イザ
歩きながら話した。
「これからどこに向かうの?」
「いまからイザという街に行くの」
「イザ?」
「そう。
陸の軍隊基地がある街でね、地上では一番大きな街。
でも街に活気はなく、あるのは軍服を着た恐い男の人と火薬の臭いだけ。
その街の中央に基地があって、物資はそこでもらえるの。」
「イザ‥」
「そして空軍と戦争している陸の軍隊のことを[アスラー軍]、
私たちの敵、空軍のことを[ピアーズ軍]と呼んでるの。」
「そこにピアーズ軍は攻めてこないの?」
「わからない、でもいつ来てもいいようにアスラー軍も万全の準備で防御を固めているわ。
だからピアーズも簡単には手を出せない。」
「そうなんだ。
俺にはちょっと、
難しいや‥」
「大丈夫。
記憶が戻れば全部思い出すよ。
スカイ、大丈夫。」
「うん、ありがとう」
「あと30分程で着くはずだから。
着いたらスカイの記憶も戻るかもしれないね、ふふ」
エリは優しかった。
優しい笑顔を誰にでも惜しみなく振りまいていた。
「見えたわ。
あそこ、見える?」
エリが遠くを指差しながら言う。
距離にしたらかなりあるが、そこにははっきりと、
巨大な要塞に囲まれた大きな街がある。
「ここがイザ。
陸一番の街、イザよ。」
エリはなんだか得意げに言ってみせた。
「大きい。
すごく大きな街だ」
「私たちの目的は街の中よ。
入りましょ。」
大きな扉を開けると軍服を着た男性が近づいてきた。
「何のようだ?」
少し威圧するような喋り方。
「物資を受け取りにきました。
L52地区、Aシェルターの者です。」
エリはそう言って、ドクにもらったチケットを取り出し、衛兵に見せた。
「そうですか、最近はこの辺もピアーズの連中がうろついているという情報が入ってきています。
女性は特に危険です、くれぐれもお気を付けください。」
「はい。」
エリの横を歩きながら街を見ていた。
この街はエリの言ったとおり、軍の人間しかおらず、
火薬の臭いと煙が立ち込めていた。
でも、なんなんだろう。
少し、懐かしい気持ちになる。
この香り、この景色、この環境。
なんだか不思議だ。
落ち着いてしまう。
「ここが基地よ。」
ウィーン
扉が開きエリは受付まで行った。
「L52地区Aシェルター、エリ・アルファベストです。
弾薬と医療キット、食料を少々いただけませんか。」
チケットを受付嬢に見せながら言う。
「腰を掛けて少々お待ちください」
ロビーの椅子に座ってホッとしていた。
しかしこのロビーよく見ると軍の人間はおらず、椅子に座っている10~20人の人間全員が民間人だった。
「この人たち‥」
「この人たちは私たちと同じ、
近くのシェルターから物資を求めてやってきた人たちよ。
そして横の扉の奥の人たちは親を失ったり、入るシェルターが決まってなかったり、アテの無い人たちが助けを求めて軍に来たの
入るシェルターが決まるまで、軍はこの人たちの面倒を見るの。」
その扉の向こうには、腕や脚のない者、おそらく親を戦争で亡くしたであろう、子供の姿まで見えた。
こんなに胸が苦しいことはない。
戦争とは、あまりに多くの犠牲者を出し、得るものはあまりに少ない。
自由のために武器を取るのであれば、それは数多い他人の自由を奪うという事である。
戦争の愚かさ、それに気がつかない人間は…