部活完成まであと少し
「あと少しか……」
放課後になり、俺は少し昂ぶっていた。
馬鹿面の能天気女、性悪ろくでなし女、ハゲゴリラバカ。使えない面々であることにはゆるぎねぇが、それでもあと一人で部として承認される。ふふふ。
そんで高戦会の個人戦には出れる。団体戦には出れないが、こいつらとじゃあ団体戦なんて話にもならねぇだろうからかまわねぇ。へっ、楽しみになってきたぜ……その為にも、まずは黒日々の野郎を潰して俺がこの部内最強ってことを教えておかねぇとな。
そう考えた時に、ちょうど黒日々とハゲゴリラとの手合わせが終わる。黒日々は倒れている的上に刀を向けている。
「ふう、これで決着……でいいか? 的上さん……いや、くん? じゃなくて、ちゃん?」
「ガレキでいい。いや、参った……強いな」
「いや、ガレキ……くんも強かったです。こんなにも強い部員が入ってくれて、私も嬉しい。それと……私のこともサクヤでいいです」
どこか清々しそうな顔をして、んなことを言い合う黒日々と的上。けっ、なんだありゃ。
「はっ、何が強いな、だよ。テメェが弱すぎるだけだろうが」
「最弱が何を言ってるの」
イスに座りながら茶々を入れてくる性悪女。このアマぁ……!
「誰が最弱だオイ、テメェの方が雑魚だろうが」
「私を数に入れてまで最弱になりたくないのね。つまり二人に劣ってるのは既に自覚済みだったってわけね。意外だわ」
「そう言う意味で言ってんじゃねぇよこの性悪女……!」
好き放題言ってくれやがってコイツ……! けっ、いいだろうよ、今ここで誰が最強かを教えてやるぜ!
「おい黒日々! 的上! テメェらまとめて俺にかかってきやがれ! 誰がこの部内最強かを教えてやる!」
「何言ってんだお前は」
「私とガレキくんがレンガに向かっていったら絶対勝ってしまうぞ?」
こいつらぁぁぁ……!
「ほんと、愚かしいわね今日関レンガ」
「うっせぇっ! 四の五の言わずにかかってきやがれ!それとも……逃げる気か? てめぇら」
「……低いレベルの挑発ね、どこまで愚かしいの今日関レンガ」
呆れるようなため息をはきやがる反川。――だが、だ。
「……そうまで言われたら戦わない訳にはいかないな」
「ふん……後悔するなよ今日関」
馬鹿二人をやる気にさせるには、十分だったらしい。
「へっ……圧倒的な実力の前に沈んでもらうぜ、テメェらぁ!」
++++++
「くっそ、アイツらマジでかかってきやがって……!」
数十分後、俺は見事に奴らにタコ殴りにされた。このまま負けて部室にいるのもシャクだった俺は、校内の自販機へ向かっていた。相変わらず気のきかねぇあの性悪女め、俺の分だけ常に水を差し出してきやがって。たまには炭酸でも寄越せってんだ。……ん?
「何してんだ、おまえ」
自販機の目の前には、大量の缶を持って歩こうとしていた小学女がふらつきながら歩いていた。
「あっ、今日関くん。そっちこそどうしたの?」
「気のきかねぇ性悪女が使えないから自分で飲み物買いに来たんだよ、テメェはパシリか?」
「違うよー! みんなの分の飲み物を買ってきてって言われたから買いに来たんだよ!」
「それを世間じゃパシリってんだよ」
「ううっ、そうとも言うけど」
しかし、女をパシリに使う部活ってのも珍しい。
「なあ、お前もしかしてマネージャーなのか?」
「ううん、そんなことないよ! 私は名実共にレギュラーだよ!」
「レギュラーのような立場にはみえねぇけどな」
「ひどっ!?」
と言われても実際にそう思えねぇから仕方ないだろうが。
「ふ、ふーん、そうまで言うなら私と勝負する? 今ならやってあげたっていいよ?」
「ほぉ、そりゃわかりやすくて結構だ……!」
ちょうどいい、さっきあいつらにボコられたフラストレーションもついでに解消させてもらうとすっかね……!
