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ロケットドッグVSモヤシウナギ

闇霧の苛立つような叫びと共に振り下ろされた、電撃剣。


そんな感情のこもった雷剣を俺は咄嗟に避ける。目に見えてんならさっきみてぇに当たる訳にはいかねぇ……つうか、この剣に当たるだけでも割とまずい。さっきの強烈な痛みをも一発食らうってのは物凄くいただけねぇ。


「避けるな! 今日関ぃ!」


「無茶言ってんじゃ、ねぇよ!」


先程より荒くなった口調の闇霧に、俺は叫ぶように返答しながら蹴りを放つも闇霧は後ろに飛んで回避した。今なら当たると思ったんだがな。


「コラコラコラァ! お前ら名乗りもせずに戦い合うの止めるあるヨ! あとここには一般人もいるんだから考慮するあるネー!」


その言葉に俺と闇霧は動きを止める。ああ、そうだったな、ここには反川もいるし無茶はできねぇか――あの野郎がな。


俺は再び駆け出して闇霧に向かって右足による脇腹狙いの蹴りを放つ。しかし、俺の攻撃を予測していたかのように蹴りをかわしてくる。


「やっぱり君はクズだな。仲間がどうなろうが知ったことはないってことなのかな」


「どうもなんねぇから向かって行ったんだろうが。テメェこそ無抵抗の人間がいるのにそのカミナリブレードを振りきれるほど外道な人間じゃねぇだろ?」


「そう思うか?」


「思うね。だからそこのエセチャイナの言葉に動きを止めたってことだろ」


そう言うと、闇霧は口を紡ぐ。コイツは確かに腹立たしいが、そう言うとこはまともらしい。


「だが、そんなテメェに勝ったとこで俺の憂さは晴れねぇ。だから……黒日々、反川連れて下がってろ」


俺は黒日々の方を向いて言う。すると、わかっていたかのような悟った笑みを見せて頷く。

どうしてこうアイツはどうにも腹立たしい笑みをこっちに向けてくるんだかな。嫌じゃないがすげぇムカつく。


「ちなみにエセチャイナはどうでもいい。むしろ間違って雷食らって重傷負え」


「死にさらすあるネ」


とりあえず、万里チュウカにも嫌味を言ったしこいつで何の後腐れもなくケンカ出来る。反川と黒日々、ついでに万里チュウカが退避したのを確認して再び拳を構える。


「さっ、待たせたな。存分に本気<マジ>で来やがれ」


「……ふん、愚民が生意気を言うね。だが僕も頭が冷えた、だから言わせてもらおう」


何を言うつもりだ、と思うも、その疑問はあっさりと解決する。


「雷光司る我が名は闇霧ウツメ、クラスランクは現在のみC、学年は一年」


言葉に色々と装飾をつけながら、闇霧は《名乗り》を行なってきた。へぇ……。


「まさか、名乗るとは思わなかったぜ」


「本気を出したいからね。君を消しカスにしても不問になる方法としては、これがもっとも、遣り易い」


つまり、人殺しにならない程度に俺をぶっ殺したいって訳かい。いいぜ、そいつが出来るもんならやってみやがれ闇霧ウツメ。


「一年、ランクはE、今日関レンガ。悔やんで泣いて喚くの屈辱の三拍子を行なってもらうぜ、モヤシウナギ!」


「その頭の悪そうな名で呼ぶないでもらおうかな。まぁ今から開く口からは絶叫しか聞くことはないだろうけれど、ねっ!」


モヤシウナギは声を発し終わると共に、手に持つ電撃剣をこちらに投げてくる。自分で武器を捨てた? ならありがてぇな!


俺はギザギザの電撃剣をかわし、一気に走り出して殴りかかる。だが、何か忘れてる気が。


ああ、そうだ。あの電撃剣のことだ、あの電撃剣はアイツの手から作られたものだ……だとしたら。アイツの手にはもう新しい電撃剣が……!


その考えが頭によぎった瞬間、想像通り闇霧は電撃剣を俺に向かって横に振るってくる。だが、それに気付くのが僅かに早かったため、俺は拳を止めて身体を捻り、電撃剣を何とか避ける。あっぶねぇ……!


「無謀な突撃だと思ったけれど、まさか僕の雷光を忘れていたと言うのか?」


「へっ……ん、んなわきゃねぇだろ? 軽い小手調べだよ」


「そうか。ならそんな余裕を一切無くさせてやる!」


そう言うと、闇霧は更に速さを上げて俺に斬りかかってくる。くそ、手でガードできねぇってのは痛手だ、黒日々とはまた違った斬りかかり方だからまたやりづれぇ!


徐々に後ろに下がりながら打開策を考えていると、背中が後ろにある壁にぶつかる。やべぇ、そんなに下がってたってのかよ。


「覚悟はいいな、今日関レンガ」


闇霧の声が聞こえてくる。これを避けても今後避けきれる気がしねぇし他の方法も思いつかねぇ……しかたねぇ、こうなったらもう――腹を括るしかねぇか。


「さぁ、もう一度受けるがいい。僕の雷剣の非道たる力――雷光剣、重雷剣罰 <ジャッジメント・サンダー> !」


闇霧のカミナリ剣にスパークが走り、俺を切り裂くように振り下ろされた。瞬間。


「がっあああぁぁぁぁぁ!?」


身体ん中に電撃がバチバチと駆け巡るような痛みが全身に響いてきた……! さっきよりも何倍もいてぇ……! 意識がぶっ飛ぶ……!


