エリ
ガチャ
「おい!飯だ!」
扉からマキが入ってきた。
「まあこれを食べて今日は寝ろ。
明日風呂に入れてやる」
ドクが食事を机に置き、そう言った。
「じゃあな」
マキが笑って手をあげた。
「あ、マ、マキ、フジ」
「ん?」
「助けてくれてありがとう」
「おう!いいって!」
マキまた笑いながら言う。
「フジも。ありがとう」
「おう。」
フジは小さな声でそう言った。
3人は部屋から出ていき、部屋には1人きりになった。
俺は一体誰なんだ。
なんなんだ。
世界情勢も知らない、
こんなことになってるなんて。
頭がいっぱいになる。
叫びたい、俺は一体‥
ガチャ
!?
扉の方を見ると最初に見た黒い髪の女性が立っていた。
「あ、えっと、花を替えに‥」
綺麗な声。
「あ、はい。」
花を替えながら女性は喋った。
「大丈夫ですか?」
「え?」
「身体、痛かったり‥」
「あ、大丈夫です。はい。」
「あの、お名前は?」
「わからないんです。どうやら記憶喪失らしくて。ハハ」
女性は驚いた表情を見せた。
「でも、まあ、ドクが言うには一時的なものの可能性もあるらしいので、はい、大丈夫です。」
「すみません、変な事を聞いてしまって」
「いや、いいんですよ。全然。
名前付けなきゃな。ねえ、よかったら僕の名前付けてくださいよ」
「え?私が?」
「あ、いや、嫌なら別にいいんですけど」
笑いながら言ってみた。
「私でよかったら、付けさせてください。」
「え?ほんとにいいの?嬉しいなあ!」
「‥スカイ。」
女性は照れくさそうに言った。
「え?」
「名前です‥」
「早いね、決めるの。」
「その真っ青な瞳、空みたいだったから。」
「ありがとう。気に入ったよ」
女性は顔を真っ赤にさせた。
「じゃ、じゃあ私は」
「あ、待って。
1人じゃ辛いんだ。
少し、話せないかな?」
女性はまた顔を赤くした。
「はい‥」
「君の名前は?」
「エリ。
エリ・アルファベスト。」
「そうか、エリ。
歳はいくつ?」
「22です。スカイは?」
「わからないんだ」
「そう‥」
「エリ、お父さんやお母さんは?」
「お母さんは一緒よ。地下シェルターにいるわ。
お父さんは、ここに避難してくる途中に病気になって、カプセルシェルターに入ったわ。
もう1年も前のことだけどね。
あとから来るって言って、それっきり。」
「ごめん、嫌なこと思い出させてしまったね。」
「ううん、いいの」
そう言ったエリの表情は少し寂しそうだった。
「あ、私そろそろ行かなくちゃ。
まだ少し仕事が残ってるの」
「うん、ありがとう。
また話せるかな」
やっぱり顔を赤くしてこう言った。
「うん、また。」
バタン
静かな病室。
流れる時間。
スカイは静かに眠りに落ちた。