴の誠意を感じてくれたのか、わだかまりはすっかり無くなっていった。しかしそれと共に、男鹿との関係は冷めてきているのだ。

 ―――所詮は生贄、ということかしら。

 男鹿は半年ものあいだ、何も食べずとも生きていけるという。それなら、自分とも半年会わなくても平気なのだろう。

 だが優礼や月秦は違う。麗花がいるので鈴が血を分けることは少ないが、彼女の機嫌を損ねると分けてもらえないことも少なくないようで、ときどき鈴のもとに来る。

 優礼は上手く彼女の機嫌を損ねないように出来ているようだが、月秦は性格上、彼女とは合わないのだろう。喧嘩して食べれないことが多く、それを聞くたびに鈴が月秦を呼び出すようになっていた。

 月秦はあまり鈴を頼らない。それははじめて会ったあの日、鈴が言った言葉のせいだろうか。主に忠実な月秦のことだから、自らの主の“食糧”である鈴をそう簡単に食せないのかも知れない。

「…男鹿様……。」

「―――ご心配ですか、鈴様。」

 部屋に入ってきたのは月秦だった。いつもの通り食事を運んできたのだろう。食事を運ぶのは月秦の仕事になっていた。

「…男鹿様はどうしていらっしゃる?」

 その問いはここ最近、鈴が繰り返してきたことだ。

 いつもなら「元気ですよ」と、ただそれだけ答える。けれど今回は訝しげに眉をひそめている。

「今日のところは、お元気ですよ。ただ…。」

 鈴から目を離すと、彼は呟くように微かな声で言った。

「……どうやら次の戦に参加しろとのお達しが来た様で。」

 次の、戦。

 かりだされる―――――。

 誰に、とは月秦は言わなかった。だが、答えはひとつしかない。

「結局、あのひとはわたしのことなどなんとも思っていないのね。」

 あの父は、自分のことなどどうでもよいのだ。

 戦となれば何ヶ月にも渡る。男鹿がどういう立場なのかは分からないが、少なくとも半年の間、城には戻れないだろう。準備から終焉まで、それくらいの年月はかかるはずだ。

 となれば、鈴も―――あの男鹿が実際連れてはいかないだろうが、少なくとも父の知る“ヴァンパイア”の男鹿は、人の生死などどうでもよい、冷酷な彼のはず。その彼を呼び出すということは、“食糧”として鈴がついてきてもかまわないと思っているのだろう。

「…男鹿様のことです。鈴様を巻き込もうとは思っていらっしゃらないでしょう。ですから―――。」

「男鹿様は…大丈夫なの?戦でしょう、怪我をしたら…。」

 鈴は自分の感情を押しやり、月秦に尋ねた。

 鈴の中で男鹿の存在は確実に大きくなっている。彼の身が心配でならなかった。

「我々は、人ではございませんので。治癒力は高いですから、まず死ぬことはありません。そのうえ男鹿様は純血の御方です。怪我くらい大したことございません。」

 月秦は淡々とそう告げると、逃げるように去っていった。

 治癒力は高いから。死ぬことは無いから。怪我程度、大したことではないから。

 だから、何の心配もするなと、彼は遠まわしに言いたかったのだろうか。

「心配なものは、心配なのよ…。」

 鈴はその晩、月秦のその言葉が頭から離れず、一睡もできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