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決まったものは仕方が無いのが仕方ない

「……うん、私もついムキになってガレキくんと二人がかりで攻撃したのは悪いと思っている。でも――どうして戻ってきたら突然ボクシング部と練習試合という話になったんだ!?」


黒日々は驚くように言ってくる。あー、うるせー。


「別に誰と戦おうがいいだろうが、もしかしてビビッてんのか?」


「そ、そういうわけじゃないが……」


「ならいいじゃねぇか」


「結果的にはよくても、相談の一つも無しに取り付けてくる貴方の態度に呆れてるのよサクちゃんは」


反川が呆れるような溜め息を吐いてくる。どうしてコイツは挙動の一つ一つがムカついてくるようなものなんだろうか。


「ボクシング部と言ったら、拳での攻撃主体の部活。確かに部活としては中堅どころだけど、部長の内後枝ダレン先輩はランクBの実力者。並大抵じゃないわよ」


「相手は強ければ強いほどいいだろよ」


「貴方が闘うなら私も大歓迎だけど、サクちゃんが戦う可能性もあるのよ。自動回復があるとは言え、あのランクSの五人のようにそれをも超えるような人かも知れないというのに」


「そんなん超える奴がホイホイいるんだったら保健室にあんな寝言しか言わない行き遅れ一人しかいないわけねぇだろ」


「その言い様はちょっと酷いぞレンガ」


「事実だろうが」


何を気を使って言う必要があるんだか。気を使いすぎだ黒日々は。


「まあ貴方の場合は医薬野先生のような愛嬌もないから永遠にその股間の物体を異性に使う機会はないでしょうけど」


「ああ? テメェの股間部も異性に使われる予定なんかねぇだろうがこの淫乱性悪女」


「なっ……い、淫乱じゃないわ!」


「自分から下ネタ振っといて何赤くなってんだテメェは」


よっぽど恥ずかしかったのか、顔を俯かせる反川。……なるほどな、コイツ下ネタに弱いのか。今度から黙らせる時はこれを使うとすっか。いやー、人の弱点を見つけると気分が良くなる。


「つうかハゲはどうした。帰ったか?」


「いや、ガレキくんなら……組み手していたらいきなり鼻血を垂らして倒れてしまったから保健室に行ってるよ」


「そうかよ。もしかしてついにお色気戦法でも使い始めたかお前」


「そ、そんなことするわけないだろう! 私にそんな色気はないし、そんなことしたらむしろ逆に怒らせてしまうじゃないか!」


「いいえ、私なら喜ぶわサクちゃん」


「淫乱女は黙ってろ」


「――っー!」


再び俯く反川、うわっはっはっは、性悪女を黙らせんのは気分がいいなぁマジでよ。


「レンガ……あんまりシズネをいじめちゃ駄目だぞ?」


「さぁーなー、まあ態度を改めれば考えてやらねーこともねぇかなー」


「むう……だったら私にも考えがあるぞ?」


「考えぇ? お前に思いつくような考えなんてたかが知れ――」



「レ、レンガくん。わ、悪いことばっかりしてると……めっ、だぞ?」



…………あ?


「何してんだ、お前」


なんだその前かがみのポーズとウィンクとわざとらしい声は。アイドルの真似かなんかか。


「な、何って、ヒカリちゃんから教えてもらったレンガをイチコロで萌えさせるポーズと台詞、なんだが……や、やっぱり私じゃイマイチなのか……?」


「ほお、またあの馬鹿か……!」


またつまらんことを吹き込んだじゃねぇかあの大馬鹿幼なじみは……! 次会う時はケツ引っぱたく必要がありそうだな……!


「うっ……な、なんて破壊力……!」


「シズネ!?」


しかし、それがちゃんと効いた馬鹿もいたようだ。鼻血がダラダラと流れ始めている。やっぱこの部活は馬鹿しかいねぇのか……。


+++++


数分後、保健室から戻ってきた的上も含め、改めてボクシング部との練習試合について話すこととなった。ちなみに的上と反川は鼻にティッシュを詰めていて実に滑稽な顔である。ちなみに床は黒日々が拭いた。


「俺がいないうちにサクヤがそんなことをしていたとはな……」


「そ、その話はもう止めてくれ!」


さっきのアホポーズのことに言及する的上に慌てふためく黒日々、口調がいつも通りになる程度には的上のことも慣れてきたみてぇだな。


「それにしても、まだ部にもなっていない部活と勝負を挑むなんてよっぽど今日関レンガが目障りなのね」


「まあそうだろうよ、いつの時代も年下が台頭してくると潰したがってくるもんだ」


「いえ、普通に貴方自身が鬱陶しいという意味よ」


「お前は常に俺を見下さないといけない病気にかかってんのか性悪女ぁ……!」




「ま、まあまあ落ち着いてくれ二人とも。それよりもボクシング部との戦いだ。私とガレキくんとレンガしかいないのだが、大丈夫なのだろうか?」


「そんぐらいアッチも承知済みなんじゃねぇか。仮に的上のことを知らなくても、ボクシング部員なんて部活の最低規定人数の何倍も数いるだろうから問題ねぇだろ。いざとなれば俺一人で全員ぶっ倒してやるよ」


「無理だろ」

「ええ、無理ね」

「流石にレンガ一人は難しいだろうし、私も戦いたいから許さないぞ?」


コイツら……どこまで俺を見くびりゃ気が済むんだ……!


「と、ともかくいつか分からないが近いうちには違いないはずだ。練習試合とはいえ、私達は練習部だ。本業で負ける訳にはいかないし、頑張ろう!」


「それはなんかちげぇだろ……だが、負けねぇのは当然だ。ついでに、てめぇらに改めて実力の違いってのを教えてやるよ……!」


「ふん、向こうに知らされて終わりということにだけはなるなよ今日関」


「偉そうにいってんじゃねぇハゲ」


「ほう……さっきのだけじゃ足りなかったようだな……もっと力の差を教えてやろうか」


「さっきのはほとんど黒日々がいたから勝てたんだろうが、テメェ一人なら瞬殺出来るに決まってんだろオラァ……!」


「ならやってみるか……!」


「上等だオラァ!」


その言葉をキッカケに、俺と的上は殴り合いを始めた。行き先不安だ……とかいう黒日々の言葉が聞こえた気がするが、目の前のハゲを叩きのめすことに集中した。

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