練習部(仮)の始動
「よし、早速組み手しようかレンガ!」
数分も経たないうちに、体操服を着用して楽しそうに更衣室から出てきた。それを見た反川は真剣そうな顔で言う。
「サクちゃんはブルマを選ばなかったのね、酷く悲しいわ……」
「何言ってんだお前」
「貴方のような見る目のない男には関係のないお話よ」
「そうかよ」
こいつも足野郎みたいによくわからんとこがあるな……。ともかく、せっかくやる気満々になってんだ、組み手とは言え思いっきりぶっ倒してやるか。
俺はワイシャツを脱ぎ、肩を回す。
「言っとくが、組み手だろうが負ける気はねぇぞ黒日々」
「ああ、勿論本気でかかってきてもらって構わないぞ。互いの悪い部分を見極めて戦う、それこそに意味があるのだと私は思うしな」
「けっ、何を真面目そうなこと言ってんだか。テメェを圧倒して勝てるようになりゃ、強くなったって言えるだけの話だ。すりゃあ、俺が部活にいる目的が一つ消えるしな」
「そうか。ではその点においても、負ける訳にはいかないな」
黒日々は微笑み、ズボンのポケットからカラクリ刀を出して刃を出す。……相変わらず、対峙した時に限ってはこいつも惚けた態度をみせねぇ。こういう時のこいつは、嫌いにはなれねぇ。
俺は反川のいる場所から離れ、金髪の椅子が置いてあった広い場所へと歩く。
「あの時は油断して負けたが、今回はそういかねぇぜ黒日々……!」
俺は拳を強く握り、構えると。黒日々も同様に刀を構える。
「ああ、私も負ける気はない」
へっ、抜け抜けと言い抜かしてくれやがるぜこの野郎は。
「さぁ行くぜ……本気の力ぁ、見せてやるよ!」
俺は左足を踏み込み、黒日々へと一気に駆け出した。
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「小者のような台詞を吐いて負ける。これはもう様式美でもあり、お約束でもある。そう思わないかしら? 今日関レンガ」
「うるせぇこの性悪女……」
数十分後、俺は黒日々に敗北した。二度目はないはずだが負けてしまった。あまつさえ、反川にこんなムカつく言葉を吐かれてしまう始末だ。
「でも貴方があまり強くないのはありがたいと思ってるわ、サクちゃんに怪我しないで済むのだから」
「つくづくムカつく女だなテメェは……つうか、そのサクちゃんってのはまさか黒日々のことか?」
俺が反川に対して尋ねると、汗をかいてスポーツドリンクを飲む黒日々が突如こちらを向いて嬉しそうに、
「なんだ!? 私をサクちゃんと呼んでくれるのかレンガ!?」
などと言ってきた。なので俺は拳を突き出し、親指を出す。すると黒日々は更に嬉しそうな表情をしたので、一気に拳をグルリと約180度に回転させるとショックを受けたような顔をする。何を勘違いしてんだコイツは。
「そうやって二人で楽しそうにして……見せ付けているのかしら、今日関レンガ」
「これが楽しそうに見えてるってんならお前は眼科行った方がいい」
「安心しなさい、私の視力は2.0よ」
「そう言う意味じゃねぇよこの節穴女」
こいつもどっか抜けてんじゃねぇかと思いながらも、俺も用意されていた水を飲む。なんで俺が水で黒日々がスポーツドリンクかを用意した反川に聞きてぇがな。
「不服そうな顔してるわね。貴方に用意してあげただけでもありがたく思いなさい」
「けっ、偉そうに……」
「あら、いらないの? だったら返しなさい、今すぐに」
「別にいらねぇとは言ってねぇだろ!」
俺は取り上げようとしてくる反川の手から俺の水を遠ざける。すると反川はあさっての方向を見ながら、
「ふぅ……全く、母親の大変さが少しわかった気がするわ」
とか悟るような表情で言い抜かした。やっぱコイツとも気が合う気なんて微塵もしねぇ……!
こうなったら、この怒りを原動力に黒日々をぶっ倒す!
「だぁぁっ! 黒日々! もう一回勝負しやがれ! 次は叩きのめす!」
黒日々に指を差して叫び気味に言葉を発すると、なんかしらねぇが落ち込んでいた黒日々は表情を一変させ、不遜な笑みを見せながら口を開く。
「ああ、それじゃあ二回戦目と行こうかレンガ」
俺はその笑みにニヤリと返す。さっきの戦いで黒日々の動きは見切った……次は叩きのめす!
そう思って立ち上がった瞬間だった。
「何をしているあるカァー!」
突拍子もない裏返りそうなうるさい声が扉を荒々しく開ける音とともに聞こえる。うっせぇなと思いつつ扉の方を向くとそこには。
鼻息を荒くし、最初から悪い目つきを更に悪くしているジト目ウザチャイナ、万里チュウカが立っていた。