「んじゃあ早速やろうじゃねぇか。その飲み物置け、とっとと勝負を――」
「ちょっと待て!」
「ああ?」
誰だ、いきなり叫んできた奴は。
声の聞こえた方向を見る。そこにはボクシンググローブをつけた男が立っていた。
「あっ、部長!」
「部長ぉ?」
ってことは、コイツが小学女の入ってる部活、ボクシング部の部長さんって訳か。
「おもしろいことをしているじゃないか火元。その話、もう少しおもしろくしないか?」
「いきなり現れて何を言ってんだテメェは」
「おっと、すまないな今日関レンガ。俺は三年の内後枝ダレン。ボクシング部の部長だ」
「んなこと話の流れからわかってんだよ、んで、わざわざ勝負邪魔してきた理由はなんだ」
「ああ、そっちか。――なあ今日関、ボクシング部とお前の部活で勝負をしないか?」
「勝負だぁ?」
「ああそうだ」
「……する理由がわからねぇなぁ。テメェも俺が噛ませ犬だってことは知ってんだろ?」
ん、待てよ? ってことはコイツはほんとに噛ませ犬として俺と戦おうとしてるってことか? 舐めやがるじゃねぇか……!
「そんな噛み付くような目でみないでもらいたい。今日関、お前の噂は聞いている。あの闇霧と引き分け、万里姉妹とも互角の勝負をし、田儀と比土にも勝ったそうじゃないか」
「どっから聞いたよ、んな話」
「勝負事は黙っていても気迫が伝わり聞こえてくるものだ」
「何言ってんだお前」
風の噂と普通に言えばいいものを。
「そんな噂を聞いたら、闘いたく――いや、出る杭を叩いておきたくなってくるだろう……?」
「……へぇ、建前もなく本音で真っ直ぐ言ってくるじゃねぇか」
つまり、一年の俺らが噂になるのはただただ目障りってことか。へっ、よくあることだな。
「……いいぜ、やってやるよ。他の部活の平均的な実力ってのは知っといて損じゃねぇからな」
「平均的とは……言ってくれるじゃないか今日関くん」
部長さんと俺はにらみ合う。確か三年だとも言ってたな、どこまでもちょうどいいぜ、三年とはほとんど戦ったことがなかったからな、学年は関係ねぇってのはわかるが、それでもやれるってのはいいことだ。
「ち、ちょっとまってください部長! 私、部活を巻き込んでまで今日関くんと戦いたいなんて思ってないですよ!?」
しゃしゃり出るように小学女がボクシング野郎に言う。何を邪魔してんだコイツは。
「火元、お前には言っておかないといけなかったな」
「えっ?」
「これは、お前への最後のチャンスだ」
「……どういう、ことですか?」
「率直に言う――彼らの部活との戦いの際に、君が負けたら退部してもらう」
ボクシング野郎のその言葉を聞き、小学女は青ざめた顔をする。
「たい、ぶ……?」
「そうだ。理由はわかるな?」
「わ、わかりません」
「……そうか。いや、知らない方がいいのかもしれないな」
どこか遠い目をするボクシング野郎。退部ねぇ、コイツ相当な厄介者だったわけだ。大方、人の弁当を毎度食べるとか言うことでもしてたんだろう。
「だが、お前が結果を見せればそれを取り消す。それだけの実力があると判断してな」
「は、はい! 私、頑張ります!」
「……そのやる気は俺も好きではあるんだがな」
はぁ、と溜め息を吐くボクシング野郎。どうにも、無駄に入り組んだ事情っぽいな。
まあ関係はねぇ、ボクシング部との練習試合……やってやろうじゃねぇか。
「時間と場所はどうすんだ。今からでもいいぜ」
「ふっ、慌てるなよ今日関。時間と場所は俺が指定する。願わくば、逃げないことを期待する」
「誰が逃げるか」
「……今日関くん、私、絶対負けないからね……!」
睨むようにこちらを見る小学女。心なしか、その目が燃えているように見える。いいやる気じゃねぇか……屋上の時のやる気の無さから上出来なぐらいに変わってやがる。
「けっ……例え幼児体系だろうが俺は手加減しねぇよ」
拳を握りながら、俺はそう言い放っ――
「うわぁぁぁん! また幼児体系言ったー! 部長ー!」
「こら今日関、事実だろうとも女子にはもう少し気を使え」
……言い放ったら、小学女は泣き、ボクシング野郎に窘められた。……少しは闘志燃やして対抗して来いよ……!




