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電気ウナギの拳

「くそ、くそ、くそぉ!」


一階階段前。僕はそこで壁を何度も何度も叩く。理由は簡単だ、あんな男と勝負を引き分けてしまったからだ。


それもあんな気品も迫力もないただのパンチ一発でだ。惨めったらしいったらありゃしない。この僕が、あんなゴミのような噛ませ犬に……!


「あらあら、すごく怒っているあるネー」


二階の方から、声が聞こえた。そっちを見ると、チャイナ服を無理矢理制服と混ぜ込んだような服装をする女子――万里チュウカ先輩が僕を嘲笑うように見ていた。


「いやぁ、良いザマあるヨ。あんな偉そうな顔がこんなに激昂するまで崩れるのは見ていて気持ちがいいあるネー」


「……言ってくれるじゃないですか先輩。なんならここで僕が貴方に力の違いを教えてあげてもいいんですよ?」


僕は右手に雷の剣を作り出す。しかし、万里チュウカ先輩は僕の挑発には乗らずに言った。


「あっはっは! もう今日は満足あるヨ。あの単細胞一年生がお前を下しただけで大満足あるネ。お姉ちゃんとの約束を守った甲斐があったアル」


「万里チャイナ先輩との約束だと……?」


「そうあるヨ。お姉ちゃんがあの二人に戦わせるようにと言ったあるネ。最初は私も意味不明あったあるガ……今日の戦いを見て、ちょっとは納得したネ」


「……どういうことです、それは」


「まっ、それはあの不良一年生がこの先もどんどん強くなっていったらわかるあるヨ。サクヤの方は、概ね問題なく強くなっていくだろうしネ」


万里先輩は階段から跳躍して何段抜きもし、一気に僕の近くまで飛んできた。そして、万里先輩は僕の横を通りながら言った。


「という訳で、踏み台係、ご苦労様ネ」


そんな、悪魔のように歪な笑いを言葉に含ませながら、そのまま彼女は校内から去って行った。


……この僕が、踏み台係だと……? あのただの狂犬で、噛ませ犬アイツの踏み台……?


……あんな、低俗な奴の……!


「く、くぅっ……ぐっ、ぐっそぉぉぉぉっぉぉぉっ!!」


僕は天井を突き破るかのように、天へ向かって叫びはなった。


++++++


「……酷い言い方するね、チュウカちゃん」


下駄箱前。僕は向かって来たチュウカちゃんに向かってそう言った。


「……なんだ、見てたあるカ変態」


「うん、見てたよ。勝負については内容は知れなかったけどあの闇霧ウツメくんと――って、その変態って呼称止めてくれないかなチュウカちゃん!?」


「無理あるネ。可愛い後輩のサクヤを変態的な目で見ながら義妹とか言ってる足原シュウトという変態の中の変態を変態と呼ばずして何と言えばいいあるカ」


「普通にシュウトって呼んでくれていいよ!? それに僕はサクヤちゃんをやましい目でなんか見ていない! あくまで僕は紳士的に……!」


「あー、もうお姉ちゃんのときと同じ言い訳はいらんあるネ。さっさと捕まるあるお前ハ」


 手で犬を追い払うかのような動きをさせるチュウカちゃん、僕の評価が底辺まで落ちている!?


「と、ともかく、闇霧ウツメくんに今日関くんが引き分けたんだろう?」


ごほんと、咳払いをして僕は言う。


「そうあるヨ。ぶっちゃけ予想外ある。まさかアイツが一矢報いるなんてーって感じあるヨ」


「……ああ、僕としても想定外だった。彼の実力はサクヤちゃんと比べても高い実力を持っているからね……ふふっ、今年の一年生も凄い逸材が混じっているよ本当に。ブンゴがワクワクしていたのも、わかった気がする」


「ほー、そうあるカ。それじゃああの一年生どもに怖気づいてじいやのように引退しておくあるカ?」


ニヒヒと笑いながらチュウカちゃんは言う。ふっ、まさかそんなはずもない。


「まさか。むしろ僕も熱くなってきたところさ。明らかに格下であった今日関くん、期待の新人のサクヤちゃん、そして――未だに底知れずの闇霧くん」


そう、あの少年はこの敗北にも近いドローゲームで恐らく更に強くなっていくだろう。今回、今日関くんが勝てたのは彼の慢心という点がある、と僕には感じられる。それならば、彼は必ず今日関くんに屈辱を合わさせるために更に腕を磨くはずだ。


「全く……とんでもないことをしてくれたね、君は」


「恐れおおのいたあるカ?一年三人に」


「さっきも言ったけど、それはないよ。今回の高戦会……姉さんを超えてブンゴを超えて優勝するのは、僕だ。それぐらいに気の合いは入ってしまった」


「……ならいいある。ついでに……」


チュウカちゃんは口の端を曲げる。


「去年の借りは、今回で返させてもらうあるヨ、シュウト」


そしてそのまま、靴を履いてチュウカちゃんは帰っていった。飄々としてはいたが、彼女の闘気は本気のそれだった。……まだまだ彼女も底が知れないな。


「……高戦会、こうも楽しみになってくるとは思わなかった」


学年が上がって、去年の先輩達と戦えなくなって少しばかりやる気は下がっていた。けれど、なんだ――それに匹敵する高揚感を与えてくれるなんてね、君達は、最高だ。


ふと、履いていた上履きを軽く脱いで、足から抜けさせるように宙に舞わせる。そして――その上履きを壁に向かって蹴り飛ばす。


「……待っているぞ、今日関くん、サクヤちゃん。君達の相手が、ブンゴや姉さん達だけじゃないってことを高戦会で証明してみせる……!」


壁にめり込まれた上履きを見ながら、僕はそう呟いた。



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