「……これにて終幕だな今日関レンガ。僕の重雷剣罰は先程の電撃とは比較にならない電圧と電撃の持続性を持つ、これを耐え切れた人間は今のところ万里先輩ぐらいだ。だがそう悲観することもない、僕の重雷剣罰は耐え切れないのが当然、むしろ万里先輩がおかしかっただけさ」


目も霞んでくる中で、闇霧が背を向けるのが見える。待て、まだ終わっちゃいねぇぞ。


「一度眠れ、今日関レンガ。そしてもう一度考えるといい、本当に君はバトルバッチを持つべきかどうかをね……いや、もう聞こえてはいないか」


何をごちゃごちゃ抜かしてやがる、こっち向きやがれ。まだ終わってねぇぞ。


ここまで大見得切ってこのまま負ける訳にはいかねぇだろうが、本当に吼えるだけのかませ犬になるわきゃいかねぇんだよ。


ああ、クソ。頭ん中がさっぱりしてきやがった。こいつは大分ヤバイってことか。身体もロクに動かせねぇ。


意識が、真っ白になっていく。もうだ……


『俺を……』


……声?


『俺を越えるか、レンガ?』


……なんだこりゃ、幻聴か? 


『無理だな、なんせ俺は兄貴だぜ? 弟にはぜってぇに負けられねーよ』


うっせぇ、返事してもいねぇのに勝手に話すな。


『けどよぉ、待ってるぜ、俺を越える日をな』


……だから勝手にしゃべんなってんだよ、クソ野郎。


アイツはいつだってそうだ。自分勝手に喋って、自分の道を突き進む大馬鹿野郎だった。


けれど、それが羨ましかった。誰だろうとも止められない、自由の塊みてぇなあの野郎に俺はどうしようもなく憧れていた。


そういう点では、あのバカも――黒日々も同じだ。アイツは俺と似ていて、それ以上に兄貴に似ていた。


理屈も何もなく人を尊重するあいつは、兄貴のムカつくとこを持っていて。そして――兄貴の羨ましいとこを持っていたんだ。


……はっ、何を考えてんだかな俺は。痺れすぎて思ってもねーことを考えちまった。でも、どうやら俺の拳に力が入るぐらいには思っても良かったことらしい。


「待てよ、モヤシウナギ」


身体中にビリビリと電撃が走りながらも、俺は闇霧に声をかける。すると、驚くような表情をしてこちらを振り向いた。


「……まだ、動けるのかお前は」


「あったりめぇだ、俺を誰だと思ってんだ。この学校で最強になる男だぜ、カミナリ程度じゃあ死ぬこともできねぇよ」


……なんてな。嘘に決まってる。多分アイツもそれをわかってるだろうから、焦った様子もない目で俺を見てるんだろう。


「そうか、倒れる寸前だと言うのに君は口だけはけして減ることが無いみたいだな。それだけは認めてあげるよ今日関、その口の悪さはね」


「抜かせ、この野郎」


けど、さっきよかマシな解決策が思いついた。やっぱカミナリ食らいながらぶん殴るなんて無理な話だったわけだ。我ながらヤケクソな作戦だと思ってる。


後出しなんて、やっぱ俺の主義じゃねぇな。


「さぁて、一度二度とお前は俺を倒せなかった。三度目に正直があると思うなよ、闇霧」


「三度どころか何百でも君を叩きのめせることを知るべきだね」


闇霧は再び手の中にカミナリブレードを作り出している。ったく、制限っつうのがねぇのかねアイツは、人間発電所状態ってか。


「再三見せよう。僕の力を、神を名乗れし天から放たれる力を従える僕の神聖さを」


闇霧は気取りながらカミナリブレードをこちらへ向けてくる。ぶっちゃけ、あの野郎がさっきみてぇな投擲をしてきたら俺はあっさりぶち当たるだろうがよ……絶対それをやってくることはねぇ。


自分に絶対の自信を、俺より上だという絶対の自信を持っている。そんなアイツの自慢のカミナリを俺が二度も食らって立っている、そんな悔しいことはねぇだろうさ。


そんなあいつのプライドが俺の勝つ唯一のチャンス。もし、アイツの最強技が遠くから撃ち出すものなら、俺はまた医薬野のいる保健室に世話になることになるだろう。まっ、理屈ではだがな。


だから、きやがれ闇霧。一発でテメェを沈めてやる!


「……行くぞ、今日関レンガ」


俺が拳を構えると同時、闇霧はこちらへ走り出――


「雷光即閃<フラッシュ・ライトニング>」


思考が、止まる。


余裕なんてなかった。まさに一瞬で、闇霧は俺の至近距離まで来ていた。なんだよ、それ。テメェは黒日々か。


「終われ、閃光のままに」


もう電撃剣は俺に振り下ろされている。間にあわねぇ、絶対に当たる。


絶対に当たる、だったらどうする。そりゃあ、決まってる。


「――な」


こっちも、殴っとくしかねぇだろ。



霞む視界の中、叫ぶ間もない一瞬。俺は何も迷わずに闇霧の腹部へと思いっきり拳を打ち込んだ。



――いつかの、クソ兄貴のように。

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