闇の訪れ、それは霧のように
「あーっ! こいつあるヨ! いけ好かない根暗一年男子、闇霧ウツメは!」
意味わからんことを抜かしたモヤシ野郎に向かって万里チュウカは興奮するように指を差す。アイツがあの武器倉庫チャイナを倒した、っつうことは。
「テメェ、能力者か?」
俺がそう問うと、闇霧は驚いた表情をする。
「へぇ、よくわかったね。万里先輩にでも聞いたのかな?」
「いいや、あの武器倉庫チャイナをテメェみたいなモヤシ野郎が倒したってことは魔法やら能力者やらしかありえねぇだろよ」
俺がそう言うと、闇霧は勘に触るような不快な笑い声を出す。何が可笑しいってんだこの野郎。
「流石はかませ犬の今日関と言われるだけあるね、それなりに敵の特徴を捉えているっていうわけだ」
「……何?」
「おや、ご存知なかったのかな? 色んな人間に挑んで負けている姿からかませ犬の今日関とバトルバッチ持ちの人達には言われてることも気付かないなんて、こいつは滑稽だ! あははははっ!」
その一言で、俺はブチリと脳の中のなんかが切れる音がする。耐えていたが、どいつもコイツも俺を舐めやがって……!
「だったら来いや、闇霧。この場でどっちが上かを教えてやる」
俺は椅子から立ち上がり、挑発するように人差し指を二度曲げる。
「ふふふ、止めておいた方がいいと思うよ今日関くん。僕と戦ったらそれこそ異名通りに事が済みかねない。それに僕が戦いに来たのは万里先輩の方でね、弱い人には興味ないんだ。戦う意味など皆無だからね」
ことごとく俺を格下に見やがって……! だったら、
「だったら、試して見やがれっ!」
俺は拳を振り上げ、闇霧に向かって殴りかかる。能力者だろうが魔法使いだろうが、叩きのめすだけだ!
「ふふ、仕方ないなぁ。それじゃあ万里先輩に改めて紹介するという意味を込めて僕の力を見せ付けてあげよう。そして、格の違いを思い知るがいい、愚民」
奴はそう言って、手から何かを作り出してくる。なんだ!?
「見せてあげるよ、硝煙と共に現れし雷光の剣の力を」
その何かは、まるで剣のような形となって奴の手の中に納まる。だが、これなら俺の拳の方が奴の顔面に届く方が早い!
「遅いよ、愚民」
その言葉の、直後。
全身を焼くような痺れが俺に襲ってきた。まるで内側から燃やされているように、身体が自分の行動を拒否するかのように、それは襲いかかってきた。
そのせいか俺の拳の勢いは急激に弱まっちまい、黒霧は首を逸らすだけであっさりとかわしてしまう。
そして、その正体不明の痛みを声に出さずに堪えるも、俺は思わず肩膝をついてしまう。すると、闇霧の声が聞こえてくる。
「ほぉ、僕の雷剣を耐えるのか。伊達にかませ犬している訳じゃあないんだね」
「雷剣、だと?」
「そうさ、僕は雷使いの能力者。君の身体を僕の雷剣で斬ってやったのさ、君の想像を超えてね」
ってことは、アイツは俺をあの雷剣とやらで切ったってことかよ。あの正体不明の痛みは電撃によるもんだった訳か……!
「とまぁ、改めて感じてくれたかな万里先輩。貴方のお姉さんを倒した、この僕の神雷とも言える王者たる力をさ」
闇霧は万里チュウカの方を向いて、どこか楽しそうに言う。そんな闇霧に対して万里チュウカは不機嫌そうに返す。
「んなもん知らねあるヨ」
「そうですか、それは余裕の言葉と取っておきますよ先輩。それじゃあ、僕はこの学校の屋上で待っています。Cランク最強である貴方を倒し、花々しくBランクへ上がろうと思っているので」
「待ちやがれ闇霧!」
俺は万里チュウカと話したあとに電撃剣を消してこの部屋から立ち去ろうとする闇霧を呼び止める。すると、面倒そうにこちらを振りむいてきやがった。
「なんだよ今日関くん。もう君に用なんか存在しない、むしろデモンストレーションとして僕の雷剣を食らえたことを有難く思って欲しいところだよ」
「なんだと……!」
「所詮、君の存在は引き立て役に過ぎない。ランクEで弱く、そのうえ粗暴で馬鹿な君はまさしくかませ犬にしかなれない」
闇霧はこちらに指を差して、せせら笑うような表情を向けて、
「君のここにいる価値は、それだけだ」
嘲笑うように、言い放った。
「最強なんて幻想を持つには遠い、その物差しのような姿こそがお似合いだよ、今日関レン……」
闇霧の野郎が得意げに語っていく、その瞬間だった。
いつの間にか俺と闇霧の間に割って入り、黒日々が闇霧にカラクリ刀の刃を向けていた。闇霧は少し驚愕の表情に変えるも、すぐに余裕の表情を見せる。
「……何のつもりかな?」
「……人の価値を、何も知らない貴方が決めるな」
……黒日々は、まるで今にも闇霧を突き殺さんと言わんばかりに鋭く睨みつけていた。こいつ……。
「あはは、何を怒っているのさ君。もしかしてコイツの彼女ってやつなの?」
「違う、けれど大切な友人だ。貴方の視点だけで見たレンガを、今日関レンガを語るなんて私が許さな」
悠々と語り始めていた黒日々が突然、何者かに後頭部を叩かれる。物凄い痛そうに叩かれたとこを両手で押さえる。犯人は誰か、言うまでもねぇ。
俺だ。
「何をこっ恥ずかしいことを抜かそうとしてんだこのアホ。つうかテメェも一ヶ月も俺と接してねぇだろこのアホ」
「に……二度もアホという必要はないじゃないか!」
黒日々は涙目になりながらこちらを睨んでくるも、それを無視して俺は闇霧の方を見る。わざわざ構うのが面倒だ。
「なんか偉そうに語ってたけどよ、テメェの言うことはクソみてぇに聞き飽きた台詞だ。この学校に来てからも何度も聞いた、でもんなお説教じゃ心も折れるどころかむしろ楽しくすらなってくるぜ」
「なんだいそれ、全く理解出来ないんだけど。わかるように言ってくれないかな噛ませ犬くん」
その言葉を聞いて俺は口を歪ませて気分良く、闇霧の野郎に指を向ける。
「お前みたいな偉そうな奴を泣かすのは、気分が爽快になるって言ってんだよ」
俺の言葉を聞くと、初めて闇霧は不快そうな顔を見せてくる。ようやくそういうツラ見せやがったか、少し気分がいいぜ。
「小者にそういう偉そうな言葉を言われると、なんだか気分が悪いね」
「そうか、俺はかなり気分がいいぜ。人の弱み見つけたような嬉しさには劣るけどな」
「……クズが……!」
「るせぇよ、モヤシウナギ」
お互いに罵倒の言葉を交わす。そして同時に、互いに戦闘体勢に入る。奴は雷剣を、俺は拳を構える。
「いいだろう、そうまでここで力量の差を思い知りたいというのなら教えてやる。そして神秘なる神雷の稲妻で恐怖を刻ませてやる!」
「何を電気使う程度で偉そうにしてやがる。テメェのその慢心を中心からぶち壊してスイッチをオフにしてやるよ、モヤシウナギ!」
「やぁぁってみろよぉっ!」
叫び声と共に、奴は俺に向かって雷剣を振り下ろした